ビジョンの実現

 白川チームにも東條の移送車に"石"があったことを知らせる連絡が入った。

 だが、白川は正直、四方が強すぎて余裕が無かった。

 ”テレポート”、”停止”、”爆弾生成”を使い、かつ”超身体能力”で襲いかかってくる。

 こんなもの、チートである。

 ”石”がここにないことが分かり、移送車を護衛する必要がなくなったと言え、相手の攻撃が止むことはない。

 必殺技である3方向同時攻撃を繰り出そうにも、相手が”テレポート”したら避けられてしまう。

 だが、白川は四方の戦いを観察して分かったことがあった。


 四方は”テレポート”と”停止”を同時に繰り出すことはなかった。

 どちらも、右手を対象物にかざす必要があるため、どちらか片方しか使えないようだ。

 また、自分自身の”テレポート”は、戦闘開始時には使ったものの、その後は使っていない。基本的には白川の放った銃弾を移送させるために使っている。

 サポートチームの”テレポート”の異能者である桃地が言っていたのだが、大きなもののほうが移送させることにエネルギーがかかるらしい。

 四方も同じなのかもしれない。極力、大きなものより小さなものを”テレポート”させることで、体力を温存しているのだろう。


 状況から、白川は必殺技である3方向からの同時攻撃を行うことに決めた。

 その布石のため、2発の銃撃による攻撃を何度か行っていた。白川の2方向からの銃撃が、単体の技であると認識させるためだ。

 次に白川が2方向からの銃撃を放っても、それはこれまでと同じ攻撃に見えるはずだ。そこに、黄原と紫村の連携攻撃を加え、隙をつく。


 白川は黄原と紫村に指示を出す。

「まずは私が銃撃を打ちます。きっと私の銃弾の一つを”テレポート”させるでしょうから、その時なら”停止”はされないはずです。

 その隙をついて、これまで練習した、黄原さんと紫村さんの連携突撃をお願いします。

 必殺技で倒しましょう!」

「了解!」

 2人から返答が来る。

 白川がすぐさま2発の銃撃を放った。

 異なる軌道を描き、四方へ向かう。

「何度やっても同じ。」

 四方は一つの銃弾を”テレポート”させつつ、残った銃弾を避ける態勢を取る。

 ”超身体能力”をもってすれば、銃弾一つ避けるぐらい、難しくはない。

 が、そこに黄原が”鋼鉄化”して放り投げ、加速された紫村の蹴りが襲い掛かる。

「くらえっ!」

 四方は予想外の攻撃を避けられなかった。

 白川の狙い通り、紫村の蹴りは四方にクリーンヒットした。

「かはっ!」

 四方の声が漏れる。

 紫村はすぐに離脱しようとした。四方のような強力な相手には、ヒット&アウェイが鉄則だ。

 が、離脱できない。

「ちょっと!離してよ!」

 紫村の足が、四方に捕まれていた。

 ダメージを受けながらも、四方は反撃を行う。

「今のは、痛かった。」

 四方は紫村を地面にたたきつけ、さらに踏みつける。

「ぐあっ!」

「紫村さん!」

 白川がすぐさま助けのために銃撃を放つ。黄原も突撃する。

 紫村を踏みつけながら、四方は”テレポート”で銃弾を消し、”超身体能力”で銃弾を避け、”停止”で黄原を止める。

 紫村を先に始末するつもりだ。

 四方の足に体重がかかり、紫村の胸を押しつぶそうとする。

「あぁぁぁ!」

 紫村の悲痛な叫び替えが上がる。

「どうすれば…!とにかく銃撃で気をそらさないと!」

 白川は焦ってパニックになった。精神の乱れは、”サイコキネシス”に影響する。銃撃を正確に操れず、四方に容易に避けられた。


 が、急に沿道にあった道路の破片が、四方に投げられ、四方の肩に当たった。

「何?」

 四方は怪訝そうに破片が飛んできた方向を見た。

 一般人だ。繁華街のラーメン屋の店主だろうか。朝からスープの仕込みでも行っていたのか。

 その男性店主が、破片を投げたようだ。

 白川は困惑しながらも叫んだ。

「ここは危ないです!避難を!」

「ヒーローがやられそうじゃねーか!こういう時は、今まで助けてもらってる分、こっちが助けねーと!」

 そう言って、店主はさらに破片を拾って投げる。

 その姿を見て、他にも一般人が集まってきた。

「そこからどけ!ヒーローから足をどけろ!」

 他の人々も、破片を投げ始めた。


 四方は混乱している様子だ。


 冷静さを取り戻した白川は、投げられた破片をコントロールし、四方の足を狙った。四方は避けるように、紫村を踏みつけている足をどけた。

 黄原は紫村を助けるため、四方を後ろから羽交い絞めにする。

「紫村さん、離脱を!」

 黄原が叫ぶ。

「は…はい…!」

 紫村は力を振り絞り、離脱した。

 四方は動かない。

「なぜ?なぜあなたたちが異能者を助けるの?

 非異能者は異能者を拒絶する。そのはずなのに…!ありえない!」

 四方は一般人に向けて、襲い掛かろうとする。

 すぐに黄原がそれを身を挺して止めた。

「私は拒絶された…なのに…」

 混乱しているのか、黄原に止められたまま、”テレポート”や”停止”を使おうともせず、四方はもがく。

 白川は四方に対し、銃撃を放った。

 銃弾は四方の胴体に命中し、四方の動きは止まった。


 白川は四方は困惑していたように見えた。無表情だったが、急に感情が出たように思えた。それは、嫉妬のような、羨ましがっているような感情に思えた。

 白川は四方にゆっくり近づいた。

 黄原が言った。

「これ、麻酔弾ですね。」

「はい。咄嗟に殺傷弾から切り替えちゃいました。」

 白川がそう答えた。そして、四方を見た。

「うっ…」

 まだ、四方には意識があるようだ。

「あなたは、居場所が欲しかったんだね。エノトスなんて戦う場所じゃない、もっと、穏やかな居場所が。

 非異能者も異能者も関係ない理解しあえる仲間が欲しかったんだね。」

 四方は、はっとしたような表情をした。涙を流している。

「私が欲しかったもの…」

 四方がつぶやいた。

 白川は四方をそっと抱きしめた。

「あなたの欲しかったものは、きっと手に入る。」

 白川は東條の掲げる"異能者と非異能者が共存できる社会にする”というビジョンが実現すれば救われる人間だと、そう確信した。

 そして、四方は麻酔の眠りについた。


★つづく★

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