第2話
それは、初めておばあさまの家を訪れた時だった。
おばあさまは"彼女"を抱いて、私と祖母を出迎えてくださった。
私は当時幼かったものだから、犬などというものはあまり見たことがなく、興味津々だった。
そんな私の様子を察したのか、おばあさまは私にこう仰った。
「この子はな、おばあちゃんやねん。目ぇはよぅ見えてへんし、顔も上げにくいし、脚も弱なってるんよ。せやけど、良かったら抱っこしてあげてくれるか?」
私はもちろん快諾した。
初めて抱いた"彼女"の温もり、重さ、臭いは私にとって新鮮なものだった。
腕の中に居る"彼女"を見ながら、私は幼いなりに生命というものを感じていた。
その時だった。
たった一瞬。
たった一瞬ではあった。
一瞬ではあったが、"彼女"は顔を上げ、私の顔を見たのだ。
まるで、あなたは誰?とでも聞くかの様に。
その光景に祖母とおばあさまはとても驚いていた。
ほとんど目が見えておらず、顔を上げるのもめっきり少なくなってしまった"彼女"が、初対面の子供の顔を見たのだ。
その後、何度かおばあさまの家を訪れたが
、あれ以来、"彼女"が私を見てくれることはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます