episode11・後編 夜食の油淋鶏炒飯を食べながら
第16話
帰省一日目の夜が更けても、眠気は一向に訪れなかった。
枕元に置いたスマートフォンに手を伸ばし、よせばいいのに画面をついついタップする。液晶に表示された時刻は、午前零時を過ぎていた。カーテンの
「眠れない……お腹空いた……」
床に
ついに
そして、先客の存在に気がついた。暗いリビングに続く扉から、
「何してるのよ」
「見ての通り、小腹が空いて」
開いた冷蔵庫から
「そう言う姉貴も、腹が減ったんだろ。夕飯、全然食べてなかったから」
「……唐揚げの残り、それだけなの?」
冷蔵庫に仕舞われていた唐揚げは、夕食時には大皿に山盛りだったのに、今や小さなタッパーにたったの三つだけだ。つい
「父さん、もりもり食ってたもんな。あのギスギスした空気の中で、大したもんだよ」
「そう言うあんたも、人一倍食べてたと思うけど」
「あれでも遠慮してたんだけどな。アポなしで帰ってきた身だから」
透は、何食わぬ顔で言い訳している。果澄は肩を落としたが、そもそも深夜に揚げ物を食べたら太りそうなので、これでよかったのだと思うことにした。他の夜食を探したい気持ちが
「姉貴は食べないの? これ、今から温めるけど」
「二人で分けるには少ないでしょ。あんたにあげる」
「じゃあ、量を増やせばいいじゃん」
「どうやって? 無茶言わないでよ」
夜中から揚げ物を作る気力など当然なく、鶏肉だって買い置きがあるか分からない。果澄が投げやりに言って振り返ると、透はニヤリと笑ってきた。そして、静かにこちらへ歩いてくると、おもむろに台所の
急に明るくなった所為で、光に慣れていない目がしぱしぱする。顔を
「卵、レタス、長ネギ、冷凍ごはん、醤油、鶏がらスープの
「当たり。姉貴も手伝ってくれたら、
「ん……」
自室で寝直すという選択肢もあるが、真夜中の炒飯という
「姉貴は、唐揚げをサイコロ形に
タッパーを受け取った果澄は、指示に
「そういえば、透って、中華料理屋さんでバイトしてたことがあったっけ」
「ん。これも、そのときに覚えたやつ。家で作るときは、楽な手順に変えてるし、材料も全部は
醤油色に
「俺、今の会社に就職するまでに、ちょっと自慢できるくらいの種類のバイトは、経験してきたと思うから。飲食系の仕事の大変さは、少しだけ分かるよ。
まな板に長ネギを載せた透は、言葉を区切った。そして、隣の果澄を振り返ると、今までの軽い態度を引っ込めて、問い掛けてきた。
「それでも姉貴は、喫茶店の仕事を続けたいわけ?」
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