昨日は勇者で今日は魔王で、明日の朝にはまた勇者

メグリくくる

序章

決戦当日

『プレイヤーのログインを、確認しました』

 無機質な機械音が、俺の耳に届く。

 その言葉が正しいと言わんばかりに、眼前のスクリーン、右半分へキャラクターが表示される。現れたのは、女性のキャラクター。凛々しい表情は決戦へと赴く戦乙女という言葉がよく似合う。いや、このゲームの特性で言えば、勇者と言うべきだろうか? 身に着けている装備は露出度が高く、姫騎士、と言うより、ストレートにビキニアーマーと言ってもいいかもしれない。大胆に開いた胸元へ、俺は思わず拝みたくなった。

 スクリーンに映し出されたキャラクターは、それを操るプレイヤーと、瓜二つ。プレイヤーの身体的特徴をゲームへそのまま反映しているのだ。これは、このゲームをプレイするために必要なデバイスが優秀だと言っていいだろう。

『プレイヤーのログインを、確認しました』

 更に、無機質な機械音が聞こえて来た。

 先程と同じように、眼前のスクリーン、しかし、今度は左半分へキャラクターが表示される。現れたのは、これまた女性のキャラクター。その挑発的な表情は見るモノ全てを自分の手中に収めた、収めるのが当然という女帝そのもの。ゲームの特性に合わせて言えば、魔王と呼ぶべきだろう。身に着けた鮮血を思わせるドレスは大胆に胸元が強調されるデザインになっており、俺は思わずありがとうございますと言いたくなった。

 繰り返しになるが、スクリーン上のキャラクターは、こちらもプレイヤーと瓜二つ。いや、先に映し出された勇者のキャラクターとも、顔が瓜二つだ。しかし、その不自然さも、二人のプレイヤーの関係性を知れば納得できるだろう。

 つまり彼女たちは、双子なのだ。

 双子のプレイヤー。その片方が勇者で、もう片方が魔王なのだ。

「き、今日は、私が勝つよ、お姉ちゃんっ!」

 眼鏡を押し上げながら、まるでクラスの委員長を思わせる生真面目さで、勇者のプレイヤーがそう言った。

「ふふーん、言う様になったじゃーん? しの。でも、今日はあーしが勝つしぃ」

 一方、魔王のプレイヤーはカラフルなネイルを施した指を髪に絡ませ、余裕を持ってそう告げる。

 しかし、互いを睨む視線は真剣そのもの。プレイヤーの二人は、ゲーム上で実際に対峙しているように見つめ合っているのだ。

『勇者陣営のプレイヤー、魔王陣営のプレイヤー、双方正常にログイン出来たことを確認。これより、『勇者と魔王の物語(Take the Bad with the Good)』のβテストを始めます』

 言うが早いか、部屋中におどろおどろしくも、それでいて胸を躍らせるBGMが部屋中に流れる。今からここで、双子の姉と妹、つまり姉妹のプレイヤーが、互いの想いと想いをぶつけ合うのだ。

 スクリーンは移り変わり、戦いが、始まる。

 それを俺は見つめながら、何故こんな所に自分がいるのかを思い出していた。

 そう。思い起こせば、あれは一か月前に遡る。想いを馳せるのは、丁度俺が通う入学式が行われた、あの日。

 入学式が終わった、その後に。

 俺は、拉致られたのだ。

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