フォトジェニック・ディストーション

プロローグ;追憶ハレーション

「マコト、お前は"写真"にならなきゃいけない」

 夕景を撮りながら、小室おむろマコトの父、光一はそう言った。


「写真になる? なんだよ、それ。俺を撮るのか?」

 マコトは父親の撮影を後ろから眺めていた。夕日が目に飛び込んでくるために、目は細めていた。


「違う違う。いいか、写真は『真実を写す』って書くだろ。つまり写真は真実、本当の事って訳だ」

「それは分かったけど」

「だから"写真"になるってのは、正直に生きるってことだ」


「回りくどいなあ。初めからそう言えばいいだろ」

「いいじゃねえか。『人は"写真"のようにならねばならない』なんて言ったら名言っぽくなるだろ?」

 はは、と笑いながら光一はカメラを顔の前から下ろした。十分撮影をしたらしい。


「——俺は……出来なかったからな」

「何か言ったか、親父」

「何でもねえよ」


「マコト、正直に生きろよ」

 光一は振り向き、マコトを見つめてそう言った。

 その表情が笑顔なのか、悲しげな物なのか、マコトには分からなかった。

 少なくともそれは、逆光のせいではなかった。

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