第8骨「占っちゃうよ!死霊使い!」

「お、あったあった」


「マスターなにこれ? 歯?」


 白い4つの歯のような物を怪訝そうに見つめる今湊姉妹。俺は二人に向かって口を開いた。


「シャガイってやつだよ。羊のくるぶしの骨でできたサイコロだ。これを振って俺たちの行く末を占う」


 このシャガイには羊、馬、ヤギ、ラクダの4つの面が存在する。それらの組み合わせで運勢が分かると言う寸法だ。

 ちなみに、サイコロに絵柄が書かれていると言うものではないので骨を見てどの面が出たか見極める必要がある。

 羊の背のように丸くなっているのが羊、馬の背のように平らな面が馬、中央に大きな凹みがあるのがヤギ、2つの凹みがあるのがラクダだ。


 この占いで一番運勢が良いのは、全部が馬の目が出た場合で、「すべてがうまくいく」と言うことになる。羊、ラクダが4つ出た場合やどれも一つずつ出た場合も同様に幸運の兆しとなっているが、ヤギが4つ出た場合は不幸が舞い降りるとされている。


「でも、そんな全部同じ目が出るなんてなかなかないでしょ。それが出たら私たちが幸運だってことを認めざるを得ないわね」


「さあ、マスター! 振っちゃってよ! あたしたちの運勢、占っちゃってよ!」


 言われなくても分かっている。これは家でも何度もやったことがあるが、全部同じ目が出るなんてことはなかった。だから、きっと今回も微妙な平凡な目が出る可能性が高い。


 だが、俺たちはもしかしたらツイているかもしれない。そう思いたかった。占いなんて当てにならない、気休めだなんて言われることが多いが、実際これで良い結果が出たら俺たちも安心できる。こんなことに頼るのが俺の弱さなのかもしれないが、これからラストダンジョンに挑もうと言うのだ。神の一押しがあってもいいだろう、なんて思う。


「ええい! ままよ!」


 俺の手から4つの骨が離れる。莉愛は両手を組んで神に祈りを捧げる形で、俺たちの幸運を願う。咲愛は右手を高く上げて、黒瀬を全力でエールを送っている。

 俺は緊張感を持ってこのシャガイが示す俺たちの命運を見届けようとした。それは一瞬だったが俺にはずいぶんと長く感じられた。まるでアニメーションのコマを一コマ一コマゆっくりと進めていくように、小刻みにそして着実に時が流れているようだった。


「結果、出ました!」


 1つ目、馬。


「お! やった!」

 咲愛が掲げていた右手をガッツポーズに変えて喜ぶ。


 2つ目……も馬。

「やるわね! マスター」

 全て馬で最高の運勢と言う結果に向けてあと半分と言うところで莉愛も声を上げた。


 3つ目、馬。

「あたしたち運が良いパーティじゃん!」

「3つ揃うだけでもレアよね!」


 ここで俺はひょっとしたらひょっとするんじゃないかと言う淡い期待をした。256通りの中の一番上をここで引き当ててしまうんじゃないか、と想像した。


――だが、現実は時に残酷である。


「あー、最後、ヤギ!」


 まあ、実際はこんなところだろう。俺たちの運勢は最高ではない。逆にここで最高の運勢が出て浮かれているところにつけこまれなくて良かったと考えよう。そうだ、そのためにこういう結果になったんだ。


「んで、馬3つ、ヤギ1つの運勢ってどんな感じなの? 最高に良いわけじゃないけど、一応気になるし……」


「だいたい良い」


 とても雑な結果だったが、まあ悪い結果ではないことはたしかだ。


「で、結局マスターどうするの? 行くの?」


 これで良い結果が出れば即大屍魔窟マレドードゥン行きを決定していたし、逆に悪い結果なら行くのを止めていた。


 しかし、これはどうだろう。

「だいたい良いってことは、基本的には大丈夫ってことよね」


「じゃあさ、やっぱり行っちゃおうよ。行きたいんでしょ、マスター!」


 莉愛も咲愛も俺の背中を押すようなことを言ってくれたので、俺はすっかり気分が良くなって、


「そうだな、行こうか……大屍魔窟マレドードゥンに!」


 そう決断してしまった。


 己の非力は分かっていたはずなのに。

 自らの無力を忘れたわけではなかったのに。

 俺の全力がどのような結果を生むのか考えなかった……


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