第23話お手柄4人組

 レオ達が捕まえた犯人達は最近起こっている誘拐犯人の一味だった。4人は詳しい状況の説明をするためにボーン食堂で兵士達が来るのを待っていた。


 暫くすると、スプーがエルフや獣人達を連れて戻ってきた。部屋にいるのは、エルフ竜騎士エイミーと獣人の治安維持部隊員ブル、ボーン3兄弟にスラムの顔役ナナシだ。互いに紹介を済ませると時間もないので早速今回の件に関しての報告が始まる。


 竜騎士のエイミーが進行役をする事になった。

「それでは、先程の誘拐未遂に関しての報告を始めます。まず、燕さんお願いします。」

「はい、【ツリー】の竜騎士団に所属している竜族の燕です。今日は瑠璃様の護衛としてこちらを訪問しました。


 スプーさんから子供が行方不明となっている話を聞き、捜索の邪魔にならない様に【ツリー】に帰ろう歩いていた時、大通りの路地の奥から子供と大人の争うような声が聞こえました。

 そこで、レオさん達にどうするか尋ねた所、私とレオさんで助けに向かう事になり路地の奥へ向かいました。


 到着すると、人間の男性3人が下に置いてある袋に子供達を押し込めようとしているのが見えたため、男性3人を無力化した後袋を開け子供二人を救出。男性3人を拘束した所でマリーさんも合流し、ぐったりとして意識の無い子供達はマリーさんが抱えて、男性3人を拘束した縄はレオさんが持つと、スプーさんに連絡をしていました。

 私は先に瑠璃様の所へ戻ろうとした時、瑠璃様の「痛い」と叫ぶのが聞こえました。慌てて瑠璃様のもとへ向かいました。私の後ろからは、レオさんが拘束した男達を引きずりマリーさんは子供達を抱えて走ってきていました。

 到着すると瑠璃様はご無事なようで、兎人男が足をグリグリ踏み潰されていて、猫人の尻尾は握り潰そうとしながら引っ張っていました。残念ながらお優しい瑠璃様は引き抜く事が出来なかったのですが。それで私は兎と猫を捕獲しました。」

 獣人のブルは引きつった顔をしているが、ボーン兄弟は笑って楽しそうに拍手をしていた。


 エイミーは頷くとレオを見る。レオが頷いたのを見ると瑠璃を見た。

「ありがとうございます。レオさんも燕さんと意見の相違はないとの事なので瑠璃さんお願いします。」

「はい、異世界人の瑠璃です。

 レオさん達が行った後、私達はスプーさんの食堂で待つために食堂へ向かいました。でも私もマリーさんもレオさん達の事が心配だったんです。私がいなければきっとマリーさんも一緒に行けたんだろと思いました。

 幸い、食堂は5分もかからない場所ですし、大通りで獣人や人外も歩いていました。それで、私なら1人で行くからすぐに追うようにマリーさんに言いました。

 マリーさんが向かうのを見送った後食堂に向かいました。でも食堂が閉まっていたので皆が来るまでドアの前で待つことにしたんです。

 すると兎男が「スプーさんとレオと一緒にいた人だよね。」と話しかけてきて、どうしたのかと事情をきくので待ち合わせだと話すと、「隣の店で待てばいい」と言ったんです。「擦れ違うと嫌だし、知らない人だから」と断ると、後ろからいきなり殴られ「痛い」と叫びました。ネックレスの防御魔法のおかげで痛くなかったんですけど。

 ハッとなってとっさに後ろに肘を曲げて思いきり突き出し、兎男の足を踏みつけてグリグリ潰すように踏み続けました。後ろにいた人が蹲って私の横に来るのが見え、猫だと思った瞬間に尻尾を強く握って引っ張りました。

 そこに、燕さん達が戻ってきて彼らを取り押さえてくれました。」

 最初は緊張していたが、最後の方の兎人と猫人の話になると得意げな表情で嬉々とした語った瑠璃。


 得意げな瑠璃と微妙な顔のブル、笑顔で拍手をする他の人達を見ていたエイミー。エイミーがマリーを見ると頷いた。エイミーも頷くと、先程捕まえた誘拐犯からの取り調べ内容を話す。

「兎男は黙秘していましたが、猫人が尻尾の治療と引き換えという事で自白しました。

 現在【ロウキ】と【ラト】ではスラム街の孤児や浮浪者を攫い、街の外で犯罪組織と売買する仕事があるそうです。主に仕事がない人間に誘いをかけて、街の外へ連れて来たら報酬を払うので、誘拐犯の線から犯罪組織をたどるのは難しいでしょう。」


 ナナシはため息をつくと暗い顔で話す。

「つまり、知り合いや仲間が誘拐犯になっている可能性があるという事か。犯人候補は沢山いるぞ。金がなく困窮しているのが多いからな。捕まえるのは大変だな。」

 ナナシの言葉に頷くと、ブルも厳しい顔で困ったように言う。

「犯罪組織が街に潜入するのではなくて、スラムや町の人間を雇う形に変えたのか。街に入らないとなると検挙する事が難しいな。一時的に雇った奴らなら組織の事を何も知らない奴らばかりだろうし。」

 猫人ブルは瑠璃の視線がずっと自分の尻尾を見つめているのが怖いのか、瑠璃から顔をそらして話している。それを見ているレオとマリーが同情するような困ったような雰囲気でため息をついていた。


 瑠璃の与えている影響は無視して、エイミーが話をまとめる。

「潜入捜査、被害者の輸送経路、犯罪組織の外の拠点捜索も必要ね。信頼のできる者をそれぞれの組織で選ばないといけないし。解決まで時間がかかりそうだけれど、人が攫われている事を考えて出来る限り早く決着をつけないと売られてしまったら見つけ出すのが大変だわ。

