第十四話:暴かれし真実(なお隠すつもりはry)


「────レイさぁぁぁん!!!」

「うわぁっぷ!!!」

 タラップに横付けする形で正座させた〈プリンセス〉のコクピットハッチを開けるなり、登ってきたヘレナがコクピットの中に文字通り飛び込んできた。

「無事で良かったですぅぅぅ!!!」

「うん……」

 こうして泣いて抱き付かれるのは本日二度目な気がする。

 尻尾をぶんぶん振りながら自らの胸に埋まる彼女を、レイは頭を撫でたりして宥めていた。



 戦闘終了後、飛べることを良いことに荷物運びをすることになった。

 というのも乱戦同然だった今回の戦闘で、駆動部を損耗した機体が多数あった為だ。


 腰部の可動装甲〈セイレーン〉は電磁推進器が使用不能だったが、〈ディザストフォトン〉による重力低減効果と揚力付与効果を調節すれば簡単な浮き沈みくらいはできた為に、遺跡地上まで損傷機体を運搬していたのだ。

 六機だけとはいえ、自力で動ける機体には遠回りになるが平地を迂回して合流して貰ったが。


 ナターリア総室長が言うに拠点には連絡を回しており、予定通りなら約一時間後には増援部隊が送られて来るそうだ。



 もう空は夕焼けに染まりつつあり、もう二、三時間もすれば日が暮れるだろう。

 宥めていたヘレナと共にコクピットから出て、撤退準備中の技術部に合流しようとタラップを降りてからだった。

「レイ・サザーランド君、だったな」

 そう話し掛けてきた人物が居た。紺色の髪を短く切り揃えた屈強そうな体躯の青年、あるいはその威風堂々とした佇まいから若作りの壮年かとも認識してしまう、そんな男性。

「イシュヘンベルグ分隊長……」

 ふとその名を呼んでしまう。アイク・イシュヘンベルグ──雪狼騎士団 魔導甲騎隊第二分隊隊長。

「あ、えっと……ごめんなさい!!!」

「何故謝った?」

 険しそうに見えた表情に、思わず謝ってしまった。だがそれはただ気圧されただけではない。

「……私は、正規騎士では愚か見習いですらない一介の技術者でありながら、勝手に戦場に乱入しました。

それに、遺跡の物を無断で起動し使用しました。

……越権行為への咎めは受けます」

 もしかしたらそれらのことで怒られるかもしれない、という自覚があったからだ。

 だったが。

「正直、君の戦い振りには惚れ惚れとしていた。まるで妖精が舞う様な機体捌きだった」

「……えっ」

 意外な返答が返って来た。

「確かに、独断で戦場に踏み入ったのは感心しない……が、君自身が反省しているならそれでいい」

「は、はぁ……」


「それはそうとして、な……」

 嫌な予感がして歯を食いしばり身構えた、直後。


 パァン、と乾いた音が鳴った。


「──────ッ!!!」


 左頬に平手打ちを食らったのだ。


「俺が何故ったか、わかるか?」

 打たれた頬がジンジンするのを感じながら、数秒沈黙して、口を開く。

「……越権行為への懲罰、でしょうか」

 そう答えたが、何故か溜め息を吐かれてしまう。


「君の反省すべき罪は三つ!」

 そう言って指を掲げ、彼は指摘した。


 一つは『騎士の戦場に無断で介入した』こと。


 二つ目は『貴重な遺物を無断で使用した』こと。


 どちらもレイが先程明言していたことだ。が、そのどちらとも違うと答え、三つ目を答えた。


「君の無茶で泣いた女性が二人居る……女性を泣かせるなど、騎士団員以前に王国紳士として恥ずべき事態だ」

 そう言われてハッと、息を飲んだ。

「前二つなら反省文で済ませればいい。心配させた分、二人に謝っておくんだな」




「ご心配かけてすみませんでした」

 姉の元に向かい、早々にそう告げると。姉は優しく抱擁して迎え入れた。頭一個と少し分の身長差があって胸に顔を埋める形となってしまう。

「分隊長に何か言われたの?」

「……咎められたのも事実ですが、迷惑を掛けたのも事実です」

「いいのよ、謝らなくて。貴方が無事だったの、お姉ちゃん嬉しいんだから」

「そうですよ。それに、サザーランド君が来てくれなかったらボクも危なかったですし……」

 一緒に居たリィエもそう言ってフォローしてくれた。

「ありがとう、ございます……」

 姉から離しつつ、照れる様に俯きながらも、微笑んで答えるレイ。

 嬉しさからか、触覚みたいな二本のアホ毛がその感情を体現する様にふんわりと揺れた。

「……意外と甘えん坊だな」

「意外ってなんですか……」

 ふとした様に言うシズヤに思わず突っ込んでしまう。ついでに言うとさりげなく彼はレイの襟元で束ねられた髪を撫でていた。

「少々大人っぽいと思ってたんだが、歳相応なとこもあるんだなって」

「……どういう意味でしょうか」

「……いや、深い意味はないさ」

 何か意図がありそうなことを言われたが、はぐらかされてしまった。


 そんなところで、ふとした様子でリィエがライラに尋ねる。

「ところで、どうやって持って帰るんですか〈着飾り騎士これ〉」

 確かに〈プリンセス〉をどうするか、というのは問題であった。

 魔導金属〈エーテメタル〉で出来ているだけあって異様に重い。ただでさえ用意していた機体が半数以上損耗しているのだ。運搬用の荷車もある分にはあるがそれではとても運べそうにない。

