第26骨「救出作戦!死霊使い!」

 砂鯨の中は熱された砂を無尽蔵に飲み込んでいたせいか、蒸し暑い。口内のおびただしいギザギザとした歯には歯垢しこうのようにびっしりと砂が詰まっていた。


 石化しているので心臓の鼓動を感じることはできなかったが、たしかにさっきまで生きていたと感じさせるような荘厳さが滲み出ていた。


 こんな大きな生き物にすっぽりと飲み込まれたら、俺なら確実に死を意識してしまう。それくらい大きな空洞、不安を掻き立てるには十分すぎるくらいの暗黒が行く手には広がっていた。


「ピザピンちゃん! あれやるぞ!」


――燦爛たる眩暈ゲレルリヒト


 先ほどのように第三の眷属、ピソーク・ザント・アレーナ・アイティオコピン十七世はまばゆい光で発光する。


「これで暗い道だって大丈夫だ」


 幼女がこの暗闇の中一人でピカピカと光る絵は非常にシュールと言わざるを得なかったが、これがないと先に進むことはできない。


「主、二人が見つからなかった時はどうするのじゃ!」


 ピザピンは先ほどまでのファンタジー脳とは違って現実的なことを突きつけてきた。


二人が見つからない時? そんなこと、考えもしなかった。


「見つかるまで探すさ……」


 きっとあの二人ならなんとかやっているだろう。一度では飽き足らず二度も生き返った姉妹だ。少々のことがあっても大丈夫だろう。


そう、あの二人なら。


 そんな気持ちが心のどこかにあった。


「ま、見つからなかったら余と同じように光ってもらえばいいだけなのじゃ!」


 ピザピンちゃんはそう言って屈託のない笑顔を見せた。この大きな鯨の体内で、行方不明の少女二人を探すのは大変骨の折れる作業だったが、俺にはなんだか見つけられそうな気がした。


「主、これは……」


 ピザピンちゃんが見つけてきたのは、腰椎ようついより下の骨盤部分。大きさからみて成人した人間のものだった。


「以前にこの鯨に食べられて死んだ人間がいたってことだよな……」


 そう考えてふと、足元をみると、砂の中から次々と白い骨のようなものが見えてきた。ゴツゴツと無造作に主張するその白骨は、助けてくれと言わんばかりで、俺はこの惨状を見て蘇生するか迷った。


「これ、俺が全員生き返らせることができるんだよな……」


 そう、眷属は多いに越したことはない。だからこそ、この鯨の体内で朽ち果てた人間たちにセカンドライフを与えてやるのも誤った選択ではないように思えた。


「ピザピンちゃんなら……どうする?」


「眷属に意見を求めるなんて、優柔不断な主なのじゃ! 余は迷いなく配下を増やす。それが王たる人間の務めなのじゃ!」


 王、たしかに死霊使いネクロマンサーは死屍の頂点に君臨する王、死者を使役し、自由自在に操る王たる存在だと言える。

 しかし、俺にこれほどの人間を従えるだけの力はあるのだろうか。もちろん、これはあるじと眷属の関係だ。こちらの命令に拒否権はない。


 だが、それでも俺は王の器足り得るのか、不安に感じてしまう。


「二人を見つけてから考えることにする」


 決断の先延ばし。結局、こうやって俺は、重大な決め事から逃れようとしてしまう。その選択は必ずしも責められるわけではないが、今回の件は自分の中ではっきりと決めておくべきだった。この黒瀬の甘さは後々大きな出来事を巻き起こす契機になるのだが、それはまだ知る由もない……


 少しの間、沈思黙考ちんしもっこうする俺だったが、ピザピンちゃんの一声で現実に戻された。


「見つけたぞ! 主! 双子の片割れなのじゃ!」


 たしかに、ピザピンちゃんは双子の姉、今湊咲愛を見つけていた。これは間違いなく彼女だ。しかし、これは彼女ではない。


――これは彼女だったものだ。


 俺とピザピンちゃんは既にこと切れた後の、咲愛の生首を見つけた。


――これって、ラブコメじゃなかったのかよ……(2回目)

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