第2話

それは、初めておばあさまの家を訪れた時だった。


おばあさまは"彼女"を抱いて、私と祖母を出迎えてくださった。

私は当時幼かったものだから、犬などというものはあまり見たことがなく、興味津々だった。

そんな私の様子を察したのか、おばあさまは私にこう仰った。

「この子はな、おばあちゃんやねん。目ぇはよぅ見えてへんし、顔も上げにくいし、脚も弱なってるんよ。せやけど、良かったら抱っこしてあげてくれるか?」

私はもちろん快諾した。


初めて抱いた"彼女"の温もり、重さ、臭いは私にとって新鮮なものだった。

腕の中に居る"彼女"を見ながら、私は幼いなりに生命というものを感じていた。

その時だった。


たった一瞬。

たった一瞬ではあった。

一瞬ではあったが、"彼女"は顔を上げ、私の顔を見たのだ。

まるで、あなたは誰?とでも聞くかの様に。


その光景に祖母とおばあさまはとても驚いていた。

ほとんど目が見えておらず、顔を上げるのもめっきり少なくなってしまった"彼女"が、初対面の子供の顔を見たのだ。


その後、何度かおばあさまの家を訪れたが

、あれ以来、"彼女"が私を見てくれることはなかった。

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