第37話 女神様と文化祭 後編

「ユウ君、そんなとこでぼーっとしてどうしたの?」


 一番聞き覚えのある声に振り向くと、穂香が立っていた。

 事前に見せてもらったが、やはり可愛い。ミニスカメイドにしている女子は何人かいるが、白のニーハイとスカートの間の絶対領域は穂香が一番だな。足が長くて腰の位置が高い分、より際立っていい。

 いや、個人的な感想としては、最高だとしか言いようがない。

 ただ、スカートが短すぎるのではないかと思う。足を伸ばしたまま、床に落ちている物を拾おうとすれば、間違いなく下着が見える。


「いや、さっきまで玲や菜摘と話してたんだが……それより、やっぱりそれ、短すぎないか?」

「このスカートのこと?」

「ああ、しゃがんだりしたら簡単に見えるだろ?」

「大丈夫よ、短パンはいてるし……ユウ君以外には夢も希望も与えてあげないんだから」

「そうか……それならいいんだ」


 穂香は俺が思ってた以上に対策してくれていたようだ。ありがたい。


「何かあったらしっかり守ってね。ボディーガードさん」

「ああ、任せておけ。穂香は最優先で守るからな」

「うん、なっちゃんも見ておいてあげて欲しいな。あの子、結構無防備だからね」

「わかった。二人ともしっかり見ておくから大丈夫だ」

「ありがと。じゃあ、私は調理の方を見に行ってくるね」


 そう言って、穂香は裏の方へ行った。

 ここまでするのは、痴漢、盗撮への対策のためだ。毎年、こういう出し物をするクラスは被害があるそうだ。そのため、男子の半分は警備担当みたいなものだ。


「よう、優希。あの守のコスプレ、ヤバくないか?逆の意味で」 


 誰かと思ったらチャラいホストな浩介だ。


「浩介か、あれはヤバいな。どう見ても男には見えん」

「そうだよな……お、噂をすれば……お~い、守!こっちだ」


 守はやっと女子の集団から解放されたようだ。浩介が手を振って呼び寄せる。


「あ、二人とも、こんなところにいたんだ……僕、もう帰りたいんだけど、ダメかなぁ」


 まだ、始まってもいないのに、疲れ切った様子だ。

 それにしても、近くで見ると、より美少女感が増すな。最初はつけてなかった金髪の長髪ウィッグのおかげか、パッと見て守だとわかる人も少ないかもしれない。

 普通、こういう女装って近寄ると粗が目立つはずだが、そんな感じは全くない。 


「何を言っている。間違いなく今日の主役はお前だ。楽しみにしてるぞ」

「そうそう、守はそのドレスじゃ動きにくいから、後ろの方でニコニコしててくれたらいいぜ。それだけで、男がホイホイ釣れるはずだ。あと、正体が守だってのは全員に言わないように通知してあるからな」

「それはありがたいんだけど、女装なんて絶対バレるよ?」

「大丈夫大丈夫。今日の守は謎の美少女M、彼氏はいませんって設定だからな。あ、基本的にクラスのヤツ以外と喋らなくていいからな。もし話すなら、裏声でよろしく頼むぜ」


 彼氏はいませんか……嘘ではないがな。

 今日の守は夢と希望だけを与える存在だな。




 文化祭開始から一時間、俺が思ってたよりすごいことになっていた。

 予想より人が多く、ずっと入場制限している状態だ。何人並んでるかなんて把握できていない。

 守の人気が凄まじく、「あれは誰だ?」や「彼氏はいるのか?」と、来た男たちは予想通りの行動を見せている。


 彼氏がいることが周知の事実となっている、穂香や菜摘は鑑賞用として見に来る生徒は多い。また、今回のコスプレ喫茶でメイド服着ているという事から、それを目当てで来る人も多い。

 そんな中、突如現れた守が、彼女いない男子生徒の注目を集めるのは当然のこととなった。


「なぁなぁ、あの金髪の子、何て名前なんだ?このクラスの子だよな?彼氏はいるのか?」

「ダメだ、答えられん。ただ、彼氏はいないとだけ言っておこう」

「うっひょー!マジか!ありがとう、アニキ!」


 と、こんなやり取りが非常に多い。単純な男が多くて助かるがな。

 何もかも教えられないと言ってしまうと、それなりに不満も出たりするのだろう。ただ、彼氏はいないという情報を与えてあげるだけで、皆納得してくれている。単純なものだ。

 中身は守だから、彼氏はいない。彼女はいるがな。


 そして、あと厄介なのが盗撮だ。普通にパシャパシャ撮る分にはよい。

 ただ、スカートの中に携帯差し込んだり、鞄にカメラ入れて下から撮影などがいる。見つけ次第、俺が軽い電撃をくらわせて対処だ。何人も確保しなくてはならなかったことは残念だが。



