第26話大忙しのカール

 カールは瑠璃を送った後、急いで家を掃除し食料や日用品の買出しをする。家の仕事を終わらせると、今度は転移門を使って【ロウキ】のバスンに会いに来ていた。

「おはよう、バスン。この間は瑠璃達と会ってくれてありがとう。

瑠璃もバスンにあえて喜んでいたよ。今日は護身術をコッコさんに習ってるよ。」

「おはよう、カール。私も瑠璃に会えて嬉しかったわ、可愛い子よね。【ラト】で襲われたって聞いた時は心配したけれど無事で良かった。竜達も見てないで話しかけた時点ですぐそばに移動したらよかったのに。使えない奴らね、私が教育してあげようかしら。」


 話を聞いて苦笑いするカール。バスンを宥めると昨夜レオから聞いた骸骨族の情報をバスンに伝える。バスンも【ロウキ】や各地にいる魔人達から集めた最新情報をカールに伝えると、2人は今後の事を相談した。

「今は注意深く様子を探るという事で良いかな。イオ達と竜騎士団にも伝えておくよ。

 この後イオ達に会うけれど、淡雪さん怒ってそうで嫌だな。あの人瑠璃と友達になってね、あの人怒ると周囲に冷気が漂ってなんか怖いんだよ。

 あ、他の異世界人達はどうしてるの。【ラト】のスラムで誘拐事件起きているけど、彼らは大丈夫というより、そういう事件が起きたって知ってるのかな。」

「知らないよ。街の店主達と情報教えて貰えるほどの信用は得てないんだろうね。そういう関係を築いてこなかったんだから仕方ないね。私達やムーンと深く付き合っているわけでもスラム街の仲間になっているわけでもないしね。

 彼らはあくまで支援者であって仲間じゃない。【アース】組合という組織を作った人達の1人という認識だからね。普通に付き合いはあるし親しく話はするだろうけれど、重要な話は出来ないかな。

 異世界人に重大な情報を教えて、脅されて話しちゃいましたなんて事になったら私達全員の命が危険にさらされる事だってある。今は平和だけど、いつこの平和が壊れるかなんてわからないんだから、いろんな考えを持つ者がいるのは当たり前なんだから信用できる者にしか情報は教えないよ。」

「そうだよな、彼らは自分達の命がかかったらすぐに話しそうだよ。俺達は目の前で自分や大切な人間が酷い目に合っても種族を守るために情報は言わないって覚悟があるけどね。」

 カールの言葉に大きく頷いたバスン。

「あの異世界人達がスラムの仲間なら、今回の件はすぐに教えに行くさ、狙われる危険性があるんだから。教会等の支援者達と同じなのに、なんだか勘違いしているようで見ていると可哀想だね。

 瑠璃が学って子のお店で受けた対応が彼らの本心だろう。余所者は仲間には入れないってね。

学って子は瑠璃の件で考え方が変わったのか、【ラト】や他の町で1人で出来る規模のお店が無いか探し出したね。」

「ふーん。瑠璃を捲き込まなければ別にどこへ行ってもいいけど。俺はあいつら年齢の割に幼稚であまり好きじゃないな。結構長くここにいて誰とも信頼関係築けてないっていう人間はちょっとびっくりだな。」

 カールの辛らつな言葉に、うぷぷと笑うバスン。咳ばらいをすると話を続ける。

「人外には不明者はいなかった。浮浪者達も今の所は不明者はいないけど確実とは言えないから、調査は続けるよ。スラムの中の情報はナカナカ手に入れるのが難しいの。

 鬼達も幽霊達も不明者はいない。人外の主要者に知らせたから皆もう知っていると思う。警戒態勢も強化したし、何か分かったら連絡するわ。」

「分かった。こちらも分かったらまた連絡するよ。ありがとう、バスン。

そうだ、バスンは知らないかな。瑠璃が食べた美味しい携帯食とか飲み物があるそうなんだよ。」

「その商品は知らないなあ、初めて聞いた。カール達が知らなくて瑠璃が食べ物を口にするなら、イオか淡雪じゃないのかな。もしあるなら私も食べてみたい。取りに行かせるから何個か取置お願いって伝えておいて。」

