縁側カフェ
嬌乃湾子
第1話
私はある日、とある店に入った。自分と同じ花の名前が咲く季節、中学校の部活をサボって学校から抜け出す。スマホの画面に視線を向けながらブラブラ歩いていると、ふとその店に目に入った。
あれ?いつの間にこんな店出来たの?
木造の古民家に「縁側カフェ」と書いた看板が立て掛けられている。やっべえ、面白そうじゃん、家に戻ってもママがうるさいし、暇つぶしに入ってみようと思い、軽い気持ちでその店に入った。
カラカラ、と戸を開ける音がした。玄関から受付の人がやって来ると、壁に幾つか書かれた名前の木札のどれかを選んでくださいと言われる。横には30分千円。桜はその中の源氏名「たけ」さんを指名すると、中に案内された。
長い渡り廊下から幾つもある障子の一つを開くと、畳の部屋にはコタツがあり、その向こうに、縁側で背を丸くして座っていたのは一人のおばあちゃんだった。たけおばあちゃんは、周りを竹やぶのフェンスで囲まれた小庭の風景をじっと見つめていて、静かな空間に雀の鳴き声だけが響いていた。
「どこの在所の方かの?ようおいでなすった」
「こんにちは。私、皆木花梨です」
たけさんは穏やかな表情で私の方を見ると、私は若干緊張した顔で挨拶した。そして後ろを向き隅に積んであった座布団を出して座るように促し、私は向かいに座るとたけさんは足を這いながら奥へと向かい、コタツの横に置いてあった湯のみと急須をお盆に乗せて、手で押しながらこっちへ戻って来て茶を出すと、膝下にあった菓子も食べるよう勧めた。
出されたお茶と菓子を食べ、暫く沈黙が広がるとたけさんは言った。
「今日学校は終わったのかい?」
「はい。部活があったんですけど、今日はもういいやって」
「ほ、か。それは楽しみな」
「大変ですよ、一年だから。みんなレギュラー取るのに必死だし」
「行くとこがあって良いの。わしはどこも行けん」
足が悪いからどこにも行けないのかな?たけさんを見ながら、ふとうちのお婆ちゃんと比べてみた。
「あの、うちのお婆ちゃん、毎日デイサービスに通ってて、家に居てもパジャマで窓を眺めてる。でも、外の通りは車がビュンビュン通ってて・・・ここいいですね。うちにもこんな縁側があったら良いなあ」
「ほか」
するとスマホが鳴り響いた。ママからどこ言ってるの?部活にいなくなったと学校から電話がかかってくるし!とスマホの向こうの叫んでいるので、わかった、今帰る。
「ママが呼んでるので帰ります。お邪魔しました」
スマホを切りながらそう言うとたけさんは穏やかに笑った。
「またおいで」
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