第16話 セラとソウ

ミドワル界では、コハクがベルデの元へ、クミの検査結果を持ってきていた。


「どうだった?」


「やはり、ペストだったよ。抗生剤を持ってきた。飲めるかな。飲めなければ、経皮的に投与するけど。」

「嘔吐してたよ、経口は無理だ。」と、先にクミの様子を観に来ていたサライが言った。


「了解、じゃ、貼付薬だね。ベルデ、あれから、患者は増えてないか。」

「発熱している者が3名いた。一人はもうダメかもしれないな。」

「効果あるかどうかわからないが、その人にも投与してみるか。」

 

防護服に身を包み、コハクはベルデとともにクミの家に行った。


コハクは、クミに腹部に貼付型の抗生剤を貼付し、栄養剤入りの貼付薬の処置も施した。


「ありがとう、お姉ちゃん。」


「もう、大丈夫だからね。この格好怖くない?」

「大丈夫、お化けみたいだけど。怖くないよ。お姉ちゃん優しいもん。ねぇ、お母ちゃん、さっき顔色悪かったの。元気ないの。お母ちゃん、助けなきゃ。」

 

 クミは薄い布団の上で、細くなった小さな腕を震わせながら、起き上がろうとした。


「わかった。大丈夫。お母さんにはお薬飲んでもらうね。クミちゃん、今、診てくるから。ここで寝てて。」

 

 母親のソアも発熱していたが、ふらつきながら、台所仕事をしていた。


「クミは、クミはもう…。そばにいるのが辛くて。」


「いいえ、大丈夫ですよ。今、お腹に貼った布みたいなものは、菌を殺す薬を皮膚を通して、身体の中に入れるものなんです。クミちゃんは、あんな状態でも、あなたの事心配してましたよ。クミちゃんのためにも、お母さんも、お薬飲んで、クミちゃんのそばで、安静にしててください。もう、大丈夫ですから。」

「そんなことができるのかい。コハクさん、あなたは、神様だよ。ありがとう。ほんとうにありがとう。」

 

 ソアは、泣きながら何度も頭を下げた。

 

 コハクはこみ上げる涙を堪え、外で待っていたベルデに他の有症者の家への案内を頼んだ。

 コハクはそれぞれの症状に合わせ、処置をして回った。


 そして、ベルデの家に戻りサライとコハクで今後の事を話合った。


「隣村でも同じ症状が出ているらしいが、どうする?」

「ベルデは、これから、色々依頼することがあるから、誰か、この処置を頼める者はいないのか?」

 サライのあと、コハクが続けた。

「出来たら、隣村とこの村で2~3人ずつ。防護服などの予防対策を面倒がらないような者がいいが。途中で脱いでしまうと、全く意味を成さなくなる。シャイルでは、もっと簡単なものもあるが、この世界だと理解が出来ずに、返って感染を広げかねない。」

「わかった。当たってみる。」

「あっという間に感染は拡大するぞ。コハクから手技の指導をするので、急いでほしい。食糧は大丈夫か。」

「みんなが隠してあるものを、カイの役人が隅から隅まで、根こそぎ持って行きやがる。それでもなんとか、土に埋めたりして確保してはいるが、底をつきそうだ。」

「そうか、シャイルとステラからは、食糧を持ってくるのも難しいな。移動時にたぶんダメになってしまう。ミドワルで、他の国から調達が出来ればいいのだが…。」


「ベルデ!」

 

 ベルデの親友のタカが息切れしながら、飛び込んできた。


「どうした。」


「セラが、セラがいたんだ!」


「えっ、どこに!城じゃないのか。」

「城じゃない。ほら、山の方に、空き家になってる小屋があるだろ。あそこに食料隠そうと思って、テルとアオと3人で行ったんだ。」

「あんな、遠いところにか。けっこう山上がっていくぞ。」

「そうだ、あそこまでは調べないと思って。それで、中に入ったらセラがいたんだ。それも男と。見たことのない奴だった。セラの方は、青ざめた顔で震えてたよ。」

「どうしたんだろ。セラに城の様子が聞けそうか。」

「それはどうかな。城でひどい目に遭ったのか、サラもその男も傷だらけで、怯えていた。食べ物も何も無く、雨水で凌いでたようだったから、持って行った食料を少しなら食べてもいいと言って来た。きれいな水を持ってくるから、待っててと。」


