第31話武器訓練とスプーのカール家訪問

 いつも通り早朝に起きレオと訓練を始めた瑠璃。

 一昨日カールからの話を聞いてショックを受けていた瑠璃は、昨日は基礎訓練をレオとやっただけでコッコ先生の練習はお休みさせてもらっていた。


 今日は、朝食後カールにエルフ竜騎士団の兵舎まで送ってもらい、コッコ先生とアレクと一緒に武器の訓練をする。


 挨拶を済ませるとカールは一度戻り、3人での練習が始まった。

 今日から弓と短剣の練習だ。弓の的当てと短剣の素振りを瑠璃が倒れる寸前までやらせるとコッコ先生が休憩を入れる。これで終わったと安心している瑠璃。

「瑠璃休憩して回復したら、次は動く的に当ててもらうわよ。」

 悲しそうな顔で見つめる瑠璃を笑顔で見つめるコッコ。2人ともしばらく見つめ合っていたが、先生の笑顔の圧に負けた瑠璃。

「はい、よろしくお願いします。」

 休憩時間を無駄にしない為何も言わず寝っ転がって体を休める。そんな瑠璃にアレクは魔道具を使い風を送っていた。


 弓の的当てが終わると、瑠璃の腕がプルプル痙攣していた。

「困ったわね、短剣の打ち合いもしてほしかったんだけど。そうだわ、足が元気だから足の攻撃の練習をしましょう。その間腕は休憩できるでしょ。足の練習が終わる頃には腕は回復してるだろうから、打ち合いをすればいいわね。」

 自分の名案にウフフと笑っているコッコと、気の毒そうな顔になったアレク。瑠璃はスパルタと呟いた。

「足の蹴りの練習だけだとつまらないわよね。実際にアレクにあてて行きましょう。大丈夫よ、瑠璃の攻撃は当たらないから、思いっきりやって良いわよ。」


 そう言うといきなりコッコはアレクに回し蹴りを放つ。凄い速さなのにあっさりと避けたアレク。

今度は砂をアレクの顔に投げつけて蹴るがそれも避けられる。

「ほらね。不意打ちでも何でも当てられないから、好きな蹴りの練習ができるわよ。」

 まず基本の蹴りの練習をする。アレクに当てる前にへとへとになってしまう瑠璃。仕方がないのでもう少し慣れてから、アレクに当てる練習をやる事になった。自主練習メニューに蹴りの練習が追加される。

「じゃ、最後短剣で打ち合いね。アレクは攻撃しないから、自分の攻撃に集中してね。」

 コッコは瑠璃の体力が限界になり、体がふらついてよろけるまで攻撃を続けさせた。


 力を出し切った瑠璃を見て、訓練終了を告げたコッコ先生。

「素晴らしいわよ、よく頑張ったわね。瑠璃体力が上がってきたんじゃないかしら。この調子なら思ったより早く初心者を抜けられそうよ。最後は、走って終わりにしましょう。

 最後に走るのは訓練じゃないのよ、体をほぐす目的でゆっくり走ってね。

 大丈夫よ、もし倒れたとしてもカールが運ぶし、骸骨の薬と薬草風呂があるって聞いたわ。疲労も筋肉痛もすぐ治って明日には復活できるわよ。

 訓練っていうのはね、最初は厳しいの。でも慣れてくれば普通になっちゃう。頑張り屋の瑠璃なら、きっと続けて行けるわ。」

「基礎体力がついたら楽になります、最初はきついですけど一緒に頑張りましょう。瑠璃さん。」


 優しそうな2人に励まされ、ゆっくりとだが走り出す瑠璃。ついに力尽き寝っ転がったところで今日の訓練が本当に終了した。

 動けなくなった瑠璃は2人にお礼を言うと、迎えに来たカールに抱えられて帰っていった。


 アレクがコッコに尋ねている。

「結構きつくないですか、瑠璃さんなら続けるでしょうけれど。余りきついと体への負担が大きいと思いますが。」

「そのための、骸骨の薬と薬草風呂でしょう。それに【ラト】で襲われてるんだし早く強くなってほしいのよ。本人の負担になる程の訓練はしていないわ。」

「なるほど、じゃああと何日か訓練を続けて、弓と短剣の打ち合いができるようになったら、週に何回か俺との訓練をする形に変更ですか。」

「そうね。瑠璃なら、すぐに週2回の訓練に変更できるわ。明後日には可能だと思う。武器の訓練はアレクが相手の方が良いけれど、他は骸骨達と一緒で大丈夫ね。

 それにしてもカールってば過保護よねえ。微妙な顔で私を見ていたわ。瑠璃が疲れ切って可哀想だから文句を言いたいけれど強くなるためだから仕方がないっていう感じかしらね。」

