歴代最強の男
他の移送車が襲撃された連絡を受け、東條は自分が護衛する移送車も、すぐに襲撃が来るであろうことを予期した。
案の定、移送車が急ブレーキを踏んだ。
「前に、人が急に現れました!」
移送車のドライバーが言った。
移送車から降りてみると、オフィス街を横切る道路の真ん中に、男が倒れている。
ドライバーが言うには、何もないところから、急に現れたという。
肩が上下しているので、息はあるようだ。だが、意識がないのか、動かない。
普通に考えれば、救助すべきだろう。
「こりゃあ…北折ってやつの仕業っすかね。一般人をテレポートで送り込んで、移送車を無理やり止めるっていう魂胆?」
そう言いながら、金城が倒れている人に近寄る。
金城の言ったとおりのエノトス側の作戦かもしれない。だが、東條は違和感を感じた。
西陣が何の罪もない非異能者を、引き殺されてしまうかもしれないような目に合わせるだろうか?
「金城さん、すぐに離れてください!おそらく罠です!」
同時に、移送車内のサポートチームから連絡が来る。
『異能者の反応を検知!その男は異能者です!』
「え!?」
金城が反応する。
だが、すぐに倒れている男が急に動き出し、金城の足首を掴んだ。
そして、そのまま金城はぶん投げられた。
「うおあ!」
金城は道路際のガードレールに激突した。
「うわっ、びっくりしたっす。」
「金城さん、大丈夫ですか!?」
「マグネットアームでとっさにガードレールと極性反発を起こして威力を緩和させたっす。ダメージはないっす。」
東條は安堵した。少なくとも、1人目の襲撃者は怪力が出せるような異能者のようだ。
「勘が働くなぁ。」
前方から西陣の声がした。
西陣、北折、他に1名が姿を現した。テレポートで現れたと思われる。全員、フルフェイスマスクはしていない。
倒れていた男と合わせ、4名で襲撃してきていることになる。
「だまし討ちか。卑怯な戦法を使うな。」
東條が西陣をなじる。
「戦いに卑怯もあるかよ。」
西陣が返す。
「卑怯ついでに、直接移送車の中にでもテレポートしたらどうだ?」
「どうせ、センサー式のレーザーが設置されてるんだろ?外から移送車をぶっ壊すさ。」
東條と西陣の会話の後、襲撃者側から、北折と他2名が前に出た。西陣を除く3名だ。
「では、まずは俺たちで攻めますから、西陣さんは準備を。」
北折がそう言った。
東條は西陣の能力をフルで使うには、準備がいることを知っている。東條が現役のヒーローだったころ、何度も一緒に出動したことがあるためだ。
”超身体能力”は常に使えるが、炎を操る能力は、加熱とも言える西陣の体内での事前準備が必要だ。
エネルギーをためるようなものである。
その、加熱をこれから行うのだろう。
今の西陣の力のほどはわからない。だが、司令官の頃と同じ実力であれば、ヒーロー至上最強の強さである。
西陣の準備を完了させるわけにはいかない。
「一挙に、カタをつけましょう。」
東條はそう隊員たちに言い、いつものようにタスクを指示した。
相手は、北折のほか、金城を投げた怪力の男、そしてもう1人、獣人に変化(へんげ)している男がいる。
ネコ科の動物。斑点があるので、チーターだろうか。俊敏性に長けていそうな異能者だ。
対してこちらは青森、金城、そして”風使い”の緑澤だ。東條は移送車の前で守りを固める。
緑澤美月(みどりさわ みつき)。彼女は局地的に突風や、かまいたち現象を発生させることができる。普通の人ならば、吹き飛んでしまうぐらいの風速が出る。
風は一定範囲への攻撃になるので、多数のターゲットと戦うときには、彼女の能力は非常に有効だ。複数のターゲットの動きを、同時に抑制できる。
まずは緑澤の風で先手を取ることにした。
「はぁっ!」
緑澤がターゲット3人がいるほうへ手をかざす。
だが、緑澤の動きを察知して、チーター男が風の範囲から抜け出た。
すぐに、”音速”で青森が応戦する。2人ともとんでもない速さなので、東條は目で追えなかった。
青森とチーター男が激突する一方で、風に覆われて身動きとれない北折と怪力男に対して、緑澤と金城でマグネットマグナムを打ち込む準備をする。
