初めてのリーダー

 現場は近かったため、3名は共に移動し、到着した。

 一般人の避難自体は大方終わっているようだ。

 だが、学園長室があるという校舎にターゲットは入って行ったようで、その校舎の中にはまだ逃げきれていない人がいるとのことだった。

 学園長室はどこだ、とターゲットが叫んでいたという情報があるため、学園長を狙っている可能性がある。

「タスク2から実施する。」

 校舎の周りからは、既に一般人は避難していた。校舎内の人々は避難させることが難しいので、タスク2である、赤崎と灰乃木による校舎への立ち入りから開始することにした。

 赤崎は2人に指示し、学園長室のある校舎に灰乃木を連れて入る。黒峰は援護のために建屋の外に待機した。


 ”透視”を持つサポートチームメンバーから、校舎のどのあたりにターゲットがいるか確認しながら向かう。

 同時にサポートチームから校舎の見取り図を表示してもらった。

 大きなその校舎は3階建てで、大学生が授業を受ける教室のほかに、事務室のようなものもある。そして、3階に学園長室がある。

 ターゲットは2階から3階に向かっているらしい。

 逃げ遅れた学生、および学園長と一部の事務や講師が3階にはいるようだ。非常階段が建物の外についているが、ターゲットが先に衝撃波で破壊してしまったようで、内部の人々は避難ができずにいた。


 赤崎と灰乃木は2人で3階へ向かう。次第にガラスの割れる音と、大きな声が聞こえてくる。

「どこだ学園長!殺してやる!」

 そう叫び、廊下を歩きながら部屋のガラスを衝撃波で破壊していくターゲットが、赤崎の目に入った。

 若い男だ。大学生ぐらいだろう。

 ターゲットも赤崎と灰乃木に気が付いた。


「くそっ、ヒーローどものお出ましかよ。いいよな。お前らは職にありつけて!」

 ターゲットはそう言い放つと、すぐさま手をヒーロー2人のほうへ手をかざした。

「灰乃木!シールド!」

「了解。」

 すぐに灰乃木は彼の能力でシールドを重くした。放たれた衝撃波を防ぐ。

 やはり、空気圧を操って衝撃波を出しているようだ。

 灰乃木は銃で攻撃をする。が、衝撃波に相殺され、弾は途中で地面に落ちた。死角からの攻撃でない限り、銃は役に立たなそうだ。

 縦に長い通路での戦いは、衝撃波を相手にすると分が悪い。相手は遠距離攻撃で一方的に攻撃してくるが、こちらは逃げ道がない。

 とにかく相手を狭い部屋に誘導せねばならない。そのためには、ヒーローのうちどちらかが、相手の後ろに回って挟む形にする必要がある。でなければ、相手を後退させることができない。