「そうか、身内までもか。ひどいな。よし、二人も来てくれるか。」

 サライとコハクにも同行を依頼した。


「もちろんだ。」


「暗くなってから動いた方がいいな。」

 

 この村では、雨水をろ過して飲み水に使っている。サライとコハクで、砂利、炭、布などを利用し、簡単なろ過装置を作っていた。

 雨が降る中、動物の皮で作った水筒に入れた水を持ち、ベルデらは獣道を1時間ほどかけて歩いた。うっそうと生い茂る草をかき分け、隠れるようにその小屋はあった。


 「タカだ、入るぞ。」

  

 戸が細く開いた。その黒い隙間から、男の鋭い眼が覗いていた。タカたちの姿をに見定めると、戸を大きく開け中へ入れた。

 男とベルデらはランプの灯りを囲んで座った。セラは男の影に隠れるように、男の衣を掴み震えていた。

 

 男は、皆の自分への視線を察知し、時間を待たずに口を開いた。


「すみません。セラは今は口がきけない状態なので、私が話します。私は『ソウ』と言います。城で女王に仕えてました。女王が飼っている犬や、家畜の管理です。」

「私はヒロ。あとサライとコハクだ。で、あなたとセラはどうしてここに居るんだ。城ではなかったのか。というか、その前にあなたはどこから来たか聞きたい。」

「どこから…。」

「異世界か?」

 ソウはサライの言葉に、驚いた様子で、


「それ、通じるのか?」


「通じる。自分もそうだから。」

「そんな話が通じるなんて、ウソみたいな話だ。ずっと長い間、醒めない夢を見ているようなんだ。でも異世界と言っても、どこって言ったらいいのか…。」

「あんた、多元宇宙の話はわかるか。」

「自分なりに調べた。それで、ここに来たことで、リアルな現象なんだと悟ったよ。」

「その多元宇宙の一つで、シャイル界という界から、私たちは来ている。都合上、私たちが名付けた名称だが、ソウのいた世界をステラ界と呼んでいる。ここはミドワル界。シャイルが最も進んだ文明社会で、多元宇宙の解明も進んでいる。」

 

 サライは、自分の役割と、真の女王の即位が多元宇宙への影響する可能性を説明した。


「何を言っているのか。信じられない話が、確かに世話になった老夫婦から聞いた話とも符合する事もある。でも、なんで自分がいた世界がわかるんだ。」

「これからの話でわかると思う。」

「わかった。続けてくれ。」


「この界には、どうやって来た?」


「あるところで得た情報を元に行ったんだが、神生山という山の奥深い場所に赤い鳥居があって、右方向に地蔵が三体立っている。これまで自分は、夢の中で鳥居と地蔵のある風景を見ていた。だから行ったんだよ。夢と、過去に聞いた話と、ここへ来なくてはいけない、どうしようもない気持ちに駆られていた。そしたら、その地蔵の背後に暑い季節でもないのに陽炎が見えたんだ。その陽炎の中に引き込まれるように入って行ってしまった。元に戻ろうとしたが、もう地蔵も鳥居も姿形もなく消えてて、しかたなく前に進んだ。身体が、引き裂かれそうな感覚に襲われて、どれだけの時間かわからないが、気が付いたら、何もない山の中だった。。神生山は、その昔、ある部落の30人ほどの村人と土地ともすべて消えてしまったとの噂があったと聞いていたから、自分はもしかして、その村に入り込んだのではないのか。で、ここが、持っていた写真の場所ではないのかと思った。」


「そうか、それで、その後どうした。」


「衣服は破れ、体中のあちこちが火傷のように赤く腫れあがり、痛みと疲れで、しばらく動けなかった。よほど、ひどい恰好をしていたんだろう。通りがかった、その村の老夫婦に助けられたんだ。その老夫婦は、少ない食料の中から自分にも食べ物をくれた。老夫婦の姿を見て、タイムスリップしたのかと思った。時代劇に出てくるような、着物のような服にも見えたが、西洋の中世の時代のようにも見えた。老夫婦のおかげで身体は回復し、自分は農作業を手伝いながら、しばらくその老夫婦と暮らしていた。自分がいたところは、このミオ村の隣の村になる。」


