interlude

第34話 毒にも薬にもならない不毛なやり取り


「もしもし戌亥です」


『もしもーし、アタシアタシ♪』


「…………」


『うわ、相変わらずノリ悪いですねえ丈太郎センパイ。そこは形だけでも付き合ってくださいよ』


「ならもう少しネタをヒネるんだな。素直につまらん」


『うーん……けど、こういうベタなオヤクソクってのも大切じゃないですか? 話のツカミといいますか』


「用がないなら切るぞ。こちらは暇じゃないんだ」


『あはは、例の〝辻斬り大魔王〟の件ですねえ、わかりますよー、アレの事後処理は確かに難儀そうです』


「……ヤツは仲間割れしたコソ泥だ。辻斬りはしていない」


『ええ、まったくその通り。辻斬りしまくる前にブッ飛ばされて実に結果オーライです』


「結果オーライというには、頭の痛い状況だがな」


『だいぶ人目についちゃいましたからねえ。……〝彼女〟のこと、あくまで変装して説得に入ろうとした警察官って方向で、ゴリ押すつもりなんでしょ?』


「なぜ知っている……?」


『ふふふ、蛇の道はヘヴィーと言いますから♪ マジメな話、誌訪署経由の情報だいぶもれてますから、お気をつけて』


「オマエたちが流しているんじゃあないだろうな」


『あはは、信用ないですねえ。……それより、現場で〝彼女〟の姿ってガッツリ見られてるじゃないですか、そのへん大丈夫なんですかぁ? ぶっちゃけフォローしきれます?』


「金髪は変装のカツラ。服装は警戒を解くため。白人に見えたのは眼の錯覚。幸い、あの女は日本語が異常に流暢だからな。盾はそのまま自衛のために持たせた防護盾ということで押し通す」


『わたしの可愛いアオ君をよくも……的な発言は?』


「そんな発言などあったか?」


『うわぁ……ムリクリにもほどがありますよ。けど、他にやりようもないですもんねえ。目撃者全員、洗脳して記憶改竄というのも手間ですし』


「…………」


『いやいや冗談ですから、引かないでくださいよ。さすがにそこまではできません』


「では、どこまでならできるんだ?」


『んー、せいぜいSNSやら監視して、キワドイ感じのデータを〝処置〟するくらいですかねえ。あとは若干の印象操作とか……。こちらが〝彼女〟にしてあげられるフォローはそれくらいです。……アオ君の方はフォローできないというか、する気もないので、良かったらそちらでフォローしたげてくださいな♪』


「厳しいことだな」


『ふふふぅ♪ 深空家はスパルタなのです。獅子は我が子を千尋の谷に突き落とすのにも全力を尽くします!』


「…………」


『あ、別にギャグじゃないんで無理にツッコまないでいいですよ』


「…………」


『あれ? フリーズしちゃった? おーい丈太郎センパーイ? 起きてますかあ?』


「…………結局のところ、オマエは何者だ?」


『あはは♪ やだなあ丈太郎センパイったら、回してあげた情報はちゃんと役立ってるんでしょう? 検挙の準備は順調みたいじゃないですか。あの手の違法取り引きをこんな田舎でやるなんて、ホント今時の犯罪組織は何考えてんでしょうねえ? まあ、八十年代には結構あったみたいですけど、何事も一周回って戻っちゃうもんなんでしょうか……』


「…………さあな」


『アタシはあくまで善意の第三者です。って言いましたよ? 余計な詮索ナシのギブアンドテイク……取り引きは信用が第一です』


「……あの女はオマエの身内なのか?」


『うわあ、人の話聞く気ないんですかアナタ? そんなんだからアオ君に誤解されるんですよ。まったく……。けどまあ、あんまりスゲなくしちゃうのも可哀相ですねえ……じゃあ、ちょこっとだけ♪』


「…………」


『実は〝彼女〟は……この世界を守るために、神からつかわされた戦乙女様なのです』


「……………………」


『異世界召喚された女騎士とかだと、ちょっとベタ過ぎかなって思ったんですけど…………何だか、どっちもどっちですかねえ? 丈太郎センパイはどう思います?』


「……知らん」


『あはは♪ スネないでくださいよー』


「……それで、今回は何の用なんだ? 馬鹿話で人をからかうために連絡してきたわけでもあるまい」


『モチのロンです♪ アタシも結構忙しいんですから。けど、用件はもうとっくに伝えましたよ? ちゃんと警戒なり対策なりしてくださいな♪』


「何だと?」


『言ったでしょう? 誌訪署の情報はよ』


「…………誰からだ?」


『うふふ、ダーメです。そのくらいは自分で考えましょう。何でもかんでも人に訊くのは〝メッ〟ですよ♪』


「…………どうでもいいが、オマエの言動はだいぶ痛々しいな」


『……え? そうです……か?』


「ああ。まあ、私も最近の若者の文化など把握していないから、あくまで個人的な印象だがな」


『うあぁ、そっかあ……でもいいんです! 父様は可愛いって褒めてくれました! アタシは家族の感性を信じます!』


「…………その〝父様〟は元気か?」


『元気ですよ。息災ではありませんが』


「ほう……」


『うふふぅ♪ なのでアナタに居場所を知られるわけにはいきません』


「……それは残念だ。ぜひ見舞いに伺いたかったんだがな」


『あはは、相変わらず怖いですねえ……。それじゃあ、また何かあったら連絡しますね、丈太郎センパイ♪』


「…………前から疑問なのだが、なぜ私を〝センパイ〟と呼ぶ?」


『ええ? 何言ってるんです? そんなの〝ジョウタロウ〟だからに決まってるじゃないですか!』


「…………」


『……今〝やれやれだぜ〟とか思いました?』


「……………………」


『はあ……ホント、丈太郎センパイはノリ悪いです。せめて〝彼〟にはもう少し愛想良くしてあげてくださいね。それじゃあ、また!』


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