第14話 女神様と遊園地 前編
無事にテストが終わった次の日、いよいよ穂香と遊園地に行く日がやってきた。
目的地までは電車で片道2時間ほどかかる。テスト明け直後にこれだけ離れた場所なら、学校の人間に会う確率も低いだろうが、一応いつもの外出用のスタイルになっておく。
出かける時間になって、穂香がやってきた。
今日の穂香はスカートではなく、白っぽいワイドパンツをはいている。上はボーダーのカットソーとデニムジャケットだ。やっぱり何着ても似合うんだな。穂香の方には問題ないが、俺の方には大きな問題が発生した。
「なぁ、違う服に着替えていいか?」
「ダメよ~良く似合ってるから問題ないわ。さぁ、行きましょ」
俺の今日の服は、昨日穂香がタンスの中をゴソゴソしながら、「これとかいいんじゃないかな?」という感じで選んでいた物だ。
「いや、問題あるだろ?上半身が同じ服の様な気がするんだが?」
「偶然よ、偶然。いいじゃない、お揃いでも。ほら、行こ」
そう。昨日、わざわざ穂香が服を選んでいたのは、このためだったのだ。
後から聞いた話では、どんな服を着ていくか決められなくて、俺の服を見てから決めようと思っていたらしい。その時、たまたま持っているのと同じような服があったから、それに決めたみたいだ。
当然全く同じ服ではないのだが、パッと見た目では、お揃いにしか見えないだろう。唯一の救いは、俺が変装していることくらいか。
ただでさえ穂香と一緒に歩くと注目を集めるのに加え、服がお揃いときた。
穂香はご機嫌だが、俺の方は遊園地に着くまでに、精神的にやられそうな気しかしない。
「やっと着いた~ねぇ、どこから行く?」
リニューアルして間が無いせいもあるのか、かなり多くの人出があった。大半がカップルか家族連れだ。
「人も多いし、全部まわるのは一日では難しいかもしれないな。絶対に行きたいところは押さえて、近いところから行ってみるか?」
「う~ん、そうね。じゃあ、とりあえずあっちから行こう」
そう言って、穂香がいきなり腕を組んできた。
「えっ?おい、穂香……」
「ダメ?できれば今日はこうしていたいの」
穂香に上目遣いされてNOと言える勇気を俺は持ち合わせていない。あの我慢するのをやめると言っていた頃からだろうか。その頃から穂香の俺に対する好意をひしひしと感じるようになった。
俺自身には恋愛に関する知識が乏しいため、ネットなどで調べたりしてみた。穂香が普段俺にしている行為には、恋人同士でしかしないような事が結構ある。
穂香の性格からしても、全く気のない相手にはそんな事しないはずだ。それらの事から考えると、穂香は俺のことが好きなのだろう。
ただ、それに対して俺の方はどうだろうか?もちろん嫌いではないし、一番仲が良い異性であることも間違いない。だが、穂香が俺に向けている好意と、俺が穂香に向けているものが一緒なのか、違うのか。
それが、俺自身よくわかっていない。
以前と違うことと言えば、穂香が学校で他の男子と話したり、告白されたりという話を聞くと、なんかモヤモヤする。
独り占めしたいというか、独占したいという気があるからなのか……俺自身の事なのに、まだ答えは出ない。
「……わかったよ」
穂香がせっかく俺に向けていてくれる好意を無下にはしたくないので、できる限りのことはさせてあげようと思う。だが、やられっぱなしは俺の性に合わない。穂香が遠慮しがちに組んできた腕をグイっと引き寄せてやる。
「あっ……」
「嫌か?」
「ううん、この方がいい……」
少々恥ずかしいが、まぁいいだろう。そんなわけで、腕を組んだまま穂香と遊園地を楽しんでいった。
昼食の時間になり、俺たちはレストランに入ることにした。
今日は荷物にもなるのと、移動距離も長いことなどがあり、昼も夜も外食にしようということになっていた。ここの立地として、近くに大きな漁港がある。
そのためか、メニューにやたらと漁港直送とか、毎日市場で買い付けといった宣伝文句が多くみられる。
「ユウ君は何にするか決めた?」
「俺はこの海鮮丼セットのランチ限定特盛かな。穂香は?」
「私はね、この女性に人気のセットっていうのにしようかな」
普段から穂香が作ってくれる食事が美味しいこともあり、どうせならあまり食べたことがないメニューにしようと思った。
頼んだメニューが運ばれてきて、穂香に海鮮丼に乗ってる刺身を何個か奪われるということもあった。穂香の頼んだメニューは、普段食べている量からすれば結構少ない気がするが……そんな俺の視線に気が付いたのか、
「ユウ君、その量で足りるのか?って思ってるでしょ?」
「あ、ああ……」
「大丈夫、後であれを食べたいの」
そう言った穂香の視線の先にはクレープ屋があった。
「なるほど、納得した」
「ユウ君も食べるでしょ?」
「ああ、もちろんだ」
その後、二人でクレープを食べ、お腹いっぱいになったところで、午後の部だ。朝みたいに腕を組んで行くが、周りを見ても俺たちほど密着してるカップルはいない気がする。
そんな時、俺の携帯に着信が入った。
「あれ、電話か?」
「誰から?」
基本的に電話番号を知ってる人間が少ないので、滅多にかかってこないのだが。携帯の画面には清浦菜摘と表示されている。
「菜摘から?何か緊急事態か?」
「早く出た方がいいんじゃない?」
菜摘から電話など、今まで一度もなかった。基本的に学校では毎日顔を合わせるし、ちょっとした伝言くらいならメッセージアプリで十分だ。
「そうだな――もしもし、菜摘か。何かあったのか?」
「もしもし、優希さん、大変です!」
この後、菜摘から聞いた言葉は、全く予想していないものだった。
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