「真の王の事はどこで知った?」


「その老夫婦に、真の王のことも含めて、この国のひどい王政の事も聞いたんだ。自分の額に紋章の記しを見せると、驚いていたね。100年も前に石像が光ったことがあって、真の王が即位した事、2.3年前も光った事があったが、誰も現れなかったと。その真の王伝説でも出てきたんだが、自分も石を持っていた。多分自分がこの時に来てたらと思った。」


「おまえも、記しと石を持っていたのか?」


「持っていたが、自分には王になるような、そんな力はないと思った。だが、娘は違った。その石を赤ん坊の娘に近づけた時、赤く色づいた事があったんだ。自分が身に着けていても、何も変わらなかったから、何か不思議な力を感じた。それから、自分の父親が亡くなる間際に『子供が生まれたら、きっと、普通の子供ではない。だから敵も多い。絶対守り通すんだ。ほんとは、もっといろんな事伝えなければならなかったが出来ない事を許してくれ』と言って亡くなった。娘が生まれたあと、何度も夢の中で、写真で見た自分の先祖のエカルラートという人物が現れて、娘が王になると。声はなかったが、心に言ってきた。今言ったように、真の王伝説を聞いて、娘と符合することが多く、もしかしてと思ったんだ。娘を何としても、守らなければならない、その一心だった。」


「で、城へはどうやって入り込んだんだ?」


「それで、犬を飼っている事を知った自分は、獣医の勉強をしていたこともあったから、城の犬や家畜の世話係に申し出た。城内で、色々と知ったよ。娘を狙っている事も。」


「なるほど。ソウ、もしかして、あなたは神田蒼真ではないのか。」


「なんだ?なんで分かる。サライと言うんだったな。おまえ、どこまで、自分を知ってるんだ!」


「そうか、そうか、やっと会えた。すまない、びっくりさせて。ソウ、言っておくが、自分たちは敵ではない。」


「何、どういうことだ。あんたらは、何をしようとしてるんだ。」


「さっきも言ったように、ステラ界にも調整員がいる。シンという調整員だが、教師として配置されているのだが、その生徒が美彩都さんだ。美彩都さんが記しと石を持っている事と、最近、身体の変調があると知り、界を超えて、ここミドワルで起きている事と絡めて、調査してきた。状況から、美彩都さんが、真の王の可能性が出てきたんだ。私たちは、多元宇宙間の変動とミドワル界の真の王の即位が無関係ではないとみている。真の王の即位で、ミドワル界と、多元宇宙の安定を図るために、私たちは動いている。」


「良くわからないが、美彩都のこと知っているんだな。今いるこの世界が危機的な状況にあって、美彩都が即位すれば多元宇宙間の均衡に繋がる…という事か?サライ。」


「まぁ、簡単に言えばそういう事になる。」


「自分自身、この世界へ入り込んだ体験もしているが、どう頭を整理しても、悪い夢の中を彷徨い続けている、そんな感じだ。それにしても、何故、自分が、美彩都の父親だと分かったんだ。」


「それは、ステラ界で美彩都さんと一緒に、あなたの行方を追ってた者たちがいた。すぐには、異世界へ行ったなんて、誰も思わなかったが、ある女性のところへ行っただろ?その女性からの情報とも絡めて考察して、それで、あなたの今の話だ。そう推測するのが妥当だと。今、石は持っているのか?」


「石は自分は持っていない。あるところに預けてある。その時期が来れば、娘に渡してほしいと依頼してある。今は言えない。それで、サライ、ここへ来たのは、私の事だけではないだろう。目的はなんだ?」


「城の事を聞きたい。カイ女王の事も。美彩都さんの即位を阻止しようという目論んでいるのではと。」


「あんな奴、魔術だか、なんだか知らないが、武力で制圧するしかないよ。」


「タカ、武力っていっても、農民たちは、飢えや、流行り病で、そんな体力はない。戦力とはならない者の方が圧倒的だ。」


「ソウ、城の中の脅威はカイだけだろう?あとは、カイに精神を支配されている者たちだけではないのか?」


「タカさん、城の中には、かなりの人数がいて確かに精神的に支配されている。だからこそなんです。そこにいる者は自分たちの命はカイに捧げているのです。それに反抗すれば、私たちのようになるという恐怖に支配されてる。見せしめに目の前で、拷問を見せられるんだよ。」


「姉は、もう姉でない。前のカイ女王と部下たちも毒殺された。母も。」

 