風でターゲットの機動力を減らし、青森の攻撃かマグネットマグナムで無力化する。これは、金城率いるCチームの必勝パターンだ。
だが、緑澤が銃を打とうとしたその時、怪力男が北折のテレポートで緑澤の後ろに現れた。
緑澤の首を後ろから掴む。へし折るつもりだ。
「いや、離して!」
緑澤が叫ぶ。
「美月ちゃん、あぶないっす!」
とっさに金城が右手のシールドで怪力男に体当たりを食らわせるために近づく。すでに怪力男の手に力が入り始めている。
が、急に怪力男の手が止まった。
「緑澤さん、今のうちに、離脱を!」
東條が怪力男を”停止”させたのだ。
「はぁはぁ、ありがとうございます、東條司令官。」
「無事なようですね。良かったです。テレポートが相当厄介ですね…」
東條は、まずはテレポートの阻止に傾注することにした。
東條の”停止”を使って北折を止めればよいのだが、何度もできることではない。北折をまず無力化しなくては。
「私に案があります。今から北折を無力化するタスクをお伝えします。」
今の戦況としては、次のような状況だ。
青森がチーター男と戦い、移送車付近で怪力男と金城・緑澤が戦っており、それを東條がサポートしている。
北折が少し離れた位置からテレポートで怪力男をサポートしている。
緑澤は、東條のタスク通りに怪力男に風をお見舞いする。怪力男は再び身動きが取れない。
そこに、緑澤は銃を放つため銃を構える。怪力男を狙う。
もちろん北折はそれをテレポートで回避しようとする。怪力男をテレポートさせるため、北折は手をかざす。
が、緑澤の本当の狙いは怪力男ではない。
「慎吾っち、よろしく!」
金城が青森慎吾に指示を出した。
青森がチーター男と距離を取り、金城の元へ近づく。
「了解。ちょっとGがかかるけど、我慢してくれ、リーダー。」
青森がそう言って、金城を抱きかかえ、”音速”で北折の後ろへ回る。
一方、フリーになったチーター男は移送車へ特攻してくるが、東條が”停止”で抑える。
北折は、怪力男をテレポートさせるが、緑澤はそのまま怪力男がいなくなった場所に向けて銃の引き金を引いた。
音速で北折の後ろに回った金城は、マグネットアームでその銃弾を引き寄せる。
つまり、フェイントをかけたのだ。
怪力男を狙うと見せかけ、北折を狙った。テレポートさせるときには手をかざしているところを見て、同時に2つのものはテレポートできないのではないかと、東條は想定した。
怪力男をテレポートさせる時には、北折自身はテレポートできないだろうと。
緑澤の銃弾は、北折の腹を抜け、マグネットアームに引き寄せられる。
「なに!?ぐはっ」
北折の嗚咽がこぼれる。
「狙い通りです!テレポートで逃げられる前に、無力化を!」
東條が叫ぶ。
「了解!どりゃ!」
金城が北折を殴打する。
「西陣さ…ん…」
北折は気絶した。
「よし、1人、無力化完了っす!」
すぐに、青森が続いて東條が止めているチーター男に攻撃し、ダメージを与える。
無力化とはいかないまでも、足に攻撃したことで機動力を弱めることに成功した。
北折が最後にテレポートさせた怪力男は、再び緑澤の後ろにテレポートしていた。だが、緑澤自身、2度目の攻撃は受けまいと警戒していたので、北折への銃撃後にすぐに移動し、怪力男から距離を取っていた。
事実上、怪力男だけが警戒すべき相手となったため、あとの制圧は容易だ。
緑澤が怪力男を風で動けなくし、青森が仕留めた。
結果的に、北折と怪力男を無力化、チーター男の戦力を削ぐことに成功した。
単純に考えれば、勝利は目前だ。
だが…
「調子に乗るなよ。」
西陣だ。
東條は圧倒的な力を感じた。マンガで”気を感じる”というような表現があるが、まさにそれだ。言い表せない圧迫感を西陣がいる方向から感じるのだ。
西陣は両手に炎をまとわせ、仁王立ちしている。
準備が完了してしまった。
「ここまでやるとはな…。完璧なチームプレイ、恐れ入ったぜ。
司令官としては、俺より上かもしれないな。だが、一介の異能者としての俺は強いぞ。
…全力で行かせてもらう。」
★つづく★
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