第234話 約束

今日、私は大人の階段を上る。


まさか本当にこんなことになるなんて思ってもいなかった。


京くんはなんだかんだでそんなことはできない人なんだと思っていた。


しかし違った。やっぱり男の子だった。


『いつしたい?』と聞いた時に、まさか『今日』と即答されるとは思ってもいなかった。


しかし、京くんは即答した。


やっぱり男の子だった。


一応この合宿の前にどういうものなのか少し動画を見て学んだ。


最後まで見ていられなかった。


世の男はみんなこんなことがしたいんだ。


てか、ゴムをバッグに入れていた私も私だ。


そんなの他の人に見つかったら、私が変態みたいになってしまう。


どうしてそのことに気づかなかったのだろう。


まあ、やると決めたならば、やる。


それが私のモットーだ。


子どもができるというわけではない。


それで京くんが喜んでくれるなら我慢しよう。



私はお風呂に出た後、ちゃんとパジャマを着てから脱衣所を出た。


先ほども言ったが、他の人に見つかったら私が地に落ちてしまう。それだけは阻止せねば!


何事もないかのように廊下を歩き、部屋の前に着いた。


ふぅ……。


私は呼吸を整える。よしっ!


わたしは扉を開けて言った。


「それじゃあ、始めよっか」


しかし開けた時、ちょうど京くんがゴムを手にしている時だった。


えっ?!まだつけてなかったの?!


「あの、くるみ?」


「な、なに?!」


思わずゴムを見て動揺してしまった。


京くんの目は『???』みたいな顔をしていた。


「これってなんの冗談だ?さすがにこれを使ってからかったりはしない方が……」


京くんはわたしのことを心配してくれているのか?


あれ?何かがおかしい気がする。


「ん?あのさ、一応聞いておくけど、今日言ってた約束って何のことだと思ってる?」


これは何かがおかしい。そんな気がする。


「ん?ラノベを買ってくれたんじゃないのか?」


京くんは冗談を言っているような顔ではない。


本気でそう言っているらしい。


「そんな約束した?いつ?」


「肝試しのとき、多分したと思うんだけど……、あれ?間違ってたか?正直そこまではっきりと覚えてるわけじゃないんだけど……」


どういうことだろう……。


ここ数日私は何を見ていたのだろうか。


わざわざ今日のためにエッチな動画を見たというのに。


それに、このゴム買うのにどれだけ変装したと思ってるの?!


わざわざメガネをかけて、それにマスクもして、髪型も変えて、そして結構遠くこ薬局まで行ったんだよ?!


でも、今考えれば、京くんの言っていたことも理解できる。


一個っていうのは一冊ってことで、激しいとか言っていたのは、ジャンルがそういうのって話だ。


全てが理解できた。てか、なんで『一個』なんて言ったの?紛らわしい!


なんだかちょっぴりムカつく。


まあ、京くんがそこまで性欲の塊みたいな人じゃなかったのはよかったけど。


それに、私が枕の下にゴムを置いていたのを見て、心配までしてくれた。


せっかく私に話を合わせておけば、やれたかもしれないのに……。


やっぱり京くんは肝心なところで一歩踏み出せないタイプなのかな。


それなら、今度はこっちから攻めよう。


今からは私の土俵だ!


私はあの日あったことを全て話した。



「どうもすいませんでしたああああああ!!!!」


それは見事な土下座だった。


しっかりと頭を床に押し付けていた。


なんか楽しい。


ここは何言っても大丈夫そうだし、デートにでも誘ってみようかな。


「それじゃあ、許してあげる代わりに私の言うこと一つ聞いてくれる?」


「はい、なんでも聞きましょう」


京くんは即答。まあ、こうなることはわかっていた。


京くんってほんとに返事とか何も考えてないよね。


現にこのことも適当に返事したことが原因なわけだし。


ここで私が『私と付き合って』って言ったらどうするつもりなのかな。


まあ、そんなことはしないけど。


「それなら、私とデートしようよ」


だから、私は正々堂々戦う。


京くんは顔をあげる。


「くるみってほんと軽々とデートとか言うよな。俺たちは別に恋人ってわけじゃないんだから、デートとか言わない方がいいぞ。そんなことしてたらみんなに勘違いされるぞ?」


京くんは私に教えるように言う。


違うんだよねー。


少なくともこの合宿メンバーのまっひーと愛月ちゃんは勘違いじゃないってこと知ってるんだよねー。


「じゃあ、付き合ってなかったなんて言うの?」


「お出かけ……とかじゃないのか?」


「そっか……。それじゃあ今度、最後のお出かけをしよっか」


最後の……ね?


「ん?まあ、別にいいけど」


京くんは特に気付いてもないんだろうなぁ。


私が京くんのことを好きだということに……。


でもね、ちゃんと伝えるよ。


最後のお出かけの日に……。



お出かけの約束を終えた私たちは、勉強をした。いや、させた。


もう少しで勉強合宿も終了だからね。


楽しい夏休みにするためにも今頑張っておかないとね……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る