155 承将軍、杖刑王妃と対決する・その2



「おい、これから目隠しの袋を取るんだが、声は出すなよ。

 きゃっとでもわめいたら、どうなるか?

 言わなくてもわかるだろう?」


 冷たく硬いもので、ぴしゃぴしゃと首筋を叩かれた。

 刃物だということは見えていなくてもわかる。

 震えながら頷くと、笑いを含んだ声が答えた。


「まあな、叫んだところで、周りは空き家ばかりだ。

 助けなど期待しても、無駄なことだがな」


 頭の袋が外された。

 しかし同時に、恐怖に女は目をギュッとつむる。


「おい、目を開けろ。

 おれたちは、これから男と女の関係になるんだ。

 お互いに顔も見つめ合わないんじゃ、味気ない。

 お嬢さんも、そう思うだろう?」


 今度は刃物の刃先が首筋をすうっと滑る。

 声にならない悲鳴を上げて、女は目を開けた。


 目の前にひげのないつるりとした男の顔があって、その後ろに板切れで打ち付けられた窓が見える。

 やはり男は宦官で、ここは空き家となった宮の薄暗い部屋の中だ。


「おお、これはなかなかの別嬪さんだ。

 それに、声もよさそうじゃないか。

 あの時の声を聞くのが、今から楽しみだな」


 言葉で、男は女をいたぶり続けた。

 恐怖に震えている彼女にはわからないことだが、男根を持たない宦官のお楽しみはすでに始まっている。


 隣の部屋から、頬をしたたかに叩かれて目を覚ました女の悲鳴が上がった。

 しかしすぐに静かになる。

 自分の置かれた状況に気づいて、また気を失ったのだろう。

 年端もいかぬ少年を思わせる宦官の声が聞こえてきた。


「世話の焼けるお姉さんだなあ。

 おれはさあ、正体失くした女とやっても、ちっとも面白くないんだよ。

 ほらほら、お姉さん、起きてくださいよ」


 二度目の、頬が打たれる先ほどよりも大きな音がした。

 目の前の男がふふふと笑う。


「若いのに、あの男もなかなかやるじゃないか。

 世の中には、気を失っていたほうが、よかったってこともあるんだがな。

 さてと、この可愛い顔が苦痛に歪むのを、いや、違ったな、喜びに歪むのを拝ませてもらおうか」


 刃物を片手に持ったまま、男はもう一方の手を女の着物の襟の合わせに入れてきた。

 乱暴に胸がまさぐられる。

 濡れた長い舌を突き出した男の顔が近づいてくる。


 最後の力を振り絞って、女は顔を背けた。


「なんとまあ、気の強い女じゃないか。

 残念ながら、おれは気の強い女が好きなんでね」


 舐められ噛みつかれた女の耳に、男が囁く。


「もしかして、おれたち宦官に女が抱けないとでも?

 それはお生憎さまなことだ。

 おれたちにはおれたちのやり方があるんだよ。


 それをこれから、その体にたっぷりと知ってもらおう……。

 ……、うっ?」


 大きな音ともに、薄暗かった部屋に光が満ちた。

 蹴破られた戸や窓から、武具を着込み刀を手にした男たちがなだれ込んできた。


「そのやり方とやらを、おれにも教えてもらいたいものだな、宦官よ」

 

 この場所には相応しくない、朗々とした美声が響く。

 その聞きなれた頼もしい声に、女が叫んだ。


「将軍さま!

 お助けください!」


「怖い思をさせたな」

 将軍は女に優しく言い、そして男に言った。


「その女は、我が妹の大事な侍女だ。

 男でも女でもない、おぞましい体をすぐさまどけろ!」









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