第141話 離されない手

お化け屋敷を出た俺たち2人は、近くのベンチで死んでいた。


なぜかと言うと、遡ること5分前。



俺たちはお化け屋敷を出たあと、出口の前で膝をついた。精神的に色々とやばかった。


しかし、再び立ち上がり、俺たちは残りの力を振り絞ってフラフラと歩いた。


手はしっかりと繋いだままだった。しかし、これはお化けが怖いとか恋人だからというよりかは、お互いに倒れないように支えているような感じ。言ってしまえば、お互いに介護し合っているようなもんだ。


こうして、なんとかベンチへと辿り着けたというわけだ。


そして、今は2人とも放心状態。


あのお化け屋敷めっちゃ怖かった。


二度とお化け屋敷なんて行くかと心から決心した。


5分ほど休んだだろうか。徐々に落ち着いてきた。


「真昼どうだ?もう少し休むか?」


「……うん?あ、うん、大丈夫だよー…」


明らかに元気なくなってるじゃねえか!


まあ、俺も人のこと言えないけど。


「ちょっと待ってろ。なんか、飲み物買ってくる」


俺は立ち上がる。そして、さっきまでつないでいた手を離す。


なぜ今離すのか?それにはちゃんと理由がある。


遡ること5分前。


お化け屋敷を出てこのベンチに俺たちは座った。


お互いに支える必要もなくなってので、俺は手を離そうとした。


しかし、手は離れなかった。いや、離してくれなかったと言ったほうが正しいのかもしれない。


よって、お化け屋敷から出てから5分ほど経った今から手を離したと言うわけだ。



手を離した今、改めて気づいた。


手汗やべえ。


やばっ、俺こんなにお化け屋敷でビビってたの?!


しかも、この手で真昼と手をつないでいたんだから、絶対ビビってたのばれてるじゃん!恥ずっ!



俺は自販機で2本のジュースを買った。


買ったのはおそらく真昼が好きなリンゴジュースと俺が一番好きな飲み物のカロピスだ。


カロピスは、見た目は真っ白な液体で、見た目だけはまずそうに見える。体にも悪そう。まあ、実際飲み過ぎたら体に悪いけど。


でも、テレビのCMとかでは『かろやかにピース』とか言っている。意味が分からん。


俺は真昼の元に戻り、ジュースを見せた。


「ん、どっちがいい?」


真昼は迷わずリンゴジュースを選んだ。


小学生の頃と変わらず、今でもリンゴジュースは大好物らしい。


「京くん、覚えててくれたんだね、私がリンゴジュースが好きだってこと」


真昼が嬉しそうにえへへと言いながら言う。


「まあ、小学生の頃はよく飲んでたなと思ってさ」


「そういう京くんだって、小学生頃からカロピスが好きってのは変わらないんだね」


「まあな」


2人で小さく笑う。


「ちょっと休んだら行くか」


「うん♪あ、京くん、手」


「ん?俺手になんかついてるか?」


俺は手を確認するが、何もついてない。


「違うよー。手、つなぐの!」


そう言って、真昼は無理やり俺の右手に左手を絡めてくる。って、


「こ、これって、恋人つなぎ……じゃ?」


一つ一つの指が絡まるつなぎ方。真昼はそんなつなぎ方をしてきた。


これは恋人つなぎと言って、恋人にのみ許されたつなぎ方……だと思うんだけど間違ってる?!


「そうだよ。だって私たちは今日恋人でしょ?だったらいいの!はい!行くよー」


さっきまで死んだ魚状態だったのに、今は採れたての新鮮な魚のようだ。まったく、喜怒哀楽激しすぎだろ。


俺は真昼に軽く引っ張られながらも歩いた。


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