第24話誘拐事件の後で
話が終わって下に降りると、カールが来ていた。瑠璃達を見ると駆け寄ってきた。
「瑠璃、無事で良かった。話を聞いてすぐに来たんだよ。【ラト】で誘拐犯達に狙われるなんて、異世界人だからなのかな。【ラト】は意外と危険な状態だな。皆も無事で良かったよ。」
「心配してくれてありがとう、カール。マリーに貰ったネックレスのおかげよ。ありがとう、マリー。報奨金が出るから。【ラト】の竜騎士団の所に行かないといけないの。」
「じゃ、俺が案内するよ。報奨金を貰ったらさっさと【ツリー】に帰ろう。」
瑠璃を守るように、瑠璃を中心に前後左右の陣形で歩いて行く皆。元気のないマリーと瑠璃は手を繋ぎながら歩いている。竜騎士団の宿舎につくと、話を聞いていたのかエルフの竜騎士が待っていた。
「こんにちは。竜騎士のアランです。お待ちしていました。こちらへ。」
中に案内されると、報奨金が入った3つの箱が置かれていた。
「燕様、瑠璃様、レオ様とマリー様は一緒の箱に入っています。防犯魔法が付与されて本人以外は開けられません。但し、箱自体は持っていけるので盗られない様に気を付けてください。」
皆お礼を言って箱を貰う。宿舎から出ると同じ陣形で転移門へと向かう。
歩きながら路地の奥を見ると、【ロウキ】と同様にスラム街がある。【ラト】は【ロウキ】と違って昼間でも路地で寝ている獣人達がいた。【ロウキ】では家はボロボロだったが道は綺麗だったし路地で寝ている人もいなかったのに。
【ツリー】に戻り安心した表情になった瑠璃達。瑠璃達は食堂で、料理を買うとカールの家に向かう。燕はカールの家まで皆についていったが、報告があるからと言うと帰っていった。
瑠璃はカールの家に置かせて貰っている荷物箱に報奨金の箱も入れておいた。
「持ち歩くなんて恐ろしい。銀行みたいにお金を預かってくれるようなものはないのかな。」
「あるけど、種族ごとの保管なのよね。一応【ロウキ】や【ラト】に誰でも預ける場所があるわ。人外は嫌がる人が多いから預けないけど。エルフは【ツリー】にあるエルフ専用に預けているわ。」
「そう言えば瑠璃は買い物とかまだあまりしてないよね。さっき金額を確認したけど、今回報奨金で結構いい金額だったから、個人の高価な物の取引について説明しておくよ。
個人の場合はお金よりも同じ位の価値の物と交換する取引が多いんだよ。瑠璃ももし高価な物が欲しい時はお金よりも品物の方が取引が成立する確率が高くなるよ。高価な物って競争相手がいる事が多いからね。」
「それって大変そう、駆け引きとか自信ないな。どちらにしても最初はお金での支払いだわ。
教えてくれてありがとう、レオ。」
「どういたしまして、瑠璃は意外に表情に出るからなあ。」
レオの言葉に瑠璃以外は深く頷いた。
カールが真面目な表情で皆に話し出す。
「【ラト】大変だよな。身内に犯人がいるとなると、信用できる人員だけで動かざるを得ないだろ。人数が限られてくるだろうし、通常なら危険だけど成果の大きい潜入捜査でってなるんだろうけど。情報もれたら終わりだから、今回できるのかな。
獣人同士って貧富関係なくもっと結束が固いと思ってたんだけど、今は微妙な関係になっているんだね。
昔は食料配布や職業訓練とか貧しい人達にも結構支援が行き届いていて貧しくても気力があって逞しい表情の人が多かったのに。今日見たらスラム街は酷い状態だった。」
「ボーン家が炊き出しや職の紹介もしているんだけど、孤児や浮浪者になっちゃうと気力が戻らなかったり精神的疾患とかで立ち直るのがなかなか難しい人も多いみたい。色々な人がいるから一概にはね。」
2人の話を聞いていた瑠璃が感心したように話す。
「ボーン家ってスラムの人達の支援もしているんだ。街の顔役みたいな感じなのね。だから、治安維持隊のブルさん達とも親しそうだったのね。【ラト】は本当に色々な種族の人達が共存しているのね。
そういえば獣人達って皆感情が耳や尻尾に出るのかな。ブルさん毛が逆立ったり尻尾がピクピク動いていたけど。誘拐に心を痛めて犯人達に怒っていたのよね、きっと。」
「獣人にも隠し通したり演技ができる人も沢山いるわよ。ブルさんが素直な反応だっただけで。」
「素直、確かにね。犯人に対しての怒りが尻尾や毛に出ちゃってたものね。ピクピク尻尾をじっと見ちゃった。」
なんだか嬉しそうな瑠璃を見て皆が困った顔になっていた。
不思議そうな顔で皆を見回している瑠璃を見たカール、話を変えた。
「最近【ロウキ】も嫌な雰囲気だってバスンが言ってたけど、【ラト】の事と関係あるかもな。バスンとイオに話したら【ロウキ】と周辺の人外達の事も調べてみるって。」
ずっと元気のないマリーに気が付いたカールが慰める。
「皆が無事で良かったよ。マリーそんなに気にするな。ボーン食堂がいきなり閉まるなんて思わないし仕方がなかったんだよ。」
カールの言葉に頷いてマリーの手を握った瑠璃。
「そうよ、私だってこんな事になるとは思わなかったし。あんな大通りで人目のあるところで襲おうとする奴が出るなんて分からないわ。
ネックレスを貰っていたおかげで助かったんだし、皆が無事だったんだからもう気にしないで、マリー。レオやマリーにカール達には本当に助けてもらってばかりで感謝しているのよ。」
静かに首を振るマリー。
