平和な朝→喧騒の朝
ひと華あずき
第1話 最初はいつもの平和な朝だった
平和な朝、家族が出かけた後に、しばらくすると家の玄関先からはドン、ドン、ドン!と、何かがぶつかる物音がすることに気がついた。
しばらく聞き耳を立てていたが1分ほども続くので、仕方なく私は玄関へと向かう。
玄関のドアを開けると、そこには先ほど出て行ったはずの夫が何やら慌てている様子で立っているではないか。
どうやら、この迷惑な物音をさせているのはこの人だったようで
(いったい早朝に何をしているのだろうか?)と、まずはビックリした。
「 家を出て鍵を閉めようと鍵を回したんだけど、刺した鍵が鍵穴から抜けないんだけど!!」と、必死の形相で玄関に突き刺さったままの鍵を引っこ抜こうと、夫は奮闘していたのだ。
(あ〜、さっきからのドン、ドン、ドン!の物音は、このドアから抜けない鍵を一生懸命に引っ張っていた物音だったのかぁ・・・)と、ボンヤリと納得はする私。
(でも、あまり見たことがない光景だなぁ)
「んんん〜! こんなに頑張って引っ張ってるのに、なぜか鍵が抜けないよ!!このままだと、会社に間に合わなくなっちゃうよ〜!」
と、夫はそう言うやいなやピンときたのか、今度は玄関ドアに刺さったままの鍵とボンヤリ顔の私をそこに置き去りにする気満々でこう言ったのだ。
「 これ以上遅れるとまずいから、それじゃぁ・・・」
ってな具合で、あろうことか 全てを放ったらかした状況で、自分だけが『平和な朝』ヘと戻ろうとしたのだった。
「いや、いや、いや・・・あり得ないでしょう!!」
と、今度は一瞬にして私の頭はクリアーになった。
(一体全体こんな状態のままで、寝起きの私にどうしろと!?そもそも鍵をこんな風にドアに突き刺したのも、私がしたことではないし・・・)
第一こんなに頑張ってもどうにもできない状況なのに、私がこれ以上何かできるとも思えない。
このまま鍵を家の外側の鍵穴に突き刺してぶら下げたまま行かれたら、セキュリティー的に見ても、この鍵を引っこ抜くまでは今度は私が家には入れないよね?
と思った私は、今まさに立ち去ろうとしている彼に対して秒速で抵抗をした。
その甲斐あって仕方なく時間を気にしつつも、夫はこの場から立ち去ることもできぬままに、ドンドンドン!と鍵をドアから引っこ抜くために再び独り奮闘しだした。
それを横目に、私は一旦 家へと引っ込むと、何かしら鍵穴の滑りがよくなる物はないかな?と、ふとサラダ油などに思いを馳せていた。
油ボトルに手を伸ばした瞬間、外の夫に言わせると、本当に奇跡にも近かったらしいのだが・・・
「やったぁ〜!!!ドアの鍵穴に刺さっていた鍵がやっと抜けたよぉ〜!!」
という歓喜で湧く大声が聞こえてきたのだ。
私が半信半疑で玄関から顔を出した途端、夫は一本の鍵を私に手渡すと
「じゃっ!!もう行くから〜!!電車にも乗り遅れそうだから〜!!」
と、すぐさま猛ダッシュで走り去ってしまった。
本当にトラブルメーカーなのもはなはだしい・・・
平和な朝のはずだったのに、この【鍵のトラブル】で、一瞬にして喧騒の朝になってしまったのだから・・・
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