第31骨「悩ましいぞ!死霊使い!」



「かかかかかか可愛いと思う」


「『か』が多すぎない!?」


 いたって冷静に、それでいて気取りすぎないように俺は回答した。そう、女子はきっとその言葉を聞きたいがために他の人に聞いているんだ。俺の回答は正しい、決して間違ってなんかいないはずだ。


「ねぇ、マスターあたしは……?」


 今度は莉愛が自分の装備をマスターである俺に確認してきた。咲愛が刺激的な衣装だったのに対して、莉愛は全く違った方向から攻めてきた。


「いや、なんだその装備……」


「ド淫乱メス犬奴隷装備よ。可愛いでしょ」


 古布を全身に巻き付けただけのような装備に、年季の入った、と言うより使い古された靴、何より一番目立っているのは奴隷の象徴とも言えるチョーカーもとい首輪だった。今から強制労働でもさせられるのかと思える風貌で、可愛いと言うより可哀そうと形容した方が的確だった。


「莉愛、少し方向性を考え直そうか……」


 主従関係をそんなに全面的に押し出さなくても良いと考える俺は、装備をもう一度考え直してもらうことにした。


「主、余の装備は完璧なのじゃ!」


 最後はピザピンちゃん。たしかに、この幼女の装備は完璧だった。


「ピザピンちゃん、たしかに装備は今からすぐにでも大丈夫だな」


――幼稚園にいくならな。


 黄色い帽子に水色スモック、おまけにしっかりと肩掛けのかばんまで用意してもらっている。元王族はそんな恰好をして町を歩くことに抵抗はないのだろうか。さすが王の器だ、細かい事には頓着しないのだろう。


「みんな、真面目に考えてくれ」


 と言いつつ、自分も土産物屋で売られているような木刀だとか、錆びれた甲冑だとか、ゴテゴテの装飾のあるつるぎだとか実用性の低いものばかり目に入っていた。


「よし! 今から、自分の考える最強装備を各自用意すること!」


――これは命令だ!


 俺は眷属たちに装備捜索の命を下し、来たるべき大屍魔窟マレドードゥン突入作戦に備えようとした。


 にしても死霊使いネクロマンサーってのは、どう言う装備が最高の装備なのだろうか。イメージで言えば、やはり黒装束に木製の杖の黒魔法使い同様の装備が適している気がする。


 実際にそんな装備だと一瞬でやられてしまいそうだ。やっぱり、固そうな強い一撃を食らっても一度くらいは耐えれるような装備が欲しい。


「でも、機能性も大切だけど、いわくつきの装備とか、掘り出し物の中にある実は伝説の装備だったり、そう言うドラマのあるものを選びたい気持ちもあるんだよな」


 黒瀬はRPGゲームなどで、キャラクターメイキングに何時間も時間をかけてしまうような典型的な形から入る、外見にとことんこだわるタイプだった。冒険序盤は次から次へと苦難が襲ったので、自分の装備を整える時間がなかったが、今回は余裕がある。


 とことん吟味して、納得のいく装備を選ぶと決めた黒瀬は梃子でも動かぬ強靭な精神力を持ち合わせていた。


 妥協はしない。装備は命、装備は命を守るんだから。

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