 皆其々の組織で報告や相談をしたいでしょうから、一度休憩にしましょう。では、一度解散します。関係者は30分後にここに集合してください。

 瑠璃様、レオ様、マリー様、燕様、ありがとうございました。報奨金が出ますので【ツリー】か【ラト】の竜騎士団で受け取って下さい。」


 マリーが代表して答える。

「分かりました。ありがとうございます。瑠璃、どこの騎士団で受け取る?」

 瑠璃はブルの尻尾を見ながら、【ラト】と答え、皆に挨拶して出て行った。

 マリーとレオは気の毒そうに、ブルに気にしないで、と声をかけ瑠璃を追いかけて行った。


 瑠璃がいなくなるとホッとしたようにブルがぶるるっと身震いした。

「怖かったー。俺の尻尾をずっと見てたよ、きっと猫人の事を怒っているんだな。あいつの尻尾ボロボロだったし握りしめてたところなのか血が出てたとこがあったぞ。きっと凄い力で掴んだんだよ。

 まあ、おかげですぐ自白したから助かったけど、異世界人って力が凄いのな。今度カイの嫁さんの異世界人が【ラト】に来るんだが大丈夫かな。」

 瑠璃がいる間ずっと鳥肌をたて尻尾が震えていたブルに、スプーが笑いながら言う。

「いや、お前の尻尾が震えてるから見てたんじゃないか。彼女笑っていたぞ。お前が怯えすぎなんだよ。」


 そんな時、ボーン兄弟の3男ホークが質問する。

「そういえば、人手が足らないのに何でレオ達に頼まなかったの。

 誰も言わないから言えなかったけど、竜族もいたじゃん。竜族なんて瑠璃ってこの護衛なんだから、彼女が承諾したら竜族を使えたのに。」


 皆が冷たい視線でホークを見た。その迫力に固まったホーク。

「どうしようもない馬鹿だけど、今の言葉をあの人達の前で言わなかっただけましなのね。馬鹿だけど。

 竜族が彼女を護衛しているのは竜族の代表の命令。竜族にとって彼女はとても大切な存在。

 護衛は瑠璃様を守る為にいるのであって他の事をする為にいる訳じゃないの。竜族の護衛は代表の命令以外の事なんてしないわよ。瑠璃様を守る事が最優先。」

「え、でもさっきはレオさんと燕さんは助けに言ったじゃないか。」

「さっきのはマリーさんが一緒だったから離れただけ。遠くから他の竜族が護衛しているだろうし、防御魔法の魔道具持ちだし、少し離れても大丈夫と思ったんだろうけど、駄目だったからもう離れないでしょうね。

 そもそも、瑠璃様が護衛を拒否する事は出来ても他の事を護衛に命令する権限はない。瑠璃様が命令したいと思ったら代表に相談するしかないわ。瑠璃様を利用して竜族の支援を引き出そうとしたら、私達は竜族の怒りをかって今後の種族関係に悪い影響を与えるわよ。

 【ラト】の国の問題であって竜族には関係のない話なんだしね。」


 黙り込んでしまうホーク。エイミーは怒っているのか話はまだ続く。

「それに、彼女がそもそも頼まないわよ。彼女にとって大切な人なら頼むかもしれない。でも、見ず知らずの他人に同情して、他の人に危険だけど死ぬかもしれないけれど、助けてあげてだなんて酷い事、言わなそうじゃない。

 彼女や竜族達からすれば街を守る者達でやれって話でしょ。強いからっていう理由で命がけで作戦に参加させるなら、自分達が危機に陥った時にも命がけで助けに来いよって話よねえ。

 他の種族や他国に力を借りたのなら、どこかで力を返す事になる。当たり前よね。借りっぱなしでありがとう、だなんて国同士の場合成立しないわよ。

 借りた力に対して、力か物かお金か、何かで返しているのよ。あなたが気づけないか知らないだけでね。」


 そこまでいうとエイミーは思いだしたように、フンっと鼻で笑う。

「後「竜族なんて」って上から目線で言っているけど、戦闘なら、ボーンファミリー100人でも竜族なら10人もいれば余裕で倒しちゃうんじゃないの。

 騎士で訓練もしている上に、風魔法に連携をして攻撃、人型にもなれるし戦略も得意。戦いに秀でた種族よね。大体、巨体対骨だし、竜の足で踏まれたら骨は粉々・・・・・・。 」


 エイミーの話を聞いていたスプーも弟に説明する。

「レオとマリーだって頼んだところで断られるよ。自分達と離れた時に瑠璃さんが襲われたのに、あの2人が彼女のそばを離れるわけないだろ。万能エルフを【ラト】に呼んでたしな。今は合流して万全の体制だ。」


 頭を抱えているスプーに同情するような眼差しのエイミーとブル。ナナシは皆の話を聞いてメモを取っていた。

「後お前、竜族を馬鹿にするような事言って全然自分の立場が分かっていないようだな。竜族から反感でもかったら大変だから、家から追い出して勉強やり直しな。

 他種族を馬鹿にするような発言をする奴は、教育し直さないといけないだろ。」


 2人の話を聞いて、落ち込むホークにイフが肩を組み優しく諭す。

「大丈夫だよ。これから覚えていけばいいんだ。お前なら出来るって俺は信じてるから。歴史の勉強や他種族との関わり方等、もう一度教えてやるからな。

 ちゃんと教え込まないと、ボーン家と他の人達との関係にひびを入れそうだからな。まずは、爺さんにお願いしよう。俺に任せておけ、全部話してきちんと爺さんに頼んでやるからな。良かったな。」

 話を聞いて突然走り出し逃げようとしたホークは、ナナシに足を引っかけられて転んだところをイフに捕まり引きずられて退場した。

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