「分かった。さて、そろそろ行くよ。お昼前には帰って瑠璃を迎えに行きたいからね。

またね。バスン、何だか不穏な雰囲気だし気を付けて。」

「分かってる。皆に宜しく伝えてね。」

 バスンからお土産を貰いお礼を言うとカールはイオの家に向かっていった。


 イオ達の家に行くと、淡雪の両親が出迎えてくれた。

「おはようございます。先日は泊めて頂いてありがとうございました。イオ君いますか。」

 出迎えた両親はカール1人なのを見て少しがっかりした雰囲気だった。

「よく来たねカールさん、中へどうぞ。瑠璃さんは一緒じゃないんだね。今日はちょっと家の中が寒いんだよ。

淡雪が少し不機嫌なんだけど気にしないでくださいね。頑張って。」


 両親の言葉に悲しそうな顔になるカール。ちょっと後悔している雰囲気だ。

「淡雪さん用に燕達を連れてくれば良かったな。怒りの対象がいれば竜達に集中して冷気が向かったのに。」

 小声で呟くカールの言葉に頷いている淡雪の両親達。

「お邪魔します。イオに淡雪さん、おはよう。」

「おはよう、カール。瑠璃いないのね。一緒に来ればよかったのに、瑠璃大丈夫なの。」

「瑠璃は大丈夫だよ。今、コッコさんっていうエルフの初心者に武術を教える先生に会ってるよ。護身術と簡単な武器の練習を始めることにしたんだ。」

「それは良いね。頑張る瑠璃偉い。それに比べて戦闘しか取り柄のない竜が戦闘で役に立たなかった。お仕置きがいると思う。」


 怒っている淡雪、部屋の温度が下がっている。カールはすぐに淡雪を宥める。

「まあ、防御魔法のネックレスついてるのは分かってたし、竜達も人通りの多いところで殴るとは思わなかったんだろうね。

 兎人と猫人が焦ったのか思った以上に馬鹿だったのか。孤児をレオ達に助けられたから、瑠璃を攫って交渉の道具にしようとしたのかもしれないな。

 マリーが今、瑠璃の為に戦闘服セットとか色々作ってるよ。」

「悪知恵だけは一人前。悪人らしい考え方。マリーさんも可哀想。自分を責めてる。馬鹿竜達が判断ミスしたせいで。燕達が離れたら他の護衛近くに来る。当たり前。」


 怒りが収まりそうにない淡雪の事はそっとしておくことにしたらしくカールはイオに話しを振る。

「そういえば、携帯食と飲み物って商品が欲しいんだけどイオ達知ってるか。瑠璃が美味しいってレオに話したそうなんだ。バスンと俺たちの分欲しいんだ。」

「ああ、異世界人から買ったレシピで作ったのがあるよ。家にも在庫がある。皆の分準備するから、調査結果話してて、淡雪。」

「ありがとう、イオ。バスンは連絡してくれたら誰か取りに行かせるって。」

 了解ーと言うと、イオは商品を取りに2階へ上がっていった。


 淡雪は落ち着いたのか、冷気が収まった。淡雪は悲しそうな残念そうな表情だ。

「カール、座って。お爺さんが聞いてきてくれた。

 現在時を移動できる者はいない。時魔法は過去に行けるけど未来には行けない。過去から戻る時も、移動した地点より先には行けない。まだ生まれてない時間だから。

 狭間様が仰っていた、転移は一歩通行。この世界から外へ行く道は無い。来る道は稀に開く。別の世界の空間が歪んで外に出された何かがどこかの世界に入る。この世界は出れないけど入れる世界。

 多分瑠璃のいた世界は外に出る世界だったんだと思うって。」

「そうか、分かった。調べてくれてありがとうございました。お爺様と狭間様の子孫の方々にもお礼を伝えておいてください。」

「うん。伝える。瑠璃達に遊びに来てねって伝えておいて。」

「分かった。そういえば、様子見してた竜は円と狼だったんだよ。」

 話を聞いて淡雪は目をぱちぱちとした。

「へえ。知らなかった。教えてくれて、ありがとう。」


 2人の話が終わるとイオが袋を抱えて戻ってきた。

「お待たせー。ちょうど話し終わったところだね。

 はい、これ試供品。骸骨族やエルフの感想も聞きたいから少し多めに渡すね。ついでに竜、いや竜はいいや。

バスンさん達の感想も効けるから結構データが集まるね。」

 嬉しそうに話すイオだが、笑顔が引きつっている。淡雪が竜を思い出し不機嫌になったからだ。

「お昼前に瑠璃を迎えに行きたいからな。そろそろ帰るよ。皆様にもお礼を伝えておいてください。じゃ、また連絡するな。」

 カールはお礼を言うと急いで帰っていった。


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