第139話 手

完全に予想外だった。


だって、あんなに行きたがっていたんだぞ?普通に考えたら、お化け得意なのかって思わない?


俺はまんまと騙されました。


でも、どうして、苦手なお化け屋敷に行きたがるのだろうか。理解が追いつかない。


「うう……、京くん、怖いね」


もう涙声なんですけど、よくあなた行く気になりましたね。逆に感心しますわ。


まだ入り口を入っただけなので、俺はまだビビってはいない。


怖いのは怖いけど。なんとか平常心を保つ。


俺たちは横に並んで歩いていく。


歩くにつれて恐怖心は増していく。


もうすぐ……。もうすぐお化けが出てくるんじゃないか。


俺はひたすら周りに注意をはらう。


「………おう、あれは……」


うん、いた。おじいちゃんがいた。顔には血が。


うん、絶対あれ脅かしてくるやつじゃん。


行きたくない……。


絶対あそこに行かなくちゃいけないのだろうか。


どこか、あの道以外にはないだろうか。


どうしてもあのおじいちゃんの前を通りたくない。


「ねえ、京くん、あれ……」


真昼も前にいるおじいちゃんに気づいたようだ。


「うん、あれは絶対に脅かしてくるだろうな」


「うう……、怖いよお……」


真昼は俺の袖を掴む。手は震えていた。


真昼の方を見ると、かなりビビっていた。うん、普通に可愛い。


でも、それどころではない。だんだんおじいちゃんに近づいて行く。


おじいちゃんまで5メートル……。


3メートル……。1メートル……。0メートル……!


ちょうどおじいちゃんの前に来た。俺は覚悟を決めた!さあ、脅かすならこい!俺は耐性バッチリだぞ!


…………あれ?脅かして、来ない?


おじいちゃんは、俺たちが前に来たのに脅かしもせずに、静止していた。


おじいちゃんを通り過ぎてしまった。


なんだったんだろう……。


あ!そうか!後ろから追いかけてくるやつか!


俺はおじいちゃんを通り過ぎた後もずっと視線の先はおじいちゃん。一度も視線を外してはいけない。


しかし、5メートルも離れてしまった。


本当に何もなかったのだろうか。


なんだ、無駄に気を張ってしまったじゃないか。


俺はおじいちゃんから視線を外し、前を向……


「きゃあああ!」


「うわあああ!」


俺たちの正面にお化けが現れた。


俺たちはとっさに真後ろに逃げる。だって、そこしか逃げる場所なかったし。


「……あ」


俺たちは知らぬ間にスタート位置まで戻っていた。


やってしまった。また、初めからだと?!


「うう……、京くん、手、繋いでてもいい?」


真昼は震えた声で俺に言う。


「お、おう。いいぞ」


正直に言うと、俺もビビっていた。だから、手を握ってと言われた時は素直に嬉しかった。もちろん顔には見せないけど。


俺の右手に柔らかな感触が。


もちろん真昼の手だと言うことは理解できた。


真昼の手はとても冷え切っていた。


てか、俺もめっちゃ冷えてるかも。


ビビってるのバレるかも!


こうして、お化け屋敷は改めてスタートとなった。

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