 ソウの背で震えながら、沈黙していたセラが糸のような細い声を出した。

 

 ソウはセラの手を握りながら、城の中の状況を話した。

 ハナとセラは両親から魔女教育を受け、薬草を作ったり、お産業務をしたり、占いなど、村人の生活を支えていたが、魔女ということで、嫌がらせをする者も多かった。ある日、父親が殺されてから、王政に対し、強烈な敵意を抱くようになり、王族の中の不満を抱く厨房担当の者とつながりを持った。毒草を手渡し、王族の女王、そこに仕える者たちを全滅させ、自分が王族を乗っ取った。そして母親とセラとともに、城を支配した。父親を殺した復讐だけでは物足りず、自分に対して嫌がらせをした村人も手にかけた。

 ある時、魔術師と名乗る男が現れ、球を増やしたり、場所を瞬間移動させたりの術を披露し、その時からハナはその男に心酔して行った。

 そんな中、ルネスの像の眼が赤く光った。真の王の所在を突き止めるため、その魔術師とともに画策を練っていた。


「その魔術師が、カイ王政を裏の糸を引いているのか?」


「そういう事になる。しかし、サライ、奴は魔術師でも何でもないよ。腕の良い手品師といったところだ。自分と同じ世界から来たんだと思う。あまり、話した事はないが、何となく感触でわかる。素性までは分からないが。ただ、カイは手品を魔力だと思い込んでいる。ウソだと言っても、逆に反逆者扱いだ。」


「ソウ、あんたらも反抗したってことか。」


「そうだ。カイは私が記しを持っている事に気が付き、自分との間に子供が生まれればと考えたが、私が応じなかった。」


「その子に即位させようとしたのか?」


「いや、そうではない。真の王の魂を食すれば、永遠の命が宿ると言われていると、カイはそう信じ、自分とセラとの間の子供も望んだ。もう狂っているとしか。セラの精神ももうギリギリだった。」


「魔女はそういう生贄的な事もするのか。」


「そんなことしないわ。そんな事は経典にも書かれていない。あの男のせいよ。あの男が言ったのよ。」

 セラが思わず顔を上げて言った。

「セラ、話できるか?」

 ベルデの声かけに頷いた。


「ハナに、もうこんな事はやめてって言ったの。私たちは愛し合っているけど、あなたの犠牲になるってわかってて、子供なんて無理。それを言ったら、『何言ってるの。永遠の命よ、永遠にこの世界を支配できるの。』と返してきたわ。あなたが支配されてるのがわからないのかと、ハナに言った言葉で逆上して、この有り様よ。かばってくれたソウも、ハナの護衛兵たちに暴行されて、地下の牢に入れられてしまったの。でも手助けをしてくれる者もいたから、逃げることができたの。」


「お母さんも、娘の蛮行を止めようとしたんだね。セラ、良く耐えた。辛かったな。」

 ベルデの言葉にセラは泣き崩れた。


「やっぱり、殺すしかないだろ、ソウの娘の即位を阻止するどころか“魂” も狙われているんだぞ。それに男が魔術師でないなら、楽勝だ。」とタカが意気込んだ。


「いや、待て、ただの手品師と言うには、楽観できない事象もあるんだ。まだ、誰か裏にいる可能性は捨てきれない。ソウ、その魔術師もどきの他にも誰かいるのか?」


「何者かは分からない。数回しか姿を見たことがない。ただ、聞き取りづらくハッキリしないが『ベル』とカイが呼んでいたのを聞いたことがある。もう一人の男がいることは確かだ。」


「そうか、シャイルでも調査しているから、情報を待つことにする。あと、ペストの問題だ。もうすでに、死亡者が多数出ている。発熱者はすべて、そう思っていいと思う。」

 

