208 龍、再び……・その1
南北に細長い青陵国の北に位置する、安陽の都の秋は短い。
朝夕、めっきり冷え込むようになった。
二年半前に慶央から出て来た英卓と白麗が、安陽で迎える二度目の秋だ。
この夏も、英卓と白麗たちは、宮砂村にある沈明宥の夏の別邸に招かれて、海辺で賑やかに楽しく過ごした。
入り江に面した山の中腹にたくさんの天幕が張られて、承将軍と第四皇子とその教育係である雲流先生が、しばらく滞在したのも昨年と同じだ。
違ったのは、赤い褌一つを身に纏った第四皇子の体の変化か。
背が伸び、肩幅も広くなって四肢に肉がついた。
飛び込みでの流麗さではいまだ白麗に勝てないが、泳ぎの速さでは彼女をしのぐようになっている。
「この日のために、一年間、皇子は勉学とともに鍛錬にも励まれました」
雲流先生はこっそりと皆に耳打ちする。
承将軍は細い目をますます細めて、頼もしい甥の成長に満足げに頷く。
昨年の夏、
赤子はあやせば声を立てて笑うようになり、可愛い盛りだ。
そしてまた赤子と同じように、昨年の夏の宮砂村にはなかったのに、この夏に増えた人の姿がある。
承将軍の妹の千夏と、彼女に付き従う三人の侍女たち。
婚家に夫を残して二度も出戻ったという悪名を持つ千夏だが、宮砂村では、承家の天幕よりも沈家の別邸で過ごすほうが長かった。
そしてその間、こまごまと英卓と白麗の世話を焼く。
三人の侍女たちも、正妃のたくらみで殺されそうになった恐怖は
しかし、萬姜への
******
楽しかった夏が終わり秋が深まったいま、良家の子女らしからぬほどに日焼けしていた白麗の肌の色も、もとの白さに戻った。
萬姜や嬉児とともに沈家を訪れて、沈老人と赤子の桃秀の歓迎を受けた。
褒賞の甘い菓子を目当てに時おり宮中に参内しては、天子と副妃の前で笛を吹く。
千夏と侍女たちもまた、相変わらず荘家に遊びに来た。
しかし何よりも、荘家の広い庭で嬉児と遊ぶ時の白麗は楽しそうだ。
白麗の肩にも届かなかった嬉児の背が、この夏にぐっと伸びた。
あと一年経てば、二人の背は同じになるだろう。
峰貴文が行方不明になったとの知らせを、荘新家に持ちこんだのは貴文の用心棒である蘇悦だった。贔屓筋の客が寄こした馬車に乗り込んだまま半月が過ぎようとしているのに、彼の雇い主は芝居小屋に帰ってこない。
蘇悦にそう聞かされた時、荘新家の若い宗主である荘英卓は開口一番に言った。
「蘇悦兄、なぜにもっと早く知らせてくれなかった?
すでに半月とは、あまりにも遅い話だ」
英卓の横に控えていた魁堂鉄も声を荒げて言った。
「蘇悦さんがついていながら、なぜに?」
返答に詰まった蘇悦は、申し訳なさそうに頭を搔いた。
「なぜに?と言われても……」
四年前に山深い銀山で英卓の命を救った蘇悦は、英卓の父である荘興より大枚な金子をもらった。
それを懐にして安陽に来た蘇悦だが、たった一年ですべてを使い切ってしまう。
偶然にも安陽で蘇悦に再会し、堂鉄はそのことを知った。
「蘇悦さん、大店とまでは言えないが、それなりの店を構えられるほどの金子であっただろうに。
なぜに?」
そう訊ねた堂鉄に、その時も、蘇悦は申し訳なさそうに頭を掻いて言った。
「なぜに?と言われても……」
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