ライト&ダークファンタジー

@tennsi

第1話 青い髪の少女


 

 4年ほど前、人知れぬ孤島で異世界の魔王の身体の一部が召喚された。




~とある村~


 村人達が集まっている。


「おい! オスマ国最強の部隊が、この村を通るらしいな」


「一目見たいな~」


「隊長が17才の女の子らしいぞ!!」


「17才の女の子!!?」


「お前、知らないのかよ! モンスターに襲われて、廃墟となった町のお姫様らしいぞ。おっ来たぞ! 来たぞ!」


噂の部隊が通った時、村人達から大きな歓声が起きた。その部隊名は『青い竜の部隊』。



 4年程前から突如、闇の怪物達が村や町、大きな国までも襲い始めたのである。それに対抗できる有力な部隊の一つであった。


今や飛ぶ鳥を落とす程の勢いである。村人達は歓迎した。



 馬に乗り先頭にいる青い髪を短く切った少女。隊長のティル・スカイであった。緑色の瞳は虚空を一点に見つめている。可愛いというよりも凛々しいという表現が正しく、少年のような顔立ちをしていた。村人の歓声に反応は無かった。



 ティルを一目見た、村人達の一番の印象は、ティルが纏っているオーラだった。姿を見ただけで、そのカリスマ性を感じずにはいられなかった。



 そして、その部隊にいる面々も個性に富んでいた。魔法使い、ならず者、エルフ、ドワーフ、半獣人などで構成され、最後尾には巨人達がついて歩いている。こんな多種多様な種族のいる部隊は珍しい。統制が取りにくくなるからだ。このことだけでも、ティルの統率力の強さが知れた。



 横にいるティルと同い年ぐらいであろうか。銀髪のエルフの少女がティルに声をかけた。


「ちょっと、ちょっと、ティル!! あんた、少しは村の人達の声に応えなさいよ!! 本当に愛想ないわね!!」


ティルはエルフを見て、自分の頭を掻く。


「ごめん。ごめん。ボーとしていた」


エルフは仕方がないな。という仕草を見せ


「そんな真剣な表情で、ボーとするな!! どうせ、あんた戦死した仲間や故郷のことを考えてたんでしょ?」


ティルは笑った。戦死した仲間や故郷のことを思い出さない日など一度たりとも無い。沢山の犠牲を払い、今があった。



 村の外れでキャンプを張り休むことにした。部下達は手慣れた手つきで自炊し始める。煙が立った。


 

 ティルは、一人で自分の身を清めに行った。ここ、数年は誰にも自分の肌を見せたことがない。誰もいないことを確認し、服と防具を脱ぐ。その下に封印用の強力な呪符が丁寧に巻かれていた。呪符を、ゆっくりと取ると水面に自分の姿が映った。



 胸回りと腹部以外の肘と膝から上、背中には青い鱗が、ぎっしりと張り積められていた。そして、みぞおちには紅い水晶のような鱗がある。僅かだが、首回り、前腕や膝下にも青い鱗が疎らにあった。


自分の裸には見慣れていたが、青い鱗の進行に気づいた時の暗雲たる気持ちには慣れなかった。


『呪符で抑制しているが竜化が進んでいる。私には時間がない』


ティルは焦る。やり遂げなければいけないことがあった。そして、故郷に帰る。この事がティルの原動力になっていた。




~4年前~  


 ティル、13才。青い髪を腰まで伸ばした細身の女の子だった。可愛らしさの中に、少年ぽさがあった。彼女はスカイドラゴンシティーのお姫様だった。



 スカイドラゴンシティーは天空の島にある古い城下町である。  


 ティルは、城下町の魔法図書館にいた。最近、魔法が使えるようになり興味が出てきたのであった。


 

 ティルは、いつも一人でいる。いくつかの理由があった。


1つ目は、幼い頃に得体の知れない魔法をかけられたと噂が出たこと。


2つ目は妃の出にあった。妃の血脈を辿れば変人・奇人が多く有名であった。その血は妃にもティルにも脈々と流れていた。


これらのことが、偏見となりティルから同い年の友人を奪った。



 ティルが本を読んでいると、兵隊が入ってきた。


「早く非難だ!! 多数のモンスターが襲ってきたぞ!!」


図書館にいた人達は兵隊の誘導に従い、外に出た。ティルも同じく外に出た後、兵隊に訊ねる。


「一体、何があったの?」


ティルの顔を見た兵隊は驚く。


「お、お姫様じゃないですか!? 実は空から何百もの死霊の軍団が出てきました。今、その軍団が、城を包囲しようとしているのです」



 ティルは城の方を見る。上空には巨大な魔方陣が描かれ、そこから黒い影が降っていた。町の中は、いくつも煙が上がっている。今までにない非常事態だと瞬時に分かった。嫌な予感がした。


「私、一度、城に戻るわ。貴方は町の人達を安全な所まで誘導して!!」


ティルは兵隊に指示する。兵隊は、ティルが城に行くことを止めようとした瞬間、もうそこにはいなかった。


 

 屋根に上り、魔法図書館から城までの一直線上を走り始めたのである。ティルは、この経路が一番、早いと判断した。兵隊は、まさか屋根の上を走るとは思っておらずティルを見失ってしまった。


『早く戻り、お父様とお母様をお守りしなければ』


屋根の上を走っている最中、視界の隅に、黒い死霊に襲われようとしている母子の姿があった。母が子を守ろうとしているかのように見えた。


「くっ」


ティルは唇を噛む。


一刻も早く城に行きたかった。しかし、方向を変え屋根から飛び降りた。


「こっちだー!!」


ティルは死霊に向かって吠える。死霊はティルの方に向きを変えた。その姿は、黒いフードを被った髑髏であった。片手にはロングソードを持っていた。



 ティルの胸が高鳴り、頬に汗が伝った。膝が少し震える。初の実戦であった。


「やれやれ」


ティルは、そう言いながら、鞘から剣を静かに抜く。剣先が光った。両手で剣の柄を持ち、腰を低く構え戦闘態勢に入った。

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