さて、今日もまた違う異世界で目覚めて、隣の美少女が何故俺に惚れているのか推理するとしますか
メグリくくる
エピローグ
かつて少子化対策の為に異世界転生する羽目になった主人公がいるだろうか?
気が付くと俺は、この場所に居た。
ひたすら、何もない空間。目の前一面、真っ白なペンキをぶちまけた様な、遠近感が狂ってしまうような場所だった。いや、もう既に狂っているのかもしれない。自分の手を目の前に持ってきても、本来なら見えるはずの俺の手が、今は見えないのだ。
「戸惑っておるようじゃな、夕城 竜兵(ゆうき りゅうへい)」
「誰だ!」
俺の名前を呼ぶ声に反応して、ようやく俺はこの不思議な空間で、自分が声を発することが出来るという事と、自分の声を聞くことが出来る事に気が付いた。ついでに遠近感も戻ってくれればいいのだが、声をかけられた先に振り向いた、と俺は動いたつもりだが、俺の目の前は相変わらず、真っ白な世界しか広がっていない。
「すまんのう。立場上、おぬしにワシの姿を見せるわけにはいかんのじゃよ」
「……お前、一体何者、いや、俺は一体どうなったんだ?」
男性と思われるそのしわがれた声に、俺はそう問いかける。声の主が何者なのかも気になるが、姿を見せる事が出来ないという発言から、俺はその問い、相手の存在についての疑問を投げかけても、相手から俺の期待する返答が返って来る確率が低いと推測。相手の存在を追及するのではなく、俺の身に何が起きたのか、その情報を集める事を優先した。
もちろん、この問いに、相手が答えてくれるとは限らない。だが、俺に声をかけたという事実から、何かしら俺に伝える事があるのだと予想して、相手の事ではなく、俺自身の事に関する事柄を問いかけた。
果たして、俺の推理が当たっていたのか、声の主は少し喜色を含ませた様に言葉を紡ぐ。
「竜兵よ。おぬしは、トラックに轢かれて死んだのじゃ」
「……は?」
「じゃが、おぬしは高校一年生になったばかり。このまま命を散らすのも、不憫に思ってのう。おぬしを異世界に転生させてやろうと思ったのじゃ」
「はぁぁぁあああ?」
いやいや、何喜色を含ませてそんな馬鹿な事を言っちゃってるんだ、こいつは。死んだ? 俺が? え、マジで? 本当に死んだの、俺? 全然記憶にないんだけど! それより、異世界転生って、は? はぁ? はぁぁぁあああ?
「いやいやいや、おかしいだろ! そんな展開、そうそうあるわけないだろっ!」
「いやいや、いつもおぬしがたしなんどるラノベやアニメでは、ポピュラーな展開じゃろうが」
「何で俺のプライベートに詳しいんだこいつ!」
いや、本当におかしいだろ。異世界転生? 百歩譲って俺にそんな展開が訪れたとしても、そんな展開を引き起こせる様な、俺を異世界転生させれるような存在なんて、それほど多くはない。
俺の考えを読んだのか、そいつは口角を吊り上げるようにして、こう言った。
「そう、ワシは、神じゃ」
「だったら普通に姿見せろよ!」
「えー、こういうのはもったいぶらせるのがいいんじゃろ?」
「知らねぇよ! 本当に異世界転生した知り合いなんて俺の周りに居ねぇんだからっ!」
え、そういうもの? 異世界転生する時って、もっとこう、わくわく感とか、こう、胸の奥から熱いものがこみ上げてくるような、そういうものがあるんじゃないの? リアルに異世界転生する時って、こんなにあっさりしてるもんなの?
