第9話 みんなで食事
いよいよ浩介達がやってくる日がきた。
穂香とも相談して、二人には俺たちの関係を言ってしまおうということになった。どういう風に話を切り出すか考えていたら、穂香に案があるとのこと。
最近よく思うが、穂香は結構悪戯好きだ。今回は、二人をビックリさせたいと思っているらしい。
「穂香ってこういうの好きなんだな。まぁ、何もしなくてもビックリするだろうけど」
「そうだけど、私が出迎えた方が面白いでしょ?」
そんなことを言っているうちに、呼び出しのチャイムが鳴った。
「来た来た。じゃあ、ユウ君は見つからないようにしててね」
「はいはい、わかったよ」
ガチャッという音と共にドアが開くと、浩介の姿が見えた。
「オッス、ゆう……き?……あれ?」
浩介が固まった。ドアを開けたら100%俺が出ると思ってるはずだからな。そこで、母さんとかならともかく、穂香が出てきたらビビる。わかるぞ、浩介。
「浩介さん、どうしましたか?入るなら早く入っ……」
浩介の後ろにいた菜摘が、動かなくなった浩介の背中から顔を出す。そして、そのまま動かなくなった。
「待っていたわ。さあ、中に入って」
二人の反応に満足したのか、穂香は笑顔で入室を促すと、一足先に戻ってきた。
「なぁ、ナツ……一ノ瀬さんがいるな」
「はい……穂香さんがいますね」
二人は、どういうことなのか全くわからないまま部屋に入ってきた。
「お、優希、これってどういうことだ?二人が何で一緒にいるんだ?」
そうなるよな。横の菜摘もコクコク頷いている。とりあえず、穂香と二人で、こうなった経緯を簡単に説明した。一応、名前呼びに関しては伏せてある。
「……何というか、俺としてはその状態で付き合ってないってのが不思議だよ」
「そうですね。開いた口が塞がらない、なんてことを、実際に体験することになるとは思いませんでした」
浩介も菜摘も相当衝撃だったのだろう。俺は二人のこんな表情は初めて見る。
「えへへ、なっちゃんがあんな顔したの、初めて見たよ」
穂香は満足そうだ。
「掃除ができたからって来てみたら、これだからなぁ。いや~まいったまいった」
「浩介、すぐに言えなくてすまなかったな」
「いいってことよ、親友。お前の事だから、タイミングをはかってたんだろ」
「まぁな」
浩介が差し出してきた手をガシッと握る。こういうことには理解が早くて助かる。
「男同士の友情って感じでいいね~」
「そうですね、浩介さんが久しぶりに男らしく見えます。普段のザコキャラっぷりが嘘のようです」
「ナツ~、そりゃないぜ~」
「やっと菜摘も調子が出てきたな」
「うんうん、やっぱりなっちゃんはこうじゃないとね」
菜摘は俺たちの言葉に少し照れたのか、少し頬を赤らめながら浩介にちょっかいをかけていた。浩介に至ってはされるがままだ。
そんな風に過ごしていたら、時計の針が十二時を指していた。
「あ、もうこんな時間なのね。お昼の準備するわ」
「私も手伝います」
そう言って二人がキッチンに向かって言った。穂香は髪の毛を後ろで束ね、エプロンを付けていく。菜摘には予備のエプロンを渡している。
基本的に料理中に俺たちができる事はない。三人も四人も作業できるほどは広くないし、二人の邪魔になるだけだ。
「リアルに一ノ瀬さんが料理作ってるんだな」
「ああ、そうだな。それがどうかしたか?」
「いや、お前は慣れてるかもしれないけど……あの女神様が作った手料理食べられるなんて、俺は幸せもんだぜ」
「あ、ちょっと待て、浩介」
そう言って、キッチンの様子を確認するが、穂香は菜摘と話していて、今のは聞こえていなかったようだ。危ない危ない、浩介が地雷を踏みぬくとこだった。
「どうした?何かあったのか?」
浩介が不思議そうに尋ねてくるので、俺は少し声を抑えて言った。
「言い忘れてたが、一ノ瀬本人に女神様ってのは禁句だ。本人は相当嫌がってるし、直接言ったら口きいてもらえなくなるかもしれないから、気をつけろよ」
「え?マジかよ?わかった、気を付ける。それって、学校の大多数は知らないよな?仲良い連中にはそれとなく言っておくわ。ナツから聞いたって言えば、信憑性もあるしな」
「私がどうかしましたか?」
サラダに使うのであろうドレッシングや、取り皿などを持ってきた菜摘が、首をコテンと倒して言ってきた。菜摘は年齢よりは少し幼く見えるが、かなりの美少女だ。そういう子のこういった仕草は、誰が見ても可愛い。
穂香に聞こえないように、小声で説明しておくことにした。
「ああ、わかりました。浩介さんは口を滑らせないように気を付けてくださいね。そうなった場合は、私も優希さんも穂香さんの味方になりますので」
それだけ言うとキッチンの方に戻っていった。
あとに残された浩介は、落ち込んでいるように見えるが、これでも内心は喜んでいるらしい。それにしても、穂香もそうだが……女は強いな。
そうこうしているうちに、どんどん料理が運ばれてきた。
「いただきます」
全員で合掌してから食べ始める。まずは、大皿に大量に盛られた唐揚げからだ。うん、美味い、これは箸がとまらない。
「一杯あるからどんどん食べてね。男子高校生二人分の食欲がどれくらいになるかわからなかったから、結構多めに作っちゃった」
「これだけ美味かったら、いくらでも食えそう。毎日食べてる優希が羨ましいぜ」
唐揚げ食べながらサラダに手を出して、更にスープまで。そんなに急がなくてもなくならないぞ。
「相沢君はね、いつも美味しそうに食べてくれるから、作り甲斐があるのよ」
「まぁ、実際に美味いしな。マジで助かってるよ。前はコンビニ弁当がメインだったからな」
「部屋も凄かったしなぁ。よくあれがこんな綺麗になったもんだ」
「今の優希さんがまともな生活を送れているのは、通い妻である穂香さんのおかげなんですね」
菜摘がとんでもないことをサラッと言ってきた。
「か……通い妻って……私はそんな……」
「優希さんの食事を毎日三食作り、部屋の掃除も小まめにして、休みの日は朝から晩までこの部屋で過ごすとか……私たちでもありませんよ?そんなお二人は、二人っきりで何して過ごしてるんですか?」
「何って……大体勉強だな」
「そうね、二人で勉強ばかりしてる気がするわ」
菜摘や浩介が期待していたような答えではないだろうが、実際に空いた時間は勉強してることが多い。
「マジかよ、お前ら……もっとこう、キャッキャウフフみたいなことないのか?」
「いや、俺たちはそういう関係じゃないからな。一切ないぞ」
「……そうなんですね、穂香さんを見てると、もっと甘い関係だと思ったのですが……」
ん?そうなのか?料理中にでも菜摘と穂香で何か話してたのかもしれないな。
「なっちゃん、私と相沢君はそんな関係じゃないから~」
「む~、微妙に納得いきませんが、まぁいいでしょう。穂香さんに後でじっくり聞かせてもらいます」
「ふぇ~ん、相沢君、助けて~」
「すまん、俺には無理だ」
菜摘によって穂香は食事後に別室に連れていかれたが、帰ってきてから目が合うと、顔を赤くして目を逸らされてしまった。
菜摘は一体何を話してきたんだ?
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