「灰乃木、今俺たちの横には大教室がある。俺が教室に入り、教室を通ってターゲットの後ろに回る。灰乃木は防御しながらターゲットを引き付けてくれ。」

「了解。…でも、赤崎さんが教室から出るとき、衝撃波で狙い撃ちされちゃいませんか?」

「それは、ある程度覚悟の上だ。黒峰、援護できるか?」

『正直、灰乃木さんや赤崎先輩にあたっちゃうかもしれません!3階に今から急行しましょうか?』

 黒峰の声が通信で届いた。

「分かった。外から援護が難しいなら、こっちへ来てくれ。」

『了解です。』


 赤崎は黒峰へ指示した後、衝撃波の切れ目を狙って教室へ移動する。

 教室内には、端っこに逃げ遅れた生徒たちが固まっていた。

 赤崎を異能犯罪者と勘違いしたのか、生徒から悲鳴が聞こえる。

「安心してくだはい、俺は助けに来ました。そこでじっとしていてくれれば、すぐに終わる。」

 赤崎は生徒たちに声をかけた。

 教室に入った赤崎を目で追いながら、ターゲットは灰乃木へ衝撃波を撃ち続ける。

 赤崎が教室を通り抜け、ターゲットの後ろ側の出口へ手をかけた。

 予想通り、ターゲットが衝撃波を赤崎が出ようとする扉へ撃つ。

 扉が吹っ飛び、再び、生徒から悲鳴が上がる。

 赤崎はとっさに避けたが、扉やガラスの破片が舞う。だが、その程度ならば戦闘用スーツがすべて防いでくれる。

 問題は、連続で放たれた2発目の衝撃波だ。

 赤崎は教室にあった机を盾に、直撃の衝撃を和らげた。とはいえ、それでも激しい衝撃を体で受け止めざるをえなかった。避ければ、生徒に被害が及ぶ可能性があったためだ。

「ぐあっ!」

 赤崎は思わず声が出た。

 だが、ターゲットの後ろをとることができ、通路を灰乃木と赤崎の2人で挟む形となった。

「灰乃木、このまま、この通路の突き当りの右に行ったところにある倉庫室へ誘い込む。前に出てくれ。」

 赤崎が小声で指示を出した。

 灰乃木が前進しながら、誘導していると思わせないよう、気をそらすためにターゲットに話しかける。

「どうしてこんなことをするんだ?大学に恨みでもあるのか?」

「俺が異能者だから、この大学は俺を不合格にしたんだ!面接の時の反応を見たらわかるさ!俺が異能者と言ったら、そのとたんに雰囲気が変わったんだよ!」

「だから、学園長に危害を与えに来たのか?」

「そうさ!俺みたいな異能者はヒーローや特別研究者にならない限りは、つまはじきなんだ!そんな社会に警鐘をならすために、俺は学園長を殺してやるんだ!」

 そう言いながら、衝撃波を放つ。赤崎にも衝撃波を断続的に放つ。赤崎は衝撃波を避けつつ、通路の奥へ移動する。

 衝撃波をシールドで防ぎながら、灰乃木は前進し続ける。

「あんたの話が本当だとして、学園長を倒したところで何も変わらないだろう?逆に、異能者がより社会から危険なものと思われるだけだ。」

「うるさい!」

 逆上したターゲットは衝撃波を何度も放ってくる。能力の連続使用をしても威力が衰えない。持久力のある異能者であるか、興奮状態で限界を超えているか。どちらにせよ、ターゲットと会話しつつ、誘導を行う。

 そうして、赤崎と灰乃木の2人は倉庫室の前までターゲットを誘導することに成功した。

 黒峰も灰乃木に合流済みだ。ターゲットが破壊した扉、ガラス、壁の破片を飛ばすことでターゲットを思う方向へ誘導する。

 ターゲットがふいに何かに気が付いた。

 さきほど赤崎がターゲットの後ろに回った通路の先はT字路になっており、右に行くと倉庫室、左に行くと学園長室がある。右へ誘導したのだが、逆側にある学園長室の前に”学園長室”というプレートが突き出ていた。ターゲットの目に、その文字が見えたのだ。

「学園長室?あそこか!」

 ターゲットが学園長室へ足を進め出した。

『まずいです、学園長室には、学園長が逃げ遅れて残っています!』

 東條から通信が入る。

 ターゲットは灰乃木と黒峰がいるほうへ向かう。2人の後ろにある学園長室めがけて。

「おい!こっちくるな!」

 黒峰が瓦礫を操って投げつつ言い放つ。

「くそっ!」

 赤崎はタスクが思い通りにいかなかったため、悪態をついた。そして、意を決してターゲットをここで無力化することにした。

「灰乃木、黒峰、ここで決着をつける。遠距離攻撃で気を引き付けてくれ。俺が接近して無力化する。」

「了解。」

 黒峰がガラス片を飛ばす。灰乃木は防御を続ける。そして、ターゲットが黒峰の攻撃を避けるのを見計らい、赤崎は一挙に接近した。

 赤崎の蹴りがターゲットの脇腹へ入る。が、同時にターゲットは、接近した赤崎に衝撃波をお見舞いする。赤崎は後ろに飛ばされた。

 相打ちだ。だが、赤崎はしっかり防御していた。連続攻撃の練習成果で、蹴りの後の態勢変化が前よりも容易になったためだ。

「あぐぅ」

 ターゲットが嘔吐する。赤崎はそのまま畳みかける。蹴りを頸椎に当てて、気絶させた。

 ターゲットが気絶したことを確認し、赤崎が報告した。

「ターゲットの無力化完了。」

 こうして赤崎の初めての指揮は終わった。

 赤崎はそれなりにダメージを負ってしまった。課題の残る出動であった。


★つづく★

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