「そうですね、俺には遠慮なく不満そうな顔をしましたけど。

それにしても、彼女成長が早いですよね。異世界人って皆そうなのかな。異世界人が強いとか聞いた事ないけれど、他の異世界人の事も確認しておくか。」


 カールに運ばれた瑠璃。そのままマリーに渡され、お風呂場に運ばれる。1人で大丈夫という瑠璃を心配そうに見ながらも、マリーはお風呂場から出て行った。

 薬草風呂につかると頭の中がすっきりとして、体がほぐれて体内から疲れが消えるそうだ。ゆっくりとつかる湯船につかる。

「ああー。気持ちいい。筋肉痛はまだ少し残っているけど疲れはすっかり取れたわ。これ凄い、温泉より即効性がある。」


 元気に足取りも軽く瑠璃は、昼食の手伝いに向かう。

「カール運んでくれてありがとう。マリーもありがとう。体が温まってほぐれて、すっかり疲れが取れたわ。筋肉痛も随分軽くなったと思う。レオ、ありがとう。」

 皆がどういたしまして、良かったねと言ってくれる。

「お昼は何にするの、私も手伝うわよ。お腹すいちゃった。」

「じゃあ、サラダ用に切った野菜を適当に盛り付けてくれるかな。」

 レオに言われサラダを盛り付けると他の料理も皆で運ぶ。

「美味しそう、いただきます。」

「ボーンファミリーのスプーさんが瑠璃達に明日会いに来るって。

 治安維持部隊の方からも報奨金が出てそれを届けに来るそうだよ。明日の午後3時頃に来ることになったから、皆家にいてね。」

「分かったわ。瑠璃、来るのが治安部隊の獣人じゃなくて残念だったね。」

「レオったら。獣人だったら私またじっと見ちゃうから、違って良かったわよ。」

 皆で笑う。食事を終えると瑠璃は薬を飲み、午後はカールが図書館で借りてきてくれたこの世界の歴史書をを読んで過ごした。


 翌日も午前中は訓練と薬草風呂と薬の日課を済ませた瑠璃。のんびりと時間まで、皆でスプーさんが来るのを待っていた。

「こんにちは。スプー・ボーンです。カールさん、訪問手続きありがとうございました。」

「いらっしゃい、ボーンさん。大した事ではないですよ。どうぞ入って下さい。」

 カールが家の中にスプーを案内してきてくれる。


 皆で挨拶をすると、スプーが瑠璃達に報奨金と書類を渡す。

「こちらが、今回【ラト】の誘拐事件解決のきっかけとなったお礼の報奨金とその旨が係れている書類です。治安部隊のブル殿も皆様にお礼を伝えてほしいと申していました。」

「ご丁寧にありがとうございます。誘拐事件が解決して本当に良かったです。」

 皆が報奨金と書類を受け取ると、ソファに座りここからは普通の雑談が始まった。


 皆深刻な顔をしている。

「まさか【ラト】の住人まで情報屋として雇われているとは思わなかったよ。でも今回捕まった犯罪組織の奴らは【ロウキ】はまだ潜伏していないみたいで良かったよね。」

「【ロウキ】はまだ大丈夫そうだな。【ラト】の情報屋も泳がせているから何とか犯罪組織を摘発したいよな。

今回驚いたのは、拠点の農家と地下通路でつなげた地面の下にあった地下拠点だよ。何もないただの土の下から人が出てきたんだ、吃驚したよ。」

「恐ろしいな。地下に潜られたら摘発が難しくなる。【ラト】の街に地下は無かったから良かったが、アレク達竜騎士団が【ロウキ】と【ツリー】も地下を調べるんだろうな。」

「取引相手も盗賊なんだろう、裏についているやつとかいなかったの。」

「それが、そいつらも別の組織に売っているんだけど、相手はいつも一人で来て、フードを深くかぶり一言も話さない。金と人を交換すると直ぐに帰っていくから、どういう奴かも何人いる組織なのかも分からないんだよ。

 ただ取引場所は毎回辺境の周辺だって事は分かったんだ。」

「そうか、でも辺境に潜入するのは難しそうだね。」

「そうなんだよ。だから今回【ロウキ】の部隊が潜入するそうだ。人間と【ムーン】と魔人の特別潜入部隊だよ。

 詳しい事が分かったら、知らせるよ。カールさんの所にいるのか、レオ達は。」

「明日か明後日までは、僕達と瑠璃はカールの所でその後は訓練がある時以外は骸骨村にいるよ。」

「了解、じゃ先に連絡してから、俺が会いに行くよ。」

「分かった、今日はありがとう。スプー。ブルさんにも感謝と謝意を伝えて下さい。」

 皆がお礼を言うと、挨拶をしてスプーは帰っていった。

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