第20話【ロウキ】を散策

 街を歩いていると、時々カールをチラチラ見てヒソヒソ話す嫌な感じの人達がいる。

 竜達は、なるべくそういう人のいない方へと誘導してくれる。歩いている通りの奥を見ると、所々家の壁が崩れていたりドアや窓がボロボロな住居がある。道も汚れていて全体的に汚い感じのするエリアだった。


 街を皆で歩きながら、瑠璃が行きたい場所を言う。

「幽霊族と魔族の印象が強くて忘れてたけれど、隼人さん達のお店を見てみたいです。もし時間があったら帰る前にイオさんと淡雪さんにも会いたいですね。」

「そうだね、他の異世界人達の生活している住居も見ておいた方がいいかな。最後にイオ達の所によろうか。狼君、イオに伝えておいて。よろしくね。」


 狼が一瞬で消えた。驚く瑠璃に風魔法で凄い速さで屋根の上を走っている事を教えてくれる円。狼はすぐに戻るという事なので、まず隼人達の宿屋に向かう。2階がある煉瓦の家で客室だけで20部屋はありそうだ。

 1階の受付に向かう瑠璃とカール。円は人の姿だが外で待機して周囲を警戒している。

「こんにちは、カンナさん。今日戻ることにしたので挨拶に来ました。」

「瑠璃さん、こんにちは。わざわざありがとうございます。隼人さん達呼んできますね。」 

「いえ、お忙しい時間帯のようですので私はこれで失礼します。

 皆様によろしくお伝えください。カンナさんお元気で、お幸せに。」

「分かりました。伝えます。瑠璃さん是非今度ゆっくりここに遊びに来てください。【ラト】に来た時には、うちにも遊びに来てくださいね。カイの宿屋で通じますから。」

 互いに挨拶をして宿屋を後にする。


 外に出て円と合流すると周囲を見回している瑠璃。

「宿屋も看板がないと普通の家と同じ感じですね。雑貨店とかのお店は【ツリー】と置いてあるものは変わらないのかな。魔道具店はないですね。」

「魔法関連は、違う区画にあるんだよ。事故や盗難を防ぐため少し離れた所にあるんだ。

 向こうに孤児院とお店が密集しているね。孤児達が働いているお店みたいだね、値段が普通のお店より少し安いんだ。客は安く買えて孤児達は職業訓練になる、良い考えだな。」

「そうですね、組織が上手く回っている感じがします。保護されている人の住居もあるみたいですね。これって国としての支援とかはあるんですか」

「【ロウキ】と【ラト】は難民なら支援があるね。【ツリー】はないけれど、無くても問題ないからな。エルフ達は自発的に同族を助けようとするんだ。職を紹介したりしばらく家に泊めたりね。多分ほかの人外もそうだと思う。規定は必要ないからないんだよ。」

「そうできたら一番良いですよね。互いの絆が強いんでしょうね。」


 戻ってきた狼も合流して宿屋のある辺りをのんびりと散策していると、先程見たスラム街が見えてくる。宿屋と近いようだ。学のお店は街の食堂という感じで、宿屋より少しスラム寄りの場所にある。

「あそこじゃないですか、良い匂いがする。忙しそうですね。」

「お昼前だから地元の人で混んでるかもね。そんなに広くなさそうだから混んでいたら挨拶だけして外に出れば良いよ。ご飯ならイオに作ってもらえばいいし。

 でも瑠璃、せっかくなら同郷の人の料理食べておいたら、俺達はどちらでも大丈夫。」

「はい、余り混んでいないようだったら食べていきましょう。」


 お店に入ると、学はいなかったがお店の従業員と近所の人らしい客が何人かいた。客の中の男性3人組が円と瑠璃をジロジロ見て、からかうような言葉を言って笑う。

「おお、うちのお店に合わなそうな上品なお客様だ。来る店が違うんじゃないか。」

「うちの店に何か用ですか、あなた方のお口に合うと料理だとは思えないんですが。」


 その言葉を聞いて露骨に顔を顰めた瑠璃。じろりと睨むと4人を冷たい眼差しで見つめながら、早口で小さな声で呟く瑠璃。

「ああ、このお店は接客担当もお客さんも自分達と違う人を受け入れたくないのね。止めようとしている人もいるけれど。身内と他であからさまに対応を分けるようなお店は行く必要ないし。

 まして、お店の接客する人が私達にこの態度じゃ、料理に何をいれられるか分からないわ。というか料理なんてでないかもね。」


 呟いて少し冷静になったのか、今度は低い声だがはっきりとした口調で相手の顔を見ながら話しだす。

「そうですか、あなた方は相手の外見で差別し拒絶する言葉を平気で使うんですね。普段なら適当に流しますが、かなり不愉快なのではっきり言いますね。

 私、そういう人、大嫌いなんです。学さんのお店がどういうお店か、よく分かりました。」


 話し終わると瑠璃はお店を出て行った。

 場所が変われば差別する対象も変わる。エルフに人間への差別主義者がいるように、【ロウキ】や【ラト】でも人外へや余所者への差別をしている人間がいるだけなのだ。

 狼とカールはお店に入る前だったが、中の声は聞こえていた。出てきた瑠璃と一緒に何も言わずにイオの店に向かって歩いて行った。


 怒っていた瑠璃だったが一緒にいた円に謝罪する。

「円さん、不愉快な思いをさせてごめんなさいね。」

「いえ、大丈夫ですよ。瑠璃様は気にしたら駄目ですよ。」

 そう言って優しく微笑む円にお礼を言う瑠璃。

「この辺りは、余所者への拒否感が強いようですね。種族は関係なくて、自分達の仲間かどうかで態度が変わりましたね。自分達と違う人を受け入れ理解する心の余裕がないのでしょうね。

 違う考えや文化を上手く受け入れたら、発展したり大きな力になるのに残念ですね。瑠璃様」

 円の言葉に同意している瑠璃。

「そうですよね。同じ仲間でも合わない所はあるものなんだからいちいち気にせず、認め合って協力できるところを探して行く方が自分の為にも良いと私は思うけど。考え方は人それぞれですもんね。

 ちょっと興奮しちゃいましたね、すみません。

イオさんが昨日作ってくれたオムライス美味しかったな。今日は、円さん達も一緒に食べられますね。」

「ええ、今日はきちんとお店に入りますから・・・・・・。」

 昨日の事を思いだし苦い顔をする円と思わず噴き出した瑠璃。


 瑠璃は殺気など分からない。後ろでは強面竜が、学の知り合いだったと気づき謝ろうと出てきたニナと男達を睨みつていた。彼らは動く事が出来ず黙って瑠璃達を見送った。


 気分を変えてイオのお店で今度は美味しい炒飯セットを食べた瑠璃達。イオと淡雪と近いうちに会う約束をして、【ツリー】へと戻っていった。

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