いや、それよりも、俺はこの神様とやらに問いかけなければならない事がある。
「何で、俺なんだ?」
「……何がじゃ?」
「他の人でもいいんじゃないか? って言ってるんだよ。高一になったばかりで死ぬのが不憫だというのなら、もっと若くに死んでしまう人だっているし、こいつ異世界に転生してやってもいいな、って思えるような人は他にもいるはずだろ?」
「いいや、おぬしじゃなければダメなのじゃ」
「……どうして?」
少し前のめりになるように、俺は問いかけた。
「それは、おぬしに手伝って欲しい事があるからじゃよ」
「……なるほど」
俺はそこで、納得した様に頷くと、こう切り出した。
「だからあんたは、俺を殺したのか」
その言葉に、神様は、嫌らしい笑みを浮かべた様に言葉を作った。
「流石MDEの、名探偵の一人。何故犯行に至ったのか(Why done it)に気付く才能は、ピカイチじゃな」
その言葉に、俺は嘆息する。
MDE。それは、朝昼夕(Morning day evening)探偵事務所の略称だ。事件の解明には、犯人、犯行方法、動機、この三つが密接に関係する。MDEは、犯人は誰なのか(Who done it)、どうやって犯行を行ったのか(How done it)、そして、何故犯行に至ったのか(Why done it)、この各要素を導き出すのに特化した三人組で活動している探偵事務所であり、三人の名前からそれぞれ、朝、昼、夕を並べて、朝昼夕探偵事務所と名乗っていた。
そして俺はその中で、何故犯行に至ったのか、を担当しているというわけである。
「別に、褒められる様な事はしてない。まず、俺の身に起きている、この摩訶不思議な状態。誰が、そしてどうやってこんな状態を維持しているのか、俺には皆目見当が付かないだけさ」
他の二人ならいざ知らず、どうやって推理しろっていうんだ? 目の前は一面白色で、自分の手すら見えない。何かトリックがあるとしても、俺の知識から、俺をこんな状態にした犯人や、その方法を導き出す事なんて不可能だ。
だったらいっそ、犯人を神様と仮定し、この状態を神様の力で導いたと想定して、何故相手はそんな事をしたのか? その一点に思考を割いた方が、まだ建設的というものだろう。
天才的な閃きではなく、事実に基づいた思考。何故俺は死んだのか? 何故この神様が俺を異世界転生させようとしているのか? 何故神様が自分を殺したのか?(Why done it) それなら、凡人の俺にも考えられる。何故ならそれは、問題の渦中にいる当事者の中に、必ず存在するからだ。例え見え辛く、忘れていたとしても、それは確かに存在する。
何故犯行に至ったのか、に気付ける才能なんて言われたが、結局の所、俺は相手の発言と行動から、目で見て、聞いて、感じた事実を、ごく当たり前の事実を導く事しか出来ないのだ。普通に考えて、犯行現場を見ただけ犯人を当て、その方法までわかる他の二人の方が、探偵として優秀に決まっている。それでも俺が三人組(トリオ)の一角に加えてもらえているのは、偏に犯行動機が、刑事裁判では必要になるためだ。事件を終わらせるためというよりは、その後処理、雑務をこなしているに等しい。
だから俺は他の名探偵たちとは違って、警察の人達との連携をする雑務をこなす事で、ようやくその末席に座れているような、一般人なのだ。
「まーた自虐的な思考に沈んどるな? 神様のワシに認められて殺されたんじゃ。誇っていいと思うがのぅ」
「ふざけるな! 神様に目を付けられて殺されるって、そんな才能一ミリだって必要ねぇよっ!」
一応、俺だって数々の事件を解決するために、調査協力をしてきたのだ。世の中的には善行を積んだと言ってもいいのではないだろうか? それが何故、神様に異世界転生をするために殺されにゃならんのだ! 納得いかんっ!
憤慨する俺をなだめる様に、神様は俺に声を投げかける。
「まぁ、そう言うでない。おぬしに是非、協力して欲しい事があるのじゃ」
「……どうせチート能力付きで異世界転生するんだろ? なら、やっぱり俺じゃなくても、他の奴にでも出来る事なんじゃないのか?」
「安心せい。チート能力はつけん」
「それで殺されて異世界転生させられるって、俺は前世にどれだけの悪行を犯したんだよ!」
「じゃから、そう自分の能力を卑下にするなと言うとろうに。おぬしの、その何故そうしたのか(Why done it)の力が必要なんじゃよ」
「……ますます、よくわからん。異世界転生させられる理由なんて、パターン的には前世の救済処置とか、転生する異世界を救って欲しいとか、そういう奴だろ? 前世の知識を活かして無双するにしても、自慢じゃないが俺はそんな知恵も、その知恵でのし上がれるようなコミュ力もない。何故そうしたのか(Why done it)が活きる世界なんて、魔法や魔術で事件が連発する、犯人も犯行方法も意味をなさない、修羅の国みたいな所じゃないのか? そんなところ、チート能力なしで生きていける気がしないんだが」
「少子化対策じゃ」
「……は?」
あれ、どうやら俺の耳はおかしくなってしまったみたいだ。今、神様があり得ない発言をした気がするんだが。
そんな俺の困惑をよそに、神様は、滔々と俺に説明を続ける。
「実は、ワシの管理する世界、おぬしの居た世界もそうなんじゃが、少子化問題で人口が増えず、困っておるのじゃ。このままでは、全ての世界が人口減少に伴い、絶滅してしまうからのぅ」
「……そんなの、神の力で人増やせばいいんじゃないか?」
「不自然に人種を増やせば、今まで住んでいた人と土地の奪い合いが起きて、戦争が起きる可能性が高い。結果、人口が減るわけじゃ」
