GINZA S[AIUEO]X

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 ギンザシックスというくらいだから銀座口でいいのだろうという安易な考えのもとで、俺はJR新橋駅を出た。出てからポケットに手を突っ込んで、スマートフォンを引っ張り出す。知らぬ間に届いていた姉からのメッセージを覗いてみれば、ご丁寧にもこんな文句が書かれていた。

「あんたのことだから降りる駅は新橋だろうし、これを見ずに銀座口から出ちゃうんでしょうね。仕方ないからそこからの道順くらいは書いておいてあげるわよ。違ってたら知らん、あとは自分でなんとかしろ」

「どう? 優しいでしょ?」とのたまう姉の姿が目に浮かぶ。思わずスマホごと握りつぶしたくなるが、それをしてしまえば俺は確実に路頭に迷うことになる。それに、こういった扱いはいつものことなのだ、はしから目くじらを立てていては俺の身が持たない、今日という日はまだ長い。

 続けて書かれた「目の前の横断歩道を渡ってそのまま直進。大きな通りにぶつかったら左折。歩行者天国の真ん中右」という標にそって、俺は歩き出す。

 どれも大きな通りに見える俺からしてみれば、運よく歩行者天国に行き着いたことは称賛に値することなのではなかろうか。多国籍な雑踏に混ざりながら歩く道路の真ん中で、多分な高揚感に打ち震えながら、右を向けばそこには待ち望んでいたアルファベット四文字が刻み込まれていた。


『GSIX』


 そこが目指すべきギンザシックスだった。

 眼前に広がる大きな四角形は、左右のみならず上にも伸びていて、見上げれば首が痛くなる。しかし思っていたほどの派手さはなく、向かいのユニクロのほうがよほど色彩を持っていた。ただ、だからこそ、その佇まいからは、銀座という街と地続きになっている得体の知れない緊張感が、そこはかとなく漂ってくるように思えた。

 姉の話を耳にして、いても立ってもいられなくなり、こうしてここまで来てしまったが、すでに目的は達せられてしまったのだった。

 俺はひとりでギンザシックスに来たかったのだ、それだけだった。

 姉から強引に購入リストを渡された気がしないでもないが、つまり姉の口車にまんまと乗せられてしまったということになるのだが、だというのにこうして銀座の地に足を着けて、普段は車の行き交っているであろう車道の真ん真ん中に立って、銀座の名を冠した建物を見上げながら、痛みとともにまるでなにかを成し遂げた気になっている自分の、いかに哀れなることか。

「このままいいように使われていていいのか?」という義憤に駆られて、俺はとうとう決意する。

 ギンザシックスの頂点に立ち、そこから姉を見下してやるのだ。

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