「ううん、私離れるべきじゃなかったわ。一緒にいたら襲わせたりしないもの。今思えば食堂でも瑠璃を1人で置いて行くのは駄目よ、危ない事だったわ。」
マリーが責任を感じて落ち込んでいる。瑠璃は悲しそうにそんなマリーを見ていた。
「マリー。もう気にしないで。マリーが行かないでレオ達に何かあったらって思ったらゾッとするわ。
あの時はレオ達の方が危険で私の方が安全に思えたの、マリーはレオ達に合流した方が良いと私達2人とも思ったのよ。2人で決めた事なんだからマリーはもう気にしちゃ駄目よ。」
「ありがとう、皆。次からは同じ過ちを起こさない様にするわ。行くなら瑠璃も一緒に連れて行く。」
一瞬微妙な空気になったが、ひとまず元気になったマリーにレオが明るく話しかける。
「さあ、元気を出して。カールがケーキを用意してるよ。」
ケーキを食べながら瑠璃が皆に相談を始めた。
「私前々から思っていたんだけど護身術とか習った方が良いと思うの。
私が少しでも身を守る事が出来るようになったら、皆への負担も減るでしょう。勿論3人みたいにすぐに強くなれるとは思っていないけれど。
簡単な対処法とか最初に覚えたいな。各種族の弱点とか急所への効果的な攻撃方法とかね。今回の事で猫人の尻尾は覚えたわよ、思い切り掴んで捻る。」
レオが名案とばかりに頷いた。
「それはいいね。瑠璃は魔法使えないから魔道具で補助するだけじゃ不安だよ。武術を習って体力もつけると良いと思う。逃げる時に体力は必須だからね。
各種族の弱点は、獣人のような急所くらいで他の種族はないと思うけど。というか猫の尻尾捻っていたのか、とっさの判断でよくやったね。偉いよ、瑠璃。」
褒められて得意げな顔になった瑠璃は、えへへ、と照れている。
「捕まった時に居場所を教えられる魔道具もいるよね。武器もいるし。他にも色々考えよう。
護身術ならエルフの教師とかが良いかな。教える事に上手い人じゃないとね、瑠璃の実力に見合ったものを教えてくれないと意味ないし。聞いてみるよ。」
カールの言葉に、嬉しそうに瑠璃がお礼を言った。
皆でケーキを食べ瑠璃の護身術の予定を決めると、疲れていたマリーと瑠璃は早めに休むことにした。
カールとレオはあちこちとやり取りして遅くまで情報交換している。
「何だかきな臭いな。結構面倒な事になりそうだ。事が大きくなる前に片付けたいな。」
「そうだね、辺境の方も怪しいし、誘拐事件と聞くと過去の対戦を思い出すね。」
「ああ、エルフ竜騎士団の盗賊狩りが活発になりそうだ。人身売買と聞いたら放っておけなしな。人外はエルフ含んで被害はなさそうだけれどな。
そういえば竜騎士団。瑠璃の事件をきっかけに互いに本音を言い合って規律も変更して、エルフと竜の信頼関係が強くなったんだって。結束が固まったらしいよ。」
「そうなんだ、良かったじゃないか。あのエルフにはびっくりしたけどね。一応エリートだったのになあ。」
「エリートでも変なのは出るからな。そのうち痛い目に合うさ。」
「エルフに瑠璃の講師頼んだら、変な人とか来たりしないよね。普通の人が良いと思うんだけど。」
「多分大丈夫だろう、女性の人間の初心者に教えられる優しい人って言っといたから。」
「それなら安心だね。瑠璃の筋肉痛用に薬を作っておくよ。ついでに最近物騒だから、念の為探査系の魔道具とか各種薬も多めに準備するかな。」
ふと、カールが真面目な顔でレオを見つめた。
「瑠璃が携帯の栄養満点クッキーを貰って食べたら美味しかったって言ってたけど・・・・・・。
新商品なら俺も試食したい。飲み物もあるって言ってた。」
「え、それってイオのじゃないの。僕クッキー作ってないけど。僕も食べたいから貰ってきて。」
「・・・・・・。 そうか、後でイオに言っておくよ。」
情報を取り纏め終わった2人。疲れた2人は部屋へと戻っていった。
瑠璃達と別れた後、代表の炎に報告をした燕、円、狼。深夜まで続いた反省会が終わった3人。
「最後の一人は誰が良いかしら。交代で入れてみて暫く様子を見る方が良いと思うんだけど。」
「そうだね、それがいいわ。それにしても、瑠璃様が無事で良かった。
まあ、離れた所に2人がいたのは知っていたからいざとなれば大丈夫だとは思ってたけど。」
「レオさんとマリーさんも気がついていたわね。」
「ボーンファミリーはスプーさん以外気づいていなかったみたいだけど。」
「何だか最近、辺境の方がごたごたしているし、こっちにも影響が出てきたな。消えた異世界人は見つからないようだし。あ、燕、4人で交代制って瑠璃様に言ったか?」
「あはは、忘れてた。色々あって大変だったんだもの。まあ護衛に関しては特に反対はしなそうだよ。」
目を細くして燕を睨んだ円。
「次、忘れずに、話して、承諾を得てね。燕。」
冷たい視線に焦ったように燕が早口で話し出した。
「はい。そういえば、海が少しずつ元気になってきたって。良かったよね。そろそろ寝るよ。おやすみなさい。」
そういうと、燕は風に乗って走り去った。
「全くもう、逃げたわね。明日の朝もう一度きちんと言っておかなくちゃ。」
円の言葉を聞いて狼はブルっと身震いすると呟いた。
「可哀想にな、燕。逃げられないぞ。」
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