第12話 みんなで勉強会

「優希の部屋なのに、一ノ瀬さんがいることが当たり前みたいになってるな」

「そうですね、実は同棲してるとか言われても違和感ないです」


 次の土曜日の朝、浩介と菜摘がやってきた。

 今日は一日、缶詰で勉強の予定だ。浩介の集中力がどこまで続くかだが。


「残念ながらお前たちが望むような展開はない」

「それは残念だ」

「浩介さんは今日は勉強に集中して下さい。そっちは私が楽しみます」


 菜摘は浩介をジト目で見ながら言うと、俺と穂香に向かってサムズアップした。


「あはは……なっちゃん……お手柔らかにね」



 さて、浩介に教える役割だが、主に俺が理系、穂香が文系。穂香は学年1位、俺は10位以内、菜摘は20位以内につけているから、なかなか豪華な布陣だとは言えるだろう。


「さあ、とりあえず数学からいこうか。浩介、一時間やるからこの問題を一通り解いてくれるか?」


 そう言って、テスト範囲で必要な公式などを使う、基本問題と応用問題を渡した。


「ぐはっ……マジか。いきなりこれは厳し過ぎないか?」


 渡された問題の量を見て、早くも音を上げそうな浩介。


「テスト範囲の内容をどれだけ理解してるか……それを確認しないとな。まさかとは思うが、全然わからんなんてことはないだろうな?」


 もし授業の内容を全く理解していなくて、何もわからないならちょっとヤバいかもしれいない。


「いや……そんなことはないが、どれも部分的にわからないところがあるというか……」

「授業で聞いた内容は大体わかってる感じか?」

「そう……だな。その時はわかるが、後でやろうとするとわからなくなってることが多い」


 ということは、授業内容は理解できてるってことか。それなら何とかなるだろう。


「なるほど、それならその問題解きながら、わからないところを聞いてくれ。授業内容自体を理解できていたのなら、数学のテストは点数はとれる」

「そうなのか?わかった、頑張るぜ」


 穂香と菜摘はというと、早めに昼食の準備に取り掛かってくれてるみたいだ。正直、浩介以外は普段から勉強してることもあって、焦る必要もないからな。


「う~ん……すまん、優希。この問題なんだが……」

「ああ、これはこの公式を使って……おお、そうそう……」


 この調子なら、普段からやるようにすれば大丈夫だと思うが、その辺は菜摘に任せるか。

 結局、多くの問題で詰まりつつも、やり方だけ教えて自分の力で問題を解けたから、あとは何回も繰り返すのがいいな。


「よっしゃ!終わった~!なかなかに疲れたぜ」


 浩介が万歳して後ろに倒れこむ。そんなに疲れたのか?だが、本番はこれからだ。


「よし、じゃあ、今度はこれをやってくれ。今と同じような問題で、数字が少し変わってるだけだから問題ないだろう」

「マジか!そんなにやらないといけないのか?」

「ああ、解き方を覚えたら今回のテスト範囲は問題ないからな。類似問題をひたすら解きまくるぞ……サボったら菜摘に言うから、覚悟しておいてくれ」

「それを言われると、頑張るしかないのわかってて言ってるだろ?優希が鬼畜だ~」


 浩介には菜摘を引き合いに出せば絶対頑張るからな。そういう面ではやる気は出させやすいしやり易い。



「そろそろお昼にしましょう」


 浩介がもう一周解き終わった頃、昼食の準備もできたようだ。

 俺達がテーブルの上を片付けると、色とりどりの料理が運ばれてきた。今日は中華のようだ。いつも感心させられるが、穂香って何でも作れるんだな。


「いただきます」


 チャーハンや酢豚、春巻きなど、大皿に盛ってあるので各自欲しいだけ取り分ける。ただ、菜摘がいつも食べてるよりも少ない気がする。


「あれ?ナツ、そんなに少なくていいのか?」

「今はダイエット中なのです。でも、一杯食べてしまいそうです」

「え~っ、なっちゃんそんなに細いのに……」


 確かに菜摘は小柄でスリムだからな、見た感じダイエットなんて必要なさそうだが。


「あ~なるほどな……確かにこの前、お……ぶふぉあっ!」


 余計なことを言おうとした浩介に天誅が下った。


 菜摘が側にあったクッションを掴み、左フックを浩介の顔面に放ったのだ。座ったまま打ったとは思えないほどいいパンチだった。


「あら?浩介さん、食事中に寝転んでしまってどうしたんですか?もうお腹一杯ですか?食欲がないのなら、来週から私がお弁当作って行きましょうか?」


 俺は穂香の方を見ると、ちょうど目が合った。そして、二人同時に首を横に振る。穂香も同じ気持ちのようだ。まぁ、今のは浩介が悪いな。


「すいませんでしたぁぁぁ……菜摘様、弁当は勘弁してくださいぃぃぃ」


 KOされた状態から直ぐ様、土下座の体勢になる浩介。菜摘の弁当に恐怖するのには理由がある。

 菜摘は普通に料理したら美味く作れるのだが、彼女は無類の辛いもの好きだ。それも常人が発狂するほど辛く作るので、とてもじゃないが俺達では適応できない。


「なっちゃん凄いね」

「ああ、そうだな」


 俺と穂香は、二人のやり取りを観賞しながら食事を続けた。今ここで二人の間に入ると、こちらに火の粉が飛んでくるのを理解しているからだ。浩介には悪いが、静観させてもらうことにした。


「もう無理だ……疲れた……」 


 夕方には色々な意味で燃え尽きた浩介がテーブルに突っ伏していた。午後からは穂香が浩介を教えていたのだが、ここでも色々とあった。

 浩介に言わせると、穂香がマンツーマンで勉強を教えてくれるなんてことは、男子からすれば大変なことらしい。そのことを力説すれば菜摘から睨まれ、おやつの時にも昼食と同じようなことを繰り返すなど、一人だけ茨の道を歩いていた。


「浩介さんには色々と指導が必要なようなので、今日は早めに失礼しますね」


 菜摘はとてもいい笑顔でそう言うと、浩介を連れて帰っていった。


「なんというか……すごかったな」

「うん……風間君って、やっぱりああいう風にされるのが好きな人だったんだね」


 否定はしないが、浩介の名誉のために少しだけフォローしておこう。


「いや……否定はしないが、二人っきりだと違うかもしれないぞ?」

「ふぅん、今度なっちゃんに聞いてみよかな」


 それは聞いても教えてくれないんじゃないかと思うが、教えてもらえたら俺も聞きたい気がするな。

 その日の夜、二人の話で盛り上がった事は浩介と菜摘には内緒だ。 






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