「はい、ユウ君、あ~んして」


 俺は今、穂香から目の前にフォークに乗せられたケーキを差し出されている。

 なぜこんな状況になっているのかというと、俺達は午後はフリーになっているためだ。当然、穂香と二人で見てまわることになる。

 午前中がフリーだった、浩介と菜摘と入れ違いで交代し、面白かったところなどを教えてもらっていた。その中で、穂香が行きたがったのが、他のクラスがやっている、リア充限定喫茶『爆発しろ!!』だ。

 リア充の基準は自称でもいいから、ぶっちゃけ誰でも入れるのだが、実際は完全にカップル限定喫茶と化している。

 こんな状態の所に、自称リア充がお一人様で来るのはかなりキツいだろう。

 そして、俺は穂香と二人でここに来ているのだ。


「なぁ、穂香。これはしないといけないのか?」

「うん、周りもみんなやってるじゃない。はい、口開けて……あ~ん」


 言われた通り、周りの連中も同じようにやっている。

 こういうのは慣れないが仕方ない。俺は口を開けて、穂香のケーキん受け取った。

 何と言うか、甘い。ケーキ自体も甘いが、それ以外のなんとも言えない甘さがある気がする。


「美味しい?」

「ああ、甘くて美味しい」


 そこで、俺も仕返しとばかりにケーキを穂香の方へ差し出す。


「……え?」

「ほら、穂香も口を開けるんだ」

「え?……私もしなきゃダメ?」

「当然だ。みんな期待して待ってるしな」


 周りも穂香が食べさせられるのを見ようと、食べる手を止めている。


「うう……みんな見てるから恥ずかしい……」

「大丈夫だ。ほら、あ~ん」

「う……あ~ん……」


 恥ずかしがりながらも覚悟を決めた穂香の口に、ケーキを運んでいく。


「どうだ?」

「ケーキは甘くて美味しいけど……恥ずかしいね、これ……」

「衆人環視の中でやられる気持ちがわかっただろ?」

「うん……こういうのは、二人きりの時にしようね」


 そんな感じで穂香と二人で色々見て回り、文化祭は無事終了した。

 俺達のクラスは最終まで人出が途絶えることはなかった。まさかの完売で終了した。

 ちなみに、このリア充限定喫茶も予定より多くの人が来たらしい。予想に反して、意外とカップルが多くいるみたいだ。



 数日後、夕食の準備中に穂香が声をかけてきた。


「ユウ君、お醤油ってこの前買わなかったっけ?」


 ん~記憶にないな。


「いや、多分買ってないぞ。いるならひとっ走り買ってこようか?」

「うん、じゃあ、お願いできるかな?まだ時間かかるから、ゆっくりでいいよ」


 そんなやり取りがあって、醤油を買ってきた。穂香が買い忘れるなんて珍しいと思いつつ、家のドアを開ける。


「ただいま」


 あれ?返事がない。穂香はリビングの方か……買ってきた醤油をキッチンに置いてリビングへ向かう。


「お帰りなさいませ、ご主人様」


 メイドさんがいた。それもとびきり可愛いミニスカメイドだ。その姿に思わず見惚れてしまい、ただ立ち尽くす俺がいた。

 これのために俺を外出させたんだな。わざわざ着替えてくれるとは、可愛いやつめ。


「食事にしますか?お風呂にしますか?それとも……私……ですか?」


 最後の方が恥ずかしさでモジモジしてるあたりが最高にいい。


「……おかわりはしてもいいのか?」

「え?……うん、ご飯はたくさんあるよ?」


 俺の質問が予想外だったのか素に戻った。


「そっちじゃなくて……穂香のおかわり」

「……いいよ……好きなだけおかわりしてくれて……」

「じゃあ、順番に全部……かな」

「ご飯、お風呂、私の順?……それとも、私、ご飯、お風呂、私、私、私?」


 後のやつ、穂香が多いけどいいのか。もしかして罠か?


「せっかくだから後者の方で……」

「……メイドさん、好きなの?」

「……穂香のメイドさんは好きだぞ」

「その言い方、ちょっとズルい……でも、それなら、定期的にメイドさんしてあげる」

「いいのか?」


 俺の言葉に穂香は頷くと、


「うん、いいよ……よろしくお願いしますね、ご主人様」



 こうして、月に何度かメイドさんの日ができた。この事が浩介達にバレて冷やかされるのは、まだ先の話だ。

 





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