ニャンブラーとニート(N&N)

@nyanbler

第1話 出会い

静かな森の中


遠くから水の流れる音がかすかに聞こえる

ひんやりとした風の中に自然の香りが漂う

懐かしい感覚が土の香りとともによみがえる


男は下を向いて立ち止まった。

「なぜ自分はここにいるのか?」

子供の頃森の中で感じた感覚とは変わっているが、

嗅覚が子供の頃の記憶を呼び覚ました。

その記憶は何の心配も不安も無く純粋に日々を楽しめた

子供の頃の記憶であった。


「なぜこうなった・・・」

男は空を見上げると、木洩れ日が目に入った。まぶしさはもう無い。

男は倒れた枯れ木に腰をかけてラジオのスイッチを入れた。

「・・・ツヅイテハ、・・・のユメヲミタ」

男はラジオを枯れ木の上に置いてまた空を見上げた。

ラジオから流れる曲は男のお気に入りの曲であった。

「最後に神からの贈り物か・・・」


手が届きそうな所に枝が伸びているのに気づいた。

おぼつかない手で男は枝にロープを縛り、自分の首にも巻きつけた。

「もういい・・・。苦しみは終わる・・・。無の世界へ行こう・・・

もしかして、異世界にでもいけたらいいな・・・。でも俺のことだから

どの世界でもうまくいくわけないよな・・・。」

男は目を閉じ自嘲的な笑いを口元に浮かべながらロープに体重をかけた。

一瞬の静寂が男を包んだ。


「・・・ぐ?!」

くるしい!なぜだ!首吊りは苦しくないってみんな言ってるじゃないか!

男の体はまるで強風に揺られるテルテル坊主のように大きく揺らいだ。

「ぐぐぐぐぐ・・・・」

すぐに意識を失って苦しくないはず!なぜだ!なぜこんなに苦しい!

苦しくないって言われてるじゃないか!!!

頭の中をぐるぐると「こんなはずでは」という言葉がよぎる。

その言葉はすぐに「死にたくない」に代わっていった。

「ォォォォォ・・・いゃだ、じにたくなぃ!」

意識が薄れていく中で男は必死にもがいた。


「ぐ!」

男の体は地面に崩れ落ちた。枝が折れたのであった。

男は首にまきついたロープを急いではずしたが呼吸が苦しい。

息が出来ない。

「!!」

男は木々の生い茂ったほうに目を向けた。

何かがいる!何かが草木を揺らしている。

「なんだ!」男は息を呑んだ。


野生動物・・熊か?逃げられるか?でも体が動かない!そらはもう薄暗い!

いやだ、生きたまま食われるのはいやだ!

いやだ、いやだ、いやだ、死にたくない!

男はその茂みと逆のほうに這って逃げ出した。

気配で何かがすぐ後ろまで近づいてくるのが分かる!男は木の枝をつかんで

後ろに投げた。

「あぶねー」

その謎の生物は枝をかわした。

男は恐る恐る後ろを振り返るとそこには人間が立っていた。

その人間を見て男は安堵し、ふと思った。この人は誰かに似ている。

ああ、あれだ、大仏様・・・・。

男は大人になってから初めてこの言葉を言ったような気がする。


「たすけてください・・・。」

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