第15話 あーん
俺はここに引っ越してきてから、今初めてキッチンで料理をしている。
まぁ料理とは言ってもレトルトを買ったから温めるだけなんだけどな。
俺はさっきの買い物で、これから必要になるかもしれないものをある程度買った。
体温計をはじめ、緊急事態に備えられるようにした。
また、もし自分が熱を出した時、買い物とかもいけないので、缶詰の食べ物など、長期にわたって置いておける商品を買って置いた。
基本的に俺は家で料理をしないので、俺の食事はほぼ毎日スーパーとかで買う弁当だ。基本的には数日分をまとめて買っている。
なので今日も買い物のついでに弁当を3個ほど買った。
このお粥のレトルトは作るのがとてもシンプルだ。
レトルトの中身を深みのある皿に入れ、そこにお湯を入れて数分待つだけだ。
真昼の分とついでに俺も昼飯はお粥にしよう。
なので俺はお粥を二人分作る。
そして数分経った。
出来上がったので、俺はお粥とさっきついでに買っておいた風邪薬を真昼のところへ持っていく。
すると、真昼はよほど熱が上がっているのかとても顔を赤くし、放心状態といってもいいだろう。
「おーい、お粥できたぞ。大丈夫か?食べられそうか?」
3秒ほど返事が返ってこなかった。
「あ、うん?なんて?」
(ダメだな。こいつはかなりヤバそうだな。これじゃおかゆでも自分で食べられそうにないのかも…。これは結構恥ずかしいけど、病人が目の前にいるんだ!そんなこと言っている暇はない)
「なんでもねーよ。それと今からお粥食わせてやるから口開けろ」
(あーなんか緊張でヤンキーみたいな口調になってしまったー!これじゃ真昼も嫌な気持ちになったりするんじゃ…)
(ひ、ひええぇぇぇぇぇぇーーーー!け、け、け、京くんがわ、わ、わ、私にあ、あ、あ、あーーーーんを?!えっ?こんな時ってどうしたらいいの?いや、めっちゃ嬉しいけど…、ありがとうって言って食べたらいいの?え、めちゃくちゃきんちょうするーー!)
(ん?こいつまた顔赤くなった?やっぱり、結構ヤバそうだ!緊張なんてしてられるかー)
京は一旦熱さ確認のため真昼のお粥を一口スプーンですくって食べる。
「あっち!これめっちゃあついじゃん!熱さチェックしといてよかったー」
俺は次もう一口すくうと、ふぅー、ふぅー、と息で冷ます。
そして真昼の口の前に差し出した。
(え?こ、これってか、か、間接きききききキッスってやつなんじゃ…、京くんは気づいてないのかもしれないけど…、これって結構、いや、めっちゃラッキーなんじゃ…)
真昼はなぜかすぐには食べようとはしなかった。
なぜかと考えればすぐにひらめいた。
「あっ!ごめん。これ俺が食べたやつだったな。こういうのって結構気にするよな?俺、昔っから友達とかいなくて…こういうの、そこまでわからないんだよね。はいこれさらのスプーンだから」
そう言って俺はもともと俺が食べるようにおいていたスプーンと変える。
(あ、あーーーーーー!京くんのスプーンが……!何やってんのよ私!せっかくの大チャンスだったのに…。で、でも京くんにあーんしてもらえるんだから…。これだけでも超ラッキーよね?)
そして真昼は俺の差し出したスプーンを口に入れ食べる。
「お、美味しい…」
「そうか、それは良かった。それと飯食ったら風邪薬買ってきたからそれも飲んどけよ」
「うん」
そう言って真昼は軽々とお粥を食べきった。よほど美味しかったのかとても嬉しそうだ。
それにしても今日真昼を自分の部屋に返すのは少し危険だな…。もし、一人でいる時にとてもしんどくなったりして、もし死んだらとかしたら…、俺はこいつを見殺しにしたことになるんじゃないか?ここはひとつ我慢。いや俺にとっては美少女が家にいて何も嫌なことはないが、真昼はどうだろうか…?まぁ様子を見ながら軽く聞くか?
そして真昼が薬を飲み終えた時に聞いた。
「なぁ、もし、もしお前が嫌じゃなかったらなんだけどさ…、熱も出てることだし今日は俺の家に泊まっていくか?」
「えっ?!ええええええええええええええ!ほ、本当に言ってるの?じょ、冗談とかじゃなくて?」
その日1番の声を上げた。
(そんなに嫌なのか、まぁ俺も緊張するし、どっちでもいいんだけど)
「いや、嫌なら無理とは言わないし、いや、まぁ一様熱も下がってないしさ、もしものことがあるかもしれないし…、で、でも本当に無理はしなくていいから、強制とかじゃないから」
「いや、断る理由なんてな、何もないし、と、泊まらせてもらおうかな」
「え?マジで?」
思わず口から出てしまった。
(まさかオッケーだとは思ってなかったー)
「それじゃあ、よろしくお願いします」
「はい、こちらこそ」
こうして、二人の看病は夜にも続く!
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