第10話 母さんがやってきた

 休みの日は、朝から夜まで穂香が一緒にいることが当たり前になっていた。

 浩介に言わせれば「朝から晩までイチャイチャしやがって!」ということなのだが、実際はそんなことはない。


 俺も穂香もテストは学年上位だ。そんなわけで、二人とも元々勉強にはそれなりの時間を割いていたが、一緒に勉強するようになってからはさらに効率が良くなったように思える。個人的には、今度の定期テストが楽しみになるくらいの手応えはある。


 この日も、朝から二人で勉強していた。昼食も終わり、俺が洗い物をしているとき、不意に携帯が鳴りだした。画面には母さんの文字が……表示されている。


「もしもし……ああ、元気にやってるよ……え?マジで?……あ~わかったよ……」

「ユウ君、何かあったの?」


 穂香が顔色悪いけど大丈夫?みたいな感じで聞いてきた。


「ああ、ちょっと面倒くさいかも……母さんが来たみたい。今、下にいるみたいだからもう来ると思う」

「え?私、どうしたらいい?」

「まぁ、浩介達に話したみたいに言うしかないだろうな。今から隠れるのとかは無理がありすぎる」


 料理も途中だしな、とか思ってたら玄関のチャイムが鳴った。


 ドアを開けると、スーツを着た女性が一人。肩にかかるくらいで揃えられた髪、キッチリと着こなされたスーツはデキるキャリアウーマンを連想させる。若く見えるけど、もうすぐアラフォーの俺の母親だ。


「久しぶりね、優希。部屋が散らかってないのが意外なんだけど……あら?まあ、いつの間にこんな綺麗な彼女作ったのよ?」


 母さんはの中を見回すと、俺の後ろにいた穂香に気付いた。


「いや、穂香はそんじゃなくて、同級生の友達だよ」

「あ、あの、私、優希君の同級生で一ノ瀬穂香っていいます。優希君とは……その……お付き合いとか、そういう関係ではないんです」


 いつもより、やや緊張した面持ちで穂香が言った。


「へぇ~、そうなの?穂香さんだったわね、私は優希の母で希美よ。見たところ、かなり息子がお世話になってるみたいだけど……優希、とりあえず説明してもらえるかしら?」


 そう言って、ニヤニヤしながら俺の方を見てきた。ああ、俺に逃げ道はなさそうだ。



「なるほどね~穂香さんには迷惑かけるわね~優希って掃除も料理も何もできないから」


 母さんにも浩介達の時と同じように説明をした。その際、当然の如く俺の不摂生っぷりが明らかになるわけで……母さんから感じる視線が痛い。


「いえ、私が好きでやってることですから……私も一人暮らしなので、二人の方が何かと効率もいいですし……ご飯もいつも美味しそうに食べてもらえるので。それに放っておくと、とんでもないことになりそうなので、放っておけないというか……」


 穂香がチラチラこっちを見ながら言った。

 おい、穂香。それだと俺がダメ人間みたいじゃないか?……いや、まぁ、そうかもしれないが。


「いや、すまん。穂香には全面的に感謝しているよ」

「そうね、あんたはもっと穂香さんに感謝しなさい。穂香さんは、何かあったら優希を盾にしたらいいからね。無駄に筋肉鍛えてるから、使えるところはどんどん使ってくれたらいいわ。飽きたら見捨ててくれていいから」


 母親よ、俺の扱いが酷い気がするが……


「大丈夫です。優希君は頼りになるので、一杯頼らさせてもらってますし……私が飽きるなんて……ないと思います」

「優希にはもったいないくらい良い娘さんね~。私としては優希に頑張ってもらって、穂香さんを落とすくらいの気概を見せてほしいわね」

「あう……それは……その……」


 穂香が顔を赤くして俯いてしまった。


「母さん、俺と穂香はそんな関係じゃないって……」

「今は、でしょ?あんたもこんなに美人で器量良しの人、逃すんじゃないわよ?次来る時までには、少しは進展しておきなさいね。あ、穂香さん、ちょっと女同士でお話しましょ。優希は来ちゃダメよ」


 母さんは一気に言いたいことだけ言うと、穂香を連れて使ってない部屋に入っていった。

 しばらくして、二人が部屋から出てきた。

 穂香の顔が赤い気がするが、母さん何言ったんだ?


「じゃあ、またその内来るからね。それまでにもっと仲良くなっておきなさいよ?あと、穂香さんを大事にしなさい」

「あ、ああ。わかってるよ」


 母さんはそれだけ言うと、帰っていった。

 なんか一気に疲れた気がする。


「穂香……すまんな、疲れただろ?母さんが言ってたことはあまり気にしないでくれ」

「ううん、大丈夫。結構強引だけど……いいお母さんだね」

「俺は結構ほったらかしにされてるけどな。穂香のことは気に入ったみたいだから、今度は早めに来るかもしれないな。ところで、二人で何を話してたんだ?」

「それはね……ん~、秘密。心配しなくても、ユウ君の悪口とかは言ってないから大丈夫だよ」

「そうか?ま、いいけど……」


 いきなり母さんが来て勉強する気が削がれてしまったが、穂香の事も問題なさそうだったから良しとするか。

 しかし、母さんも無茶言うぜ。穂香ともっと進展か……俺は穂香の事、どう思ってるんだろうな。

 前は関わる気すらなかったのに、今は一緒にいることが当たり前で、この状態をもっと続けていきたいって思ってる俺がいる。


 俺はこんなんだが、穂香は俺の事どう思っているのだろう?



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