221 龍、再び……・その14



 允陶に先導されて戻っていく女たちとすれ違うように、ばたばたと足音も騒がしく男たちがなだれ込んできた。

 松明をかかげているものも多く、辺りは昼間の明るさとなった。


 男たちは口々に叫んだ。


「若宗主、遅くなりました!

 ご無事であられますか!」

「若宗主、向こうはあらかた鎮圧しました!」


 その中にあってひときわ大きな声が英卓の名を呼ぶ。


「英卓、英卓。無事なのか?

 遅くなってすまない」


「蘇悦兄? なぜ、このような時に?」


 蘇悦は抜き身の刀を下げていた。

 ここにたどり着く前までに何人かを斬ったようだ。

 近づくほどに血の臭いも濃くなる。

 彼の後ろにある小さな人影は、峰新か。


「いやな、峰さんの居所がわかったのだ。

 夜が明けてからと思ったのだが、それでは遅い気がしてな。

 駆けつけてみれば、このようなことになっていて、驚いたぞ」


「百人力の加勢、ありがたい」


「いやいや、なんてことはない。

 それにしても、白麗お嬢ちゃんが無事でなによりだった」


 蘇悦は走って来た道を振り返って、自室に戻っていく女たちを見た。


「ああ、危ないところだったが、無傷だ。

 安心してくれ。

 それよりも、峰さんの居所がわかったと?

 それは本当か?」


「おお、そうだ、そうだ。

 亜月という黒ずくめの妖婆の巣を突き止めた。

 峰新のお手柄だぞ。

 この小僧がついにやりやがった。

 おい、峰新、おまえから英卓に話して聞かせろ」


 蘇悦の後ろにいて、松明に照らされた男たちの死体を恐る恐る眺めていた峰新だった。


 その日の食べるものにも困る仲間たちと、身を寄せ合っての貧しい暮しだ。

 疫病や飢えで野垂れ死んで道端に打ち捨てられている躯は、何度も見たことがある。賭け事の揉め事で、刺されて死んだ男の躯も。

 しかし、顔に矢が刺さったり、体を二つ半分になるほどに斬られた躯は初めてだ。


「おい、峰新。

 おまえが穴が開くほど眺めても、その男たちが生き返ることはない。

 それよりもはやく、英卓に峰さんの居所を話せ」


 蘇悦に二度目の催促をされて、やっと峰新は自分がここに何をしに来たのか思い出した。


「英卓さま、お話します。

 昨日の夕方、仲間が面白い話を仕入れてきたんです。

 長年奉公していたお屋敷から暇を出されたので、家族の元に戻って来た男の話です。


 その男は長い間奉公していながら、自分のいる屋敷が安陽のどこにあるかも知らず、またその屋敷から一歩も外に出ることを許されなかった……。


 それを聞いて、もしかしたらと、おれはぴんときました」


「おお、それはいかにも怪しい話だ」

 英卓が相槌を打つ。


「おれはすぐにその男に会いに行きました。

 その屋敷の主人は、時々、姿を現す薄気味悪い婆さんで、いつも黒い着物を着ていたとか」


「亜月だ、亜月に間違いない」

 今度は蘇悦が叫んだ。


「それで、その男に道案内を頼んで、おれはその屋敷の場所を調べたんです。

 その男も目隠しをされて馬車に乗せられて屋敷を出たということで、あまり覚えてはいなかったけれど。


 それでもこの二年の間、おれたちが峰さんの乗った馬車をつけて調べあげていた道とその男の話す道を重ねると、竹林に囲まれた屋敷とぴたりと重なったんです。


 あんなところに隧道があるなんて、さすがのおれも知らなかった……」









(『龍、再び……』、14話で終わりました。

 次回から、『竹林屋敷、未明の空を焦がす』が始まります。)







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