第18話 女神様とクリスマスイブ

 冬休みに入り、去年までは何のイベントが起こることもなく、勉強と筋トレするだけで過ごしていたクリスマス。だが、今年に関しては、俺にもリア中並みの予定が組まれていた。


 クリスマスイブは浩介達とクリスマスパーティーをしようということになったのだ。ただ、お互いに夜は二人の方がいいだろうということで、ちょっと早めの夕食を食べて解散ということになる予定だ。


 午後から男性陣は買い出し、女性陣で料理という役割分担になった。俺も浩介も家にいても役に立たないからな。


「ケーキ買ってきたぜ~。どこに置いといたらいい?」

「ケーキはそっちの部屋に置いておいて下さい。あれ?浩介さん、飲み物が足りませんよ?さぁ、もう一度行ってきてください」

「マジかよ~外、寒いんだけど」

「さっさと行ってこないと、今夜もっと寒いことが起こりますがいいのですか?」

「すいませんでした!今すぐ行ってきます!」


 浩介と菜摘はこういう時でも平常運転だ。二人にとっても初のクリスマスだし、今夜は浩介の家に菜摘が泊まるらしい。


「なっちゃんは相変わらずね~」

「今日の浩介さんは、朝から浮かれているのでこれくらいでいいのです」


 そんなやり取りをしながら、準備を進めていく。夕方には準備も整い、みんなで乾杯し、楽しい時間が始まった。


「ちょっと浩介さん?チキンのドラムばかり食べるとか、自己中すぎますよ。そんな浩介さんには、こっそり作った私の特製唐揚げを差し上げます。残さず食べてくださいね?」

「え?いや……それは……ちょっとな……ナツ、せめて1個に……1個にしてくれ」


 満面の笑みで迫る菜摘に、逃げる浩介。やっぱりこいつら仲良いんだよなぁ。


「なぁ、穂香。あの唐揚げってヤバいのか?」

「うん……粉にもいっぱい辛いの入ってるけど、肉の中にハバネロとか埋め込んでた。自分で食べる用だけど、風間君が何かやらかしたら食べさせるって言ってたよ」

「そうか……そこら辺の期待を裏切らない浩介もさすがだな」

「あれを顔色一つ変えずに食べるなっちゃんも凄いけどね……」


 浩介がKOされるという、想定内?の出来事はあったが、楽しい時間というのはあっという間に過ぎるものだ。みんなでケーキを食べ、後片付けをすれば、この後はお互いに二人の時間がはじまる。


 浩介達にはもちろん内緒だが、今夜は穂香も泊っていく予定だ。


「では、私たちはこれで失礼しますね。お二人も良いクリスマスを過ごしてください」

「優希、ささやかながら俺達からのクリスマスプレゼントだ。どうせ用意してないだろうし、その内使うだろ?頑張れよ!じゃあな~」


 と、帰り際に浩介が小さな包みを一つ渡していった。



「二人が帰ると、急に静かになったね」

「ああ、そうだな。二人そろうと騒がしいからな」


 二人で並んでソファーに座る。夕方から点けっぱなしのテレビは、特番のカップル特集とかいうのをやっていて、ひざまくらしている映像が映っていた。


「ユウ君、こっちこっち」


 不意に穂香が俺から少し離れると、ソファーから降りて下に座った。


「あれ……してみたい……ひざまくら」

「は?い、いいのか?」


 突然の申し出に、しかもこんな内容を断る理由もなければ、必要もないわけで、俺はひざまくらをしてもらうことになった。


「うん、どうぞ」


 勝手がよくわからないが、とりあえず、仰向けに寝転んでみることにした。すると、頭の後ろに柔らかく暖かい感触が伝わってくる。

 真下から穂香の顔が見えるのかと思いきや、豊かな胸部に遮られて、穂香が覗き込んでくれないと見えなかった。


「ユウ君?何か変なこと考えてる?」

「い、いや、何となく……緊張してな……」

「ふぅん?あ、ユウ君の髪の毛サラサラだね~」


 そう言って、俺の髪の毛を触りはじめた。手櫛ですいたり、撫でられたりするが、思ったより気持ちいいものだな。


「ユウ君、髪の毛上げた方がカッコいいのに……髪型、変えてみない?」

「……穂香はその方がいいのか?」

「うん、変装しなくても出歩ける方がいいでしょ?」

「……そうか……考えておく……」


 自分で言っておいて、違和感に気が付いた。以前の俺なら目立つからと言っていたはずだ。

 穂香と過ごすようになって、俺も変わってきているのか……そう考えているうちに、頭の心地いい刺激につられて意識が落ちていった。


「ん……」


 どれくらいたったのかわからないが、眠ってしまっていたようだ。目を開けると穂香が優しく微笑んでくれていた。ああ、こうしていると女神様って呼ばれるのがわかるな。


「おはよ……ユウ君」

「どれくらい寝てた?」

「五分くらいだよ」

「そうか……足、大丈夫か?重かっただろ?」

「ううん、大丈夫。またいつでも言ってね。今度は耳掃除もしてみたいな~」

「あ、ああ。わかった、楽しみにしてる」


 次回、耳掃除確定……楽しみにしておこう。起き上がると、先ほど浩介からもらった包みが目に入った。


「あ、そういえば、それって何?」

「浩介と菜摘からってことらしいが……あまり良い予感はしないな」

「開けてみていい?」


 そう言って穂香が包みを開けていくと、長方形の箱。あ、これってコンドームだ。そうとは知らず、穂香は箱を開けていく。


「穂香、ストップ。ちょっと待て。箱に戻してしまっておいてくれ」

「え、うん……これって何なの?」


 言えばわかるだろうが、言っていいものか。


「あ~……いわゆるコンドームというやつだ」

「あ……あはは……ははは……」


 穂香が顔を赤くして俯いてしまった。めちゃ気まずい。


「あいつら今頃ニヤニヤしてるんだろうな」

「うん、そうだね……多分なっちゃんの案だと思うよ」

「マジか?」


 あんな可愛い顔してすげえな、菜摘。


「うん……あの……あのね、ユウ君。後で、とても大事な話があるの……そのあと、ユウ君が良ければ……それ……使っていいよ……」


 穂香の言葉が衝撃的過ぎて、俺の時間が停止した。

  



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