(短編)共鳴の断片
早藤 祐
愛美と祈里 クラリネットとフルートによる
高校1年生の時、あれは12月初冬の出来事だった。
夕方、愛美は
渡り廊下を通っていくとクラリネットの音がかすかに響いてくる。中央校舎の廊下に入ってクラリネットの音色に導かれるように3年3組の前に行く。そっと後ろ側の引き戸は開いていてみると祈里は1人、教室窓側の前列の方でクラリネットを奏でていた。
曲は吹奏楽部を描いたテレビアニメでユーフォニアムの独奏曲。それを祈里がクラリネットで歌っていた。
思わず聞き惚れてしまう。アニメでの原曲もいい使い方をされていたけど、祈里のクラリネット版も負けず劣らずいい。最後の一音が消えていくと思わず拍手をしながら祈里の近くに行った。
「いいよねえ。その曲」
「あ、盗み聞きしてたなあ。さっさと入ってくればいいのに」
「いや、止めたくなかったし」
祈里はクラリネットを片手にちょっと顔を傾げた。
「あのアニメ番組、いいよねえ。何故音楽をやるのかって考えさせてくれるし」
「だね」
「私、あの中のトランペットの子にもユーフォニアムの子にも共感しちゃう。ただ、先輩は怖いけど」
いやあ、祈里の自己評価は少し卑下しすぎじゃないかな。祈里は学校で一番うまいし人の気持ちをすぐ見抜くし。どちらかというの3年生の先輩の方が似てると思うんだけどな……なんて事を言ってどう返されるか見当がつかなかったので愛美は黙っている事にした。
祈里が何か思いついたらしく天真爛漫な笑顔で提案してきた。
「あ、愛美もこの曲を一緒に吹いてみない?」
「いいね。やろう!」
本当は2人でヨハン・セバスチャン・バッハの曲をちょっと合わせようかと言っていたのだけど私達はこの思いつきが気に入ってしまい、目的は放置して再びユーフォニアムの独奏曲をフルートとクラリネットで奏でたのだった。
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