オレに告白すると彼氏ができるらしい(オレ以外の)

高羽慧

01. 忌まわしき過去

 初めて告白されたのは、中学一年の夏休み前だった。

 下駄箱にラブレターなんていう前時代がかったやり方で、これまた昔の漫画のように、体育館裏へ呼び出される。


浅桐あさぎりしゅうさま。放課後、イチョウの木の下で待ってます”


 アカリ、いや、アカネだったか。隣のクラスの女子なんて、ロクに名前も覚えちゃいない。


 当時のオレには、誰かと付き合おうなんて大それたことを、これっぽっちも想像出来なかった。

 告白されても戸惑うばかりで、断ると同時に走り去ったのを覚えている。


 その知らない子が、バレー部のルーキーと付き合い出したのが三日後。

 とても一年生とは思えない長身のセッターは、運動神経も抜群の有名人だった。

 彼の方から熱烈アピールしたらしく、結局、高校でも付き合っているそうだから、相性も良かったのだろう。


 節操が無いなんて言わない。

 後味の悪かった出来事が打ち消されて、正直なところホッとした。

 もちろん、ラブレターを貰ったなんて誰にも言わなかったさ。でも、彼女は友人へ話してたんだろうな。


 次が中学二年の春。っと、その前に。

 自慢みたいでイヤなんだけど、どういわけか俺はモテた。中学を卒業するまでに、十二回も告白されている。

 知った級友連中から、袋だたきの目に遭ったよ。


 でもな、まともな告白は、最初の二回だけだ。

 二度目の告白も、まず手紙を渡された。


“好きです”


 シンプルな文面は、好印象だ。差出人の名前が書いてなかったのは、大減点だけど。

 放課後、手紙の主は直接オレへ会いに来る。

 押しの強い性格は苦手なんだよ。即座に断ったら、さめざめと泣かれてしまった。


 無理だって。全然知らない女子なんだぜ?

 なんか校外実習の時に、コケたそいつを立たせたことがあったらしい。

 覚えてねえ。


 理不尽な罪悪感に苛まれて、あとから彼女について調べてしまう。

 女子サッカー部に所属しててさ、割りと男子に人気のある子だった。

 一週間ほど、端から見ても気落ちしてたようで、やっぱりオレのせいなんだろうな。


 ところが、彼女にも新たな相手が現れる。

 サッカー部の主将、オレたちの先輩になる三年生だ。男女で合同練習もあるから、二人は以前からよく見知った間柄だったはず。

 この主将が、彼女へ告白したのがゴールデンウイーク明け。

 ベストカップルとか言われて、中学の間は仲良くしていたのを見ている。進学後は知らん。


 これも尻が軽いとか、そしったりはしない。中学のカップルなんて、こんなもんじゃね?

 誰と誰が付き合おうが、他人事に首は突っ込まねえよ。


 オレに告白したこの二人に、どうも共通の友人がいたみたいだ。

 鈴原すずはらと、仮にしておこう。本名だけどね。

 オレなんか目じゃないイケメンで優秀な彼氏を得た二人。彼女たちから相談を受けていた鈴原には、思うところがあったようだ。

 こいつは元より占い好きで、オカルトマニアな女だったとも聞いた。


 高々二つの事例を以って、鈴原はとんでもない結論に達する。

 オレに告白すると、超ハイクオリティーな彼氏が出来るのでは?


“ずっと前から好きでした。つきあってください”


 手紙と放課後呼び出しのコンボを食らったこの時が、鈴原と初めて喋った厄日となった。

 額に“玉”と書き、鳩の羽根を左右の耳に挿し、語尾に「だっぴょんっ」と付ける奇女。

 こんなもん、断るに決まってるだろ。


 その翌日、鈴原は隣の席の男子から、ラブレターを貰った。

 あまり好みではなかったらしく、その場で読まずに突っ返したとか。


 彼女は考えた。

 効果が薄かったのは、真面目に告白しなかったからだ。やり直そう、と。


“やっぱり諦められません。つきあってください”


 リテイクでの鈴原は、上目遣いで可憐な少女をアピールしていた。

 即却下、当然だ。


 アイツの醸し出す不穏さは、二度目にして既に恐怖を感じさせた。

 大体、断られた直後に、スキップで駆け去るなんて異様だろう。


 どういう女なんだと、他のクラスにまで聞き込みした結果、鈴原の不埒な計画が露見した。

 まあ、教えてくれたのは、例のサッカー部女子なんだけども。

「私も浅桐くんにフラれて、彼氏をゲットする!」と、あからさまに宣言していたんだとさ。

 頭がおかしい。


 クラス一の秀才が、こんな魔性の女に引き寄せられてしまい、及第点を付けた鈴原は彼と付き合うことに決めた。

 まあ、ここまでなら俺も許そう。二度と関わらないなら、馬鹿女も笑い話だ。

 しかし、鈴原は女子の間へ噂を広めやがった。


“彼氏ゲット率一○○パーセント、鈴原式必勝ジンクス!”


 女子グループへ流したメッセージのタイトルが、これ。狂ってる。


 オレの中学生活も、ここから狂った。

 二年後半に二度、三年で四度、告白を受ける。


 即日で断ったそれら以外にも、オレの様子を窺う女子は数え切れず。目の前まで来てオレを睨み、踵を返して走り去るヤツも毎月発生した。

 全部、ジンクスを信じた犠牲者たち。

 そりゃ、普通は好きでもない男子に告白出来ないよ。


 だが卒業までこんな奇習が続いたのは、実際に効果があったからだ。

 告白は計十二回。最初の二人も含めて七人が、オレに告白して彼氏を作った。

 計算が合わないって?

 鈴原は六回もチャレンジしたから。あの野郎、偽名は使うし、変装までするし、やり過ぎだろ。


 でもまあ、高校に入ったら、そんな狂騒はしずまった。

 一年、二年と平穏に過ごし、三年は受験でみんな忙しくなる。うちの高校は、これでも進学校だからな。


 一つ気がかりだったのは、同じ高校に鈴原も通っていたこと。


 国公立の受験が迫る二月。

 あの女は、また災厄の種を撒き散らしたのだった。

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