066 峰貴文、英卓に生い立ちの秘密を語る・その3
安陽でも指折りの建物の大きさと絢爛さ。
抱える妓女たちの美貌と、通い詰める客の素性のよさと金払いのよさ。
それらを誇る胡玉楼は、峰家の所有する妓楼・酒館・飯店・客桟の一つだ。
当然ながら、名を上げたとはいえ、若造でしかない英卓たちが気安く登楼できるような場所ではない。
手堅く商いの道に励んでいる年の離れた兄たちに、女装の戯作者である貴文は甘やかされているのか。それとも、今回、英卓と白麗を題材にした芝居を大いに当てた、変人だが可愛い弟でもある貴文への褒美なのか。
胡玉楼の最上階で不夜城の安陽の街並みを一望できる贅を凝らした部屋は、最上級の客のためのものだろう。
英卓の横にと貴文が名指しした青愁を除けば、堂鉄と徐平そして貴文の用心棒である蘇悦の横に侍る女たちは、初々しいほどに若く花ように美しい。
今朝のことだった。
「青愁ちゃん、長く待たせたわね。
約束通り、今夜、胡玉楼に英卓ちゃんたちを招いたわよ。
お相手をよろしく頼むわ」
女物の着物を着て長い髪をさらさらと垂らした貴文にそう言われた時、青愁は思わず言ってしまった。
「峰さん。
あたしのような年増が
しかし口では不安を言葉にしながらも、期待と喜びで胸は高鳴る。
「まあ、青愁ちゃんらしくないことを言っちゃって!
男と女の関係にどちらが年上なんて関係ないわ。
びびっと来るものがあれば、それで成立よ。」
それから小首を少し傾げて、彼は言葉を続けた。
「男と男の間も、そうだといいんだけどねえ。
こちらは、男と女ほど簡単ではないのよ、苦労するわ……」
「まあ、峰さん、そうなの?」
自分を慰めてくれているとわかっていても、その心遣いが嬉しい。
その言葉にころころと笑ってはみせたが、それでもやはり聞かずにはおれなかった。
「英卓さまは、お幾つなのかしらね?」
「そうさねえ、二十歳を二つか三つ過ぎたところかしら。
うふう、おのれの肉欲を持て余すだけを卒業して、女を喜ばすことも知ってきたいい年頃ね」
しかし貴文の言葉を、青愁は終わりまで聞いていなかった。
二年後には三十路になる自分の齢について、彼女は想いを馳せていた。
胡玉楼で女を売れるほどに、自分が美しくも若くもないことを彼女自身が一番よく知っている。
それでもここにいられるのは、貴文のおかげだ。
彼女の気の強さと物おじしない喋り方を、彼は気に入ってくれた。
そしてその使い方を教えてくれた。
若い妓女の気が利かぬと客が騒動を起こしても、彼女の啖呵はその場を収める。
そして人一倍大きく張った乳房の使い方も。
世の中には、若さでもなく美貌でもなく、胸の大きさを女に求める男が少なからずいるのだ。
十三歳の時、彼女は口減らしのために親に売られた。
あの時はゴボウのように色黒で痩せていた。
成長とともに色白となり、これほど胸が大きくなると親たちが気づいていたら、もっと高値で売ったことだろう。
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