第236話 思い出

最終日の夜、俺と真昼は肩を並べて一つのスマホでアニメを見ていた。


見ているアニメは数年前の作品だ。


俺たちが小学生の頃に放送されていた作品。


その作品は特に人気になった作品というわけではなく、全くパッとしないアニメだった。


正直アニメの名前を聞いて『あー、そんなアニメもあったな』ぐらいの作品だ。


もちろん俺も放送されていた頃は全話見ていたはずだが、正直内容なんて何も覚えていない。それぐらいの作品だということだ。


ではなぜこのアニメを見ているのか。


それは真昼がわざわざこのアニメが見たいと言ってきたからだ。



部屋についた俺は勉強をすることもなく、ベッドに寝転びながらアニメを見ていた。


そんな中、真昼が部屋に入ってきてからの一声目がこれだった。


「京くん、今日はアニメ一気見しよ!」


俺はものすごくその言葉が嬉しかった。


昔は毎日毎日2人でアニメばかり見て育った。


でも今では、髪も茶色に染めていてめちゃくちゃ可愛くなっていた。


それに比べて俺はまだアニメやラノベから離れられずにいた。


天と地の差だった……。


でも……、今は少しは近づけた気がした。


それがものすごく嬉しかった。なので、


「いいぜ!寝たいって言っても寝かせないからな?」


俺は真昼に返した。


自然と笑顔が溢れていることにも気がついた。


それで俺たちは一つの作品を見終わるまでは眠れないというルールを作った。


あとは作品だ。


真昼に聞いたところ最近はアニメなどは全く見ていなかったらしい。


だから、最近見ていて面白かったアニメにしようと思ったのだが、真昼からリクエストがあったのだ。



それが今見ている作品だ。


よく何年も前の作品を覚えてたなぁ。名作ってわけじゃないのに。


そのアニメは12話構成のアニメだった。


単純に計算したら一気見しようと思ったら4時間以上かかる。


今は8時だから、寝るのは12時を回ることになりそうだな。


「本当にこの作品でいいんだな?正直途中で飽きるのが目に見えてそうなんだけど」


このアニメってそんなに真昼が好きだったりしたかなぁ。全く記憶にない。


「ううん、この作品がいい……」


真昼は俺の目を見ることなく言う。


それなら仕方がない。俺も心を決めた。


よし、どんなクソ作品でもかかってこい!



「クソアニメだなぁ……」


「クソアニメだねぇ……」


6話、作品の半分を見終えたので、軽く休憩を取った。


俺たちの見た作品は見事なクソアニメだった。


作画もキャラの声も何もかもが安っぽかった。


「てか、よくこんな作品覚えてたんだなぁ。俺は普通に忘れてたわ」


俺は素直に聞いた。なぜこんな作品を真昼が選んだのかを。


「やっぱり覚えてなかったか……」


真昼は少し寂しそうに言う。


「ん?この作品ってなんかあるのか?」


正直この作品に何かあるとは思えない。こんな駄作に何の意味が?


真昼はゆっくりとこっちを向き、そして言った。


「この作品はね、私と京くんが初めて最初から最後まで一緒に見た作品なんだよ」


真昼が優しく微笑む。


「そうだったのか……。俺たちが初めて見たアニメがこれか……。よくアニメとか好きになったな?」


正直6話時点でだが、このアニメを見てアニメというものにはまる気がしない。


ある意味真昼はすごいのかもしれない。


「うん、確かにクソアニメだったけど、私からしたらこの作品は1番思い出のある作品だからね。毎話毎話2人でクソアニメだねって言うのが楽しくてさ。それでアニメを見始めたんだ。そしたら、結構ハマっちゃった」


今の笑顔で喋る真昼の姿を見ると、昔の光景が思い出してきた。


毎日毎日2人でアニメばっか見ていたあの時のことを……。


「そんなこともあったな。よし、そろそろ残りの6話行くか!」


「うん♪行こう!」


俺たちは昔のように両肩をくっつけ一つのスマホを眺め続けた。



「「クソアニメだったー!ははははははは」」


最終話のエンディングが流れた瞬間俺たちの声はハモった。


まあ、それも仕方がない。


1話から最終回まで全てがクソだった。


それを2人が満足いくまで話し合った。


いつの間にか夜であることも忘れていた。


「はぁ……。めっちゃ楽しかったな!」


「うん!とっても楽しかった!」


時計の針は2時を指している。


でも全く眠たくない。


もっともっと語りたい!


「この話の続きはまた帰ってからにするか」


「そうだね、これからは他の作品とかも一緒に見ようよ」


「ああ、俺は全然いいぞ!てか、こっちこそ頼むわ」



俺たちはベッドに移動する。


「また、一緒にアニメ見ようね……?」


電気も消したので真昼の顔までは把握できないが、若干声が小さくなっている。眠くなってきたかな。


「ああ、さっきも言っただろ?俺からも頼むよ」


「うん……」


その数秒後には真昼の寝息が聞こえていた。


変わってないなぁ……。


昔はぼっちだった真昼は俺だけには素でいてくれた。


家が近かったこともあり、毎日毎日遊んでいた。


真昼は結構感情が表に出やすいタイプだ。


だから、小学生の頃は友達もできていなかった。


その当時は俺はこいつを守ってあげないといけないと思っていた。


それと似たような感情が今……。


あれ……?

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