「えっと……自力で飛んでいってもらう、とか?」

「関門でどう説明するつもりですか……」

「飛び越えちゃえばバレないでしょ」

「バレたらタダじゃ済まないやつですよねそれ」

 ライラとそんな問答が始まる中、ふと視線が来たのを感じたレイが答える。

「腰部の主推進器が不調なのであまり推奨できませんね……」

 故障と言い掛けたが、別に推進器自体は無事だった為に『不調』と表現した。

「ですが、そうですね……〈プリンセス〉には重力低減効果を出せる機関があります」

「重力低減……ってことは、軽くできるの?」

「まぁ、有り体に言えばそうですね。稼働状態のまま運搬すれば〈プリンセス〉一機分の重量軽減くらい可能だと思いますね」

 ライラが挟んだ問いにも兼ねてそう答えた。

 そこで、だ。

「そういやさっきから言ってる『ぷりんせす』って、〈着飾り騎士こいつ〉の事か?」

 ふと気が付いた様にシズヤが聞いてきた。

 そういえば皆この機体の名前知らないんだよな、と今さら気付き、レイはそれを説明することにした。

「あ、はい。起動画面に文字が浮かんだので」

 こんな感じで、と。

 地面に『ANGEL』の文と『天使階梯:第七位【権天使】』の表記を。よりによって書かれていたそのまま英語と漢字を使って。


「お前、よくこんなの読めたな……」


 驚いた様子でシズヤが言ったところでようやく気が付いた。

「────あっ……!!?」

 ヘレナやエドが読めなかった様に、使


「ぼ、僕が天才だからですかなー! あはははは……」


 苦し紛れだがそう言い、笑って誤魔化そうとした。

 だが。


「言語は学習で覚えるものだ。故に知らない言葉を天才だから読めるという訳じゃあないぞ?」


 そう切り出したのはクロト・ロックエヴァー───雪狼騎士団技術部主任その人だっだ。

 それなりに離れた位置に居るはずだが、よく通る声が響いていた。


「そして何より……。




 自らを『天才だ』と……君はそう言った……」


 そう言った直後。ニィ、と歪む口元。


「私を差し置いた罰だァ……」


 ねっとりと、舐め付く様な口調に変わる。


「その仮面を……剥がす……ッ!!!」


 何故かこの辺りで数人が、呆れる様なジェスチャーで溜め息を付いていた。


 直後、ビリビリと電撃がクロト自身の身体を包む。

 ※後に語ったところによると雷属性系の初級魔術らしい。


 アイガッタビリィー。

 幻聴が聞こえた、その瞬間。


「レイ・サザーランドォ!」

「…………!」


 その名を勢いよく叫ぶクロト。

 彼はレイを指差しながら、言葉を続けた。


「何故君が操騎訓練を受けずに、【着飾り騎士ドレスド・ナイト】を操縦できたのか」


 続けられたクロトの言葉は、


「何故スティックレバー方式なのか!」


 的確に、


「何故君は使われていない言語を理解できるのくわァ!!!」


 下手な真実なら、知らせない方が良いだろうと。敢えて誰にも言わなかった真実を暴き出さんとしていた。


「それ以上言うなぁッ!」

「────先に言われたっ……!!?」

 止めようとしたらシズヤが先を越して怒鳴る。

 だがその静止は効かず。


「その答えはただ一つゥ……」

「────止めろォォォッ!!!」


 痺れを切らした様に吠えながら、今にも掴み掛からんと迫るアイク。

「あれ、これ僕見てるだけ……?」

 そんな困惑するレイを余所に、クロトは一度「……ンハァ……」と恍惚な溜め息を吐き、再度吠える。


「レイ・サザーランドォ!」


 無言でダッシュするナターリア室長。



「君がァ」


ィ」


「別の世界から、転生した男だからだぁぁぁぁぁ!!!

 ひゃっはははははははははハハハハハハハハハハハハあはぁ!!!」


 相当に、興奮してエキサイト高揚してエキサイト。高鳴る心が、導く場所へ駆け抜けていく様な疾走感と共に、高らかな笑い声を上げながら彼はそれを暴露した。

 走っていたシズヤとアイクの足が止まる。そこに遅れてクロトの元に辿り着いたナターリアが、彼の胸ぐらを掴んだ。


 そして、レイにはこの独特な言い回しに覚えがあった。


 それに。今、と言った?


 と、いうことはクロト──というか、まさかさっき乗ってきた人達、みんな転生者!!?


 そう考えた、その時だ。


「……レイくんが……転生者……?」

「───っ!!?」


 唐突に遮られる思考。

 発言したのは、ライラだ。


「……嘘よ……彼は私を騙そうとしている……っ!!?」


 いや、でも合ってるんですけどね。


「あぁ、ああああ……!!!」


 ゑ。


「────いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 発狂する様に絶叫しながら、ライラは全身から魔力を迸らせていた。


 これは、魔力暴走……!!?


「ライラ隊長……!!?」

「もしかしたら中身がおっさん説を連想して拒絶反応が……!!!」

 横でシズヤとクロトがそんな会話をしている。


 クロトさん辛辣ゥ!

 というかそんなにショックでした!!?


 というかヘレナ達(多分ネタが分からない勢)が一斉にポカーンとしてますけど、ちょっと!!?


 そんなことを思いながら。

「えぇ……」

 困惑の声を上げていた。


 なおこの時発生したライラの魔力暴走はあと数秒程だけ続いて終わった。

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