エースの成長

 赤崎は何が悪かったか、なんとなく分かっていた。結局、自分でなんとかしようとしてしまうのだ。

 ターゲットの後ろをとるときも、最終的に無力化する時も、赤崎は自分の力で進めてしまったのだ。結果、ダメージ覚悟での戦いとなり、無力化はできたがチームメンバーの能力を有効に使えたとは思えなかった。

 東條司令官ならどうしただろうか。そんな思いが巡る。指揮の難しさを感じた。

 赤崎は出動でダメージを受けた。毎回この状況が続くと、狼男の時のように、大きな負傷につながってしまうだろう。

 チームをうまく指揮できれば、もっと安全に無力化できたのではないか。


 出動から帰還した後、東條が赤崎にリーダーとしての初出動の所感を尋ねに来た。

 赤崎は自分の思う課題感を東條に伝えた。


「なるほど。今回の出動に課題を感じているのですね。では、その課題感をもっと明確にしてみましょうか。」

 東條が赤崎にそう言った。

「東條司令官なら、今回の出動ではどんなタスクを設定したでしょうか?」

 赤崎が尋ねる。

「そうですね…。」

 東條は自分が指揮していたとしたら設定したであろうタスクを伝えた。


 タスク1

  一般人の避難

 タスク2

  灰乃木の重力でターゲットを荷重し、遅くする

 タスク3

  建物内なので、死角が多いことを利用し、黒峰の銃撃で攻撃でダメージを与えていく

 タスク4

  弱ったところに衝撃破をシールドで防ぎながら近づき、赤崎の攻撃で仕留める


 そのタスクを赤崎は見て、こう口を開いた。

「東條司令官、俺はこのタスクを思いつけませんでした。最終的には、自分でなんとかしようとしてしまいました。」

「私のタスク設定と、赤崎さんのタスク設定で、何が異なるか、分かりますか?」

「…俺のタスクよりも、東條司令官のタスクの方がメンバーに役割を与えていることでしょうか。俺は、特に黒峰をうまく活用できませんでした。灰乃木も、シールドで防御させることしかさせられなかった。

 …2人の能力を最大限に発揮させることができなかった、ということなのかもしれません。」

「なるほど。では、能力を発揮させることができなかったのは、何が足りなかったのでしょうか?」

「2人の能力についての理解、でしょうか…?」

「そうかもしれません。指揮、つまりは業務指示する際に、必要な3つのことがあります。」

 東條は"仕事の管理"における"適切な業務指示"で意識すべき3つの内容を、ホワイトボードに書き出した。


 ・指示のゴールとタスクの明確化

 ・指示の明文化

 ・指示の必要性の提示


「赤崎さんは、わたしが日頃実施していたようにゴールとタスクの明確化はしていただいていたと想います。

 また、明文化についても、最近はサポートチームが出動中のリーダーの指示を文章にして、フルフェイスマスクのモニターに映してくれます。」

「では…残りの一つ、必要性の提示が足りていない、ということですか。」

「私は、そう思います。

 各タスクをなぜ行う必要があるかは、説明できているかもしれません。ですが、灰乃木さんが、黒峰さんがすることが適切である理由を伝えることができれば、さらにメンバーに的確に動いてもらえるようになるはずです。」

「なぜ灰乃木が、黒峰が、それをすべきか、ですか…。ですが、そもそも黒峰には今回、俺はタスクを割り当てることすらできませんでした。必要性の提示以前の問題ですよね。」

「いえ、必要性を考えることが、その問題の解決に繋がります。

 必要性を考えるには、そもそもメンバーがこなせるタスクを設定しなければなりません。メンバーがこなせないタスクならば、結局それがこなせる人間、つまりは赤崎さんしかこなせないタスクになってしまうからです。それは難易度の高いタスクとなり、リスクが高まります。」

「各メンバーで達成できるタスクを設定する必要がある…」

「そうです。そして、各メンバーで達成できるタスクを設定するには、何が必要でしょうか?」

「やはり、2人の能力がどんなものか、2人が何ができるかの理解、ですね。」

「そう。リーダーは、メンバーのことを考える時間を作り、メンバーのことを知ることが必要だと、私は思います。

 チームでのトレーニング時に、2人の特性を知ることを意識してみると、今後の指揮に役立つのではないでしょうか。」


 ***


 赤崎は以前、独りで戦っていた。当時はチームで出動しても、自分だけで戦おうとしていた。その時の意識が抜けていなかったのかもしれない。

 東條の話を聞き、そう感じた。

 赤崎はそれから、トレーニング時にメンバーの特性を知ろうと、目を配るようになった。

 赤崎は性格柄、あまりメンバーとは雑談をしない。以前ほどではないにせよ、話しかけにくい雰囲気の男だ。

 だが、次第に「調子はどうだ?」などの言葉をメンバーにかけるようになった。


 ***


 東條は、赤崎に相談されたことに嬉しく思った。これまで、那須賀からリーダーやマネージャーというものについて教わっていた立場から、急に伝える立場になったので緊張したが、"仕事の管理"についての内容を赤崎に伝えることができた。

 "3.仕事の管理"のなかの"3-1.適切な業務指示"で、最も実施が難しい"指示の必要性の提示"についてアドバイスを与えたことで、赤崎はメンバーのことを気にかけるようになった。

 その甲斐あって、赤崎の指揮は飛躍的にうまくなった。自分の力で無茶にすすめるようなタスクは減り、メンバーの能力を発揮できるタスクを考え、割り当てるようになった。

 メンバーのことを考えることは、"2.メンバーの管理"の一つだ。"3.仕事の管理"は"2.メンバーの管理"が前提であることを、東條は再認識した。


★つづく★

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