039 梅鈴、宝成の元へと走る・2


 徐平の手を引いて炭小屋に入ると、梅鈴は彼を炭俵の上に押し倒した。

 彼の着物の前をまさぐる。


「梅鈴ちゃん、こんなことしちゃあいけない」


 徐平はそう言ったが、若い男の体は正直だ。

 熱く固くなったものをしばらく着物の上から弄ぶ。

 男の帯を緩め、理性とは別の生き物になったそれを自由にしてやった。


 そして、梅鈴はすっと徐平から体と手を離す。


 乱れた息遣いをなんとかもとに戻そうと荒い息をしながら、徐平は言った。

 「梅鈴ちゃん、おれ、おまえのことずっと可愛いと思っていた」


 彼女も目を伏せることなく答える。

「あたしも、徐平さんのこと、頼もしい男の人だと思っていたわ」


「それ、本当かい?」


 返事の代わりに梅鈴は両手を自分の着物の衿にかけると、力任せにひっぱった。 


 白い肌の胸があらわになる。

 徐平の手をとって、やわらかい膨らみに押しつけた。

「徐平さん、どうしても聞いて欲しいお願いがあるの」


「前にも言ってなかったかい?

 梅鈴ちゃんのためなら、おれはなんでもするって」


「病気のおっかさんのお見舞いに、あたし、どうしても家に帰りたいの。

 萬姜さんの許しを得なくちゃいけないとは知っているのだけど、お嬢さまのこともあって、言い出しにくくて。

 走って帰って、おっかさんの顔を見たら、すぐに走って戻って来る。

 約束するわ。

 徐平さんには、絶対に迷惑をかけないって」


「なんだ、梅鈴の頼みごとって、そんなことだったのか。

 簡単なことだよ。

 門番には、おれから話をつけてやるよ」


「ほんとに? 

 ほんとに、信じていいのね」


 徐平の返事はなかった。

 彼は女の腰を抱くと、くるりと身を翻して女を組み敷きその上にまたがった。

 容赦なく体重を女の細い体の上にかける。

 着物の裾が乱暴に捲られた。

 強い力で足首を握られて、足が高く持ち上げられる。

 すぐに下半身に侵入してくるものがあって、その勢いで梅鈴は炭俵に頭をぶつけた。


 思っていたことと何かが違う。

 

 それは弟のようだとあなどっていた徐平の猛々しい変身か。

 それともあられもない格好で、男の下で体を開いている自分の姿か。

 梅の散る季節に初めて男を知って半年も過ぎぬうちに、他の男に身を任せることにためらわぬ自分の心か。


 しかし頭から足の指先にと突き抜けた快感に、何も考えられなくなった。






******


 言葉通りに女は小走りに駆けていく。

 その姿が夏の朝が明け切ろうとする通りの角に消えようとする時、その後ろに小さな影があらわれた。

 安陽の道について知り尽くしている峰新だ。


 女とその後をつける子どもの後ろ姿を、門の陰に立った三人の男が見送っていた。


「若宗主と関景さまに、万事、首尾よく運んでいると知らせる」


 徐平の横に立っていた二人の男のうちの一人、堂鉄がそう言って踵を返す。

 その後ろに続こうとした徐平の頭をもう一人の男が小突いた。


「若造のくせして、女を喜ばせる術を知っているとは。

 朝からあのような声を聞かされた身にもなってみろ」


 ことが終わるまで、彼は見張り役として炭小屋の前に立っていたのだ。

 徐平はいつものくったくのない声で答えた。


「先輩、それは買いかぶり過ぎっていうもんですよ」





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