 サライは続けた。

 症状を確認した者に対しては、シャイルから持参した薬を投与して改善がみられているので、その処置の継続していく必要がある。」


「その処置、私にやらせてください。」

 セラの声に力が増してきた。


「もう少し体力つけないと、セラが感染してしまう。命の関わる事だ。それに役人も、セラとソウを捜しているだろう。村にいたら危険だぞ。」


「ベルデ、分かってる。今まで、私たちがしてきた事の償いにもならないかもしれないけど、やらせてほしい。お願い。」


「しかし…。」


「ベルデ、ここは、お願いしよう。セラ、コハクの指示に従うように。決して、自分の判断で行動しないと約束してくれ。」


「ありがとう。サライさん。」


「ベルデ、自分もセラと一緒に行動する。」


「わかった。ソウ。ただし、勝手な行動は危険だ。お互いに常に情報の共有を忘れるな。よし、そろそろ、山降りようか。」


「もう少し待って。」一緒に来ていた、テルが声を落として言った。


 村に設置してきたセンサーが、反応していた。テルは、20歳の青年で、ミオ村生まれのミオ村育ちだが、この未来的な装置に興味を持ち、理解も速かった。サライがアント・アイを飛ばした画面も、食い入るように、サライとともに確認していた。


「今、村に役人が来ている。セラ達を捜しに来ているのか。村人と何か取引しているようだ。ベルデ、誰かにここへ来ることを話てきたか?」


「いや、誰にも話してない。村人の中にも裏切り者がいると想定して動いている。」


「セラ達はやっぱり危険ではないのか。」


「ベルデ、大丈夫かも。良いこと思いついた。役人に、ペストが流行ってること言えば、誰も来ないいんじゃないか。自分だったら、一目散に逃げるから。」


「タカ、たまにはいいこと言うね。では、それで行こう。もう誰か言ってるかもしれないな。」


「役人の奴、顔布で覆い始めた。これは帰るぞ。よし、山へ下りよう。」

 ベルデが画像を確認し、立ち上がった。

 

 シャイル界では、各界間での情報は、適宜、共有されていたが、課題の整理のため、オーキの指示により、主要メンバーが招集されていた。


「ミドワル界での情報は?」

 

サライは、カイ女王が今置かれている状況と妹のセラとともに行動している神田蒼真と接触が出来た経緯を説明した。


「その手品師の他に誰かいるという根拠はなんだ。」


「シンからの情報で、夢の話がまだ解明されていない。それと、学校での件も。重力を変化させる技術はやはり、シャイル界の者の仕業と考えるのが妥当と考えるからだ。そこが確定されないと、策を練れない。」


「アルコ、シャイル界で該当する者はいないか。」


「オーキから、指示された件を調査しました。夢の映像化や、他人の夢に入り込みコントロールする技術を持つ者の中に一人だけ、行方の分らない男がいました。ベルガという者です。ベルガは多元宇宙の解明に携わっており、ステラ界の相対性理論の研究もしています。」


「ワープのデーターがあったのか。」


「いいえ、正規のルートでのワープではないですね。だから、データーは残っておらず、日の特定はできていません。ただ、最近の時空の変動で、幾つかクロスエリアが自然発生しており、その公式では確認されていないクロスエリアを利用するなら、データーに残さずに行き来は可能だと思います。場所の特定もベルガなら容易だと思われます。」


「目的はなんだ?ミドワルで何をしたいのか?」


「はっきりとは言えないのですが、関係者からの情報によると、数年前から、人間の心理、それも凶悪犯罪について興味を持っていたようです。シャイルでは、幼少時から集団心理の理解や自己をコントールする教育を受けるため、犯罪は少ないのですが、その事に彼は物足りなさを感じていたようです。だから刺激的な事を求めていたのではと。」


「なるほど、これが本当なら。重罪だな。」


「シンの方はどうだ。」


「はい、真の王は白石美彩都で間違いないと思います。あと、サライにも情報を伝えてありますが、石を常に持つよう娘に伝えてほしいと、父親の神田蒼真が一度だけ、ステラに来て、ある女性を訪ねています。サライ、もう一つの石を神田は持っていたのか?」


「いえ、持ってはいなかった。時期が来たら娘に届くように、ある者に預けてあると言ってた。」


「そうか、その石を神田が持っていると思っていたが。時期を待とう。」

 オーキが質問を追加した。


「サライ、ペストの方はどうだ。」


「コハクが指揮を執っています。村人たちの協力もあり、抗生剤の効果で、感染の拡大は防げそうです。ただ、飢饉による栄養失調で、亡くなる者が多数おり、栄養が課題です。」


「ベルガであるかどうか確認と、手品師が誰か突き止める事を急いでくれ。それから、飢饉の対応だが、食物を耕作する土壌環境が似ているステラ界からの食糧の安全な送り込み方法を試行中だ。安全が確認でき次第実行する。」

 

 

 

 

 

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