さっさと大人になれ

悠里ユーリも来る?」


一人あぶれた悠里に、アオが声を掛ける。すると彼も、


「うん♡」


と素直に応え、椿つばきと並んでアオの膝に収まった。これも、実年齢で十三歳、精神年齢では高校生くらいだからといって無駄に反発しない。


いくら身体能力では既に人間のトップアスリートに比肩するだけのものを持っていると言っても、未熟であることに変わりはない。人生経験の面では、母親であるアオの三分の一以下。三ケタにも届こうかという父親のミハエルと比べればそれこそ七分の一以下の経験しかない。


加えて、本心ではまだまだ母親に甘えたい気持ちも残っているのだから、それを無理に抑えることもしない。なにしろ、満足すれば勝手に治まるものだし。


しかも、悠里と安和あんなの場合は、人間以上に精神的に満たされなければいけない決定的な理由があった。


それは、二人が吸血鬼と人間の間に生まれた<ダンピール>だという事実である。


ダンピールは、<怪物>と恐れられる吸血鬼が自身のルーツであることに極めて強い忌避感を持つ事例が非常に多く、それが基で憎悪を募らせ、かつては数々の不幸を生み出してきてしまった。


そんなダンピールが生まれる可能性が高いことを承知した上でミハエルとアオは子を生したのだから、それに対する責任は全面的に二人にある。決してダンピールという生を受けたことについて二人を不幸にしてはいけないという大前提があった。


だから余計に、自分が生まれてきたことに対して苦痛を与えるわけにはいかなかった。『生まれてきて良かった』と思わせる必要があった。


そしてミハエルとアオにはそれができた。


二人のことを全面的に受け止め、


「生まれてきてくれてありがとう」


という気持ちが伝わるように努力ができた。


『面倒臭い』


『そこまでやってられない』


などと考える親も決して少なくない中、


「僕達の勝手でこの世に送り出してしまうんだから、それについてすべての責任を負うのは当然のことだよ」


ミハエルはそう言い切った。母親のアオも、


「面倒臭いとかやってられないとか、そんな甘ったれたことを言う親なんて、私は信頼できないからね。自分が信頼できないような親に自分がなっちゃおかしいでしょ」


と言って、その覚悟を持って二人に接してきた。


だから、


『さっさと大人になれ』


なんて言わない。言わなくても子供はいつか自分で考えて行動するようになる。親とは違う別の一個の人格なのだから。


甘えたいのなら甘えさせる。


その一方で、子供が自分で何かをしようとしている時には、余計な口出しをせずに見守るだけにとどめる。何もかもを先回りして親がやってしまったりしない。


そういう<過干渉>が、子供の自立心を削ぐことを、ミハエルもアオも知っていたのだった。


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