「なら、今いる人同士を夫婦にすればいいんじゃないか? 手当たり次第にくっつければ、子供も生まれるだろ?」
「お前、愛し合ってない男女を勝手にくっつけるとか、正気か? 鬼畜過ぎるじゃろ!」
「俺、今俺を殺した相手に鬼畜って言われた!」
「そこでワシは考えたわけじゃな! 互いにあと一歩踏み出せない、カップルになりそうでならない、っていうか、もう確実に女の子の方が惚れとるのに一歩を踏み出せない男に、相手の女性の気持ちに気付ける、男が女の子の想いを信じられるように出来る存在と同化させれば、男女の仲を進展されるのではないか、とっ!」
「もうあんたがセーフだと思ってる倫理観が全然わからないわ、俺」
俺は見えない手で、自分の頭を抱えた。
ああ、もうわかった。完全にわかった。何故神様が、俺を転生させたいのか。何故俺を異世界の男に同化させたいのか。その理由が、何故が、俺には嫌なほどわかり過ぎてしまう。
「つまり俺は――」
「そう、何故惚れているのか(Why done it)。それを、異世界転生して推理して欲しいのじゃ。そして、推理が終わったら、また別の異世界の、別の男に同化しに行ってもらう」
「いやいやいや、他の男と女をくっつけるために殺されたとか、それはマジないでしょっ!」
そもそも俺は、生きていた時に恋人すらいなかったんだぞ? そんな俺が、恋のキューピット役みたいな事出来るわけがない。
「安心せい。おぬしの才能は、ワシが見込んだ通りじゃ。童貞のおぬしでも、ちゃーんとカップルを成立させれるじゃろう」
「何でそこでそういうディスり方するかな! そんな役、俺、絶対やらない! 大体、何が悲しくて他の男と女をくっつけないとならないんだよ! 死んでるんだよ、俺!」
「じゃから、一定数のカップルを成立させたら、生き返らせると言うとろうに」
「ああそうか、って言ってない言ってない! 何でそういう大事な事さらっというのさ! しかも後出しでっ!」
「それに、おぬしには役得じゃよ? 同化しておるから、異世界に転生した男性自身を自分自身と感じるし、もうどこからどう見ても自分に惚れとる女の子、しかも全員美少女がお隣にいる状況じゃよ? 一日毎に自分に惚れとる美少女と出会えるんじゃから、最強のキャバクラじゃよ」
「いや、行った事ないからわからないから! っていうか、一日毎? Why done itを導き出すのに、時間制限があるのか?」
「朝から夕方までに事件を解決する、MEDのおぬしには、それぐらい朝飯前じゃろ?」
「いや、俺、朝昼夕の夕担当だから」
「じゃあ、晩飯前じゃな。頼む! 何処からどう見ても惚れられとるが、女の子の想いを信じられず一歩踏み出せない、自分に自信のない男に同化して、何故相手に惚れられているのかを解き明かし、男女をくっつけてもらえんかっ!」
「いや、リア充爆発しろとしか思えねぇんだけどっ!」
そもそも、俺にだって、好きな人がいたのだ。最終的に生き返らせてくれるのかもしれないが、それでもその相手とは死別させられた、と言う事実に、俺は否定的な感情しか持てない。
しかし、神様は拝みこむ勢いで、言葉を畳みかけてくる
「頼む! この通りじゃ! 友達以上恋人未満の男女の背中を押して異世界でカップルを成立させてくれれば、おぬしの想い人と両想いの状態で生き返らせてやるからっ!」
「……おい、今何て言った」
「じゃから、おぬしが転生する先の男は、美少女に惚れられとるから、男の方の背中を蹴り飛ばす勢いで――」
「そっちじゃねぇよ!」
え、嘘。両想い? マジで?
「え、でも、あんた、無理に恋人同士にするのは否定的だったんじゃないのか?」
「(だってもう、おぬしのお隣の想い人は、既におぬしに惚れとるからのぅ。別にワシの力使う必要ないし、異世界転生で女性の好意に気付く経験、と言うより武者修行を終えて生き返れば、おのずとその想い人とはくっつく事になるじゃろうし)」
「え、なんだって?」
「そういうワシに都合のいい難聴気質な所も、おぬしを選んだ理由じゃよ」
「いや、よくわからないんだが……」
ともかく、生き返った後の事は期待してもいいようだ。
「でも、異世界に転生して、そこで男と同化するって、どういう感じなんだ?」
「わかりやすく言えば、ギャルゲーやっとる様な感覚じゃな」
「わかりやすいのかわかりにくいのかわからん!」
「アニメを視聴していたり、ラノベを読んどる感じ、と言えばいいのかのぅ?」
「この神、世俗にまみれ過ぎているっ!」
「まぁ、自分自身という存在が居ながら、キャラクターに感情移入しているような、そういう感覚じゃな」
「その説明を最初に持ってくればいいだろ!」
正直、男女の仲というのがどういうものか、よくわからない俺は不安しかない。が、何もしないでこのまま死ぬという選択も俺にはない。生き返れるという選択肢がある以上、俺はこの、怪しい神様の提案に乗るしかないのだ。それに、生き返った後の特典も、正直言って魅力的だった。
まずは女性が、俺が同化した男のどこに惹かれているのか、そこを探り当てるのが、仲を進展させるポイントになるだろう。むしろそこ以外、神様が俺に見出した、何故惚れているのか(Why done it)を活かす手立てがない。そしてそれは、人の中にしかないはず。今と昔、惚れる前と惚れた後のギャップに、きっとヒントがあるはずだ。
果たして俺は、異世界転生した先の男女の仲を、進展させる事が出来るのだろうか?
これはその、苦難と苦労と苦渋の事件(記録)である。
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