3つのキーワードで書く短編集
ゆーき
時をかける酢昆布
キーワード『水族館』『時かけ要素』『昆布』
『おとめ座のラッキーアイテムは酢昆布です! 今日は8月7日! 今日も元気に・・・』
やったラッキー、いつも常備している酢昆布だ! なんて、いつもは大喜びで出掛けるところだけど、今日だけはそれは出来ないですごめんよ神様。だって今日は片思いの相手陸くんと水族館にお出かけだから。
いつも酢昆布持ち歩いては食べてる変な女って思われたくないからね。それに今日は8月7日、華の日!? なんちゃって。
前に陸くんは、「ロングで清楚系な子が好き。一歩後ろを歩いてお淑やかって感じが好きだな」なんて言ってたもんだから普段のポニーテールをやめて、清楚系のワンピースを着こなして(主観的)、ちゃんと待ち合わせの時間の15分前には集合場所に行けるように家を出たし、私完璧か!? なんて思っていました。
「りぃkゲフン、りくくん、おはよ」
待ち合わせ場所のイルカの銅像に着いたところ、先に着いていた陸くんは、今日も滅茶苦茶カッコよくて、思わずいつものように大声で駆け寄ろうとして踏みとどまった。危ない。今日の私は清楚系。清楚系。
「しずく・・・?」
対する陸くんは、私の足先から頭のてっぺんまで舐めるように見ながら、やや疑問を持ちつつ答えている。どうしたんだろ?
その後水族館に入った私は、普段なら駆け出してタッチプールのナマコをつついたり、水槽に泳ぐ魚を見て「これ食べたらおいしいかな?」って食い意地はったり、イルカショーで最前列に座ってびしょ濡れになりにいったり、お土産で有名な「皇帝ペンギンほろつきくん」のぬいぐるみも買うこともせず、ただ一歩後ろを行くように、感想も、「奇麗だねー」とかいうありきたりな言葉を口にし、イルカショーも後ろの方で、奇麗なワンピースが濡れないようにして、お土産だって大してほしくもないものを買ってみたり、ただただ清楚な私を演じていた。あー、酢昆布食べたい。
陸くんの理想を演じる時間が終わった帰り道、陸くんは私をみつめ、そして寂しげに、
「なんか、つまんなかった? ごめんね、今度はしずくと仲いい子も誘うね?」
なんて気を使わせてしまった。言わせてしまった。。。終わった。。。何が華の日だよ。ヤな日だわ。そんな風に絶望の淵に立っていた時、聞こえてしまった。
『・・・・・・・・・・・・・・・・、・・こ・・ぶ・・・・・・・・よ』
声が聞こえる!? こぶよ? こぶよってなに?そう思って見上げた先にはイルカの銅像。
『・・・・・・・・・・・・・・・・、すこ・・ぶ・・ささ・・よ』
いやいや、幻聴? 熱中症かな? 銅像が話すはずが・・・まさかね。
『ありのままでよい、酢昆布を捧げよ』
そのまさかじゃん!なんか目とか光ってr・・・・・・。
『おとめ座のラッキーアイテムは酢昆布です! 今日は8月7日! 今日も元気に・・・』
やったラッキー、いつも常備している酢昆布だ! って、ん?あれ? なにかがおかしい。8月7日、、、ヤな日、、、はっ、これって、昨日に戻ってる!?
まずは状況を整理しよう。デートは失敗、イルカの銅像からのアドバイスでは、ありのまま、酢昆布がなんとか。。。よし。いける。今度こそは。なんだかわかんないけどチャンスを生かすしかないよね!?
そういうことで、昨日(?)の反省を生かして今日はいつもみたいにポニテで、服装もイルカショーを見越してラフな格好に! 酢昆布もちゃんと持って、いざ出陣。
待ち合わせ場所のイルカの銅像では、やっぱり先に着いていた陸くんが待っている。昨日と同じく滅茶苦茶カッコよい。
「りぃくくーん!」
いつものように駆け寄り元気な挨拶。気を張らなくていいんだよね?そう思いながらイルカを見上げるけど、光ったりはしないんですね~。
「しずくおはよ!」
対する陸くんも元気な挨拶を返してくれた! 昨日みたいに全部みてくれないけど、イルカ!ほんとに大丈夫?まあいっか。ありのままで! 行っちゃえ!
水族館に入った私は、昨日やりたかったことを満喫した。駆け出してタッチプールのナマコをつついたり、水槽に泳ぐ魚を見て「これ食べたらおいしいかな?」って食い意地はったり、イルカショーで最前列に座ってびしょ濡れになりにいったり、皇帝ペンギンほろつきくんのぬいぐるみも買って、もちろん酢昆布も食べたりして。
そんなことをするたびに陸くんは、一緒に笑ってくれて、「これはマズそうだけどね?」って答えてくれて、一緒に濡れてはしゃいでくれた。なんか、陸くんの理想とは真逆なんだけどなあ。。。
そうして最後、帰り道、陸くんは私を見つめる。今度も寂しそう。あれ?
「りくくん!? 今日はすごく楽しかったよ!?」
「え? うん、楽しそうなの見ててすごく伝わったよ?」
「じゃあなんで寂しそうに・・・」
そう言った途端に顔を赤くする陸くん。え、わかんないよ!? そうやって困っていると、
「・・・楽しかったからさ」
「え?」
「だから!好きだったしずくとデートできて楽しくて、もうお別れだから寂しいっていうか・・・」
「ええ!? なんで? だって、ロングで清楚なって! 一歩後ろって!」
「それは、お前も聞いてたから、元気なポニテの女の子が好きなんて言えないだろ!?」
お、おうおう、、、そんなはっきり言うのか。照れるな。急に、そんな、、、なんてあたふたしていると、
「だから、俺と付き合ってほしい!」
「えと、喜んで・・・!」
付き合うことになっちゃいました。それもこれも、酢昆布のおかげ!?
その日から、酢昆布二箱常備することになりましたとさ。
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