君の一言

優芽 ひと

プロローグにてエピローグ

これまでの話。これからの話。

まずは前者から行こうか。


今から17年前-



僕は生まれた。

特に変わったことない生活を過ごした。

すこし変わっていたのは片耳、左耳が聞こえなかったこと。

しかしそれも片耳だから日常生活にそれほど支障は来さないだろうと医者からは言われた。

僕としては常に周囲、特に左側に気を使って生きていかなきゃいけなかったから、支障しかなかったわけなんだけれど。


学生生活ではそれがかなり大きくでた。

周りの子は事情を知らないから、歩いている時も常に自分が左側に立たなくてはならない。じゃないとろくに話も聞けないからね。

正確には話が聞けないって言うわけじゃないんだ。

聞こえてはいる。でもそれが言語としてではない。誰もが一度は体験したことがあるだろう。周りで爆音が響いている時の会話だ。

周囲にそれを言わないなかって?言うこともあるがそれは相当仲良くなってからだろう。極端な話、初対面の奴に急にシリアスな話されても反応に困るだろ?その時の顔だけは二度と見たくない。一度失敗した。

そんなわけで僕は常に周囲に気を使う。道も左側を歩く。そこまで苦ではなかった。慣れていた。でも時々タイミングだったり色んなことで相手に左側に立たれてしまうこともある。

「¥♪→って5*…4#だよなー」

こう聞こえてしまう。もちろん聞き返す

「なんて?」

「¥♪→」

2度目も聞こえない。

流石に2度聞き返すと話が止まってしまうしシリアス展開にしたくない。なので僕は

「☆¥÷*だな」

とこちらも言葉をにごす。

あるいは喋り方でどう思うか聞いてるような口調なら同調しておく。

この同調。実はとてもリスキーである。そんなことをまだ知らなかった中学生の僕はある時つくづく思い知った。

「8「×*>だよなぁ〜 #_/57〆?」

だよなぁの前は何か話題、後は僕の名前を呼んでいるのだろうか。

短い会話のスパンではこの判断力が大事である。

僕は憶測に従い、同調することにした。

「それなー」

それなと何かが使えれば女子高生の会話は成り立つと誰かが言っていた気がするが、まさにその通りではないか。そんなことを思いながら、次は聞き逃さないようにと、全神経を集中させ返事を待つ。

だが、会話が止まってしまった。

瞬時に僕は悟る。いや、憶測だ。

もしかしてさっきのところは同調の場所ではなかったのではないか。

そうだった。

相手の顔を見ると、明らかに不機嫌そうな顔をしている。いや、大袈裟に演技している。

「話聞いてなかったなぁ??」

ノリ?のような口調で言っている。

「すまん聞いてなかった」

ここで素直に認めておく。ここで認めておけば次はイジりが来ると踏んで

「お前なぁー

とここで冗談交じりに肥大させたグチが飛んでくる。

よかった。本気で怒られると関係すら壊しかねない。

と安堵感とともに危機感を感じた。

今のが相手側の本気の相談事とかだったらそれこそ本当に関係を壊す。


って俺は聞いてんのになんでそれなーなんだよ」

とグチが終わる。

「ほんとごめんって」

手を合わせながら謝る。

「まいいけど、んでさーお前なんで一人称僕って言ってんの?俺でいいん…


そんな感じの学生生活だ。

ここまで見ていても僕はとても馬鹿な生き方をしてきたことがわかる。でもその時はそれがベストだと思っていた。なぜが謎の自己犠牲感まで感じていたかもしれない。


高校3年。俺の最後の学生生活

特別に暑かった夏。

彼女が現れた。


--------


彼女がなんで転校してきたのかは覚えてないが、その子を意識したのは転校してきて1週間経ったくらいの頃で、きっかけは

「君、なんか隠してない?」

この言葉だった。


その時別に隠していたことがあるわけでもないし、思い当たることもなかったんで

「ん?いや…何も隠してないけど…

と答えると何もなかったかのように

「名前なんだっけ?

と聞かれた。


そこからちょくちょく話した。俺と彼女が特別仲よかったんじゃなくて、彼女がよく話しかけられる性格だったってのと、自分からも積極的に話していくタイプだったってこと。


で、秋のころ

放課後にちょうど廊下でばったり会って、行く方向も同じだったから話しながら歩いていた。

彼女はしつこく左側に立って話してきた。

「○÷♪〆って2¥÷♪°と思わない!?」

えらくハイテンションだったので、思わず同調してしまった。

「そうだなー

えらく煮え切らない言葉になってしまったことをすぐに気づいた。

しくじったと思い彼女を見ると


腹を抱えて笑っていた。

「あはははは自分のことイケメンて!あっははははは

なるほど、、

「くっそお前はめやがったな!」

これは彼女、俺が片方聞こえないことを知ってる感じではないか

「君ぃ、片方いっちゃってるね?

彼女は自分の左耳をつんつん突きながら笑う

驚いた。

知っていたことに驚いたんじゃない。そうじゃなくて、ここまで明るくカミングアウトの流れに持ってくるとは思わなかった。

なんか笑ってしまった。

「あっはははははっそうだよ!聞こえねぇよ!

そのハイテンションのまま会話はすすんでいく。

もはや彼女が左側から質問して俺が答えられるか。

というクイズになっていた。

全然悪い気がしなかった。

楽しかった。


しばらく質問(クイズ)が続いたのち、

「じゃあ〜

と彼女は言って

「04%がよ:☆0°(25の%*(・|?」

と聞いてきた。

今まで以上に何言ってるか聞き取れなかったので

「全然わからん

と笑いながら言った。




言ってしまった。




言ってしまったんだ。


--------------------


……、


…さて、これからの話だ



2こ+もと(^.2の%(よ(の3☆こ(〜2→|…4(



行ってくる


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る