メス堕ち寸前バ美肉おじさん、魔王アイドルを率いて異世界征服

武論斗

プロローグ:爆乳大魔王美少女、こ↑こ↓に爆誕!

「かわいい!」

「くぁいい」

「きゃわわ」

「きゃわたん」

「かわゆ……」


 かわいい、と絶賛ぜっさんの視聴者コメントぐんに調子に乗るおじさん。

 おじさんの名は、山田やまだゆたか。通称、ヤマカン。別に覚えなくていい。もう二度と出てこないから。多分。

 アラフォー、独身のおじさん。

 住まいは30年来使っている子供部屋。学習机に似つかわしくない高性能ゲーミングPCを置いて、生放送配信中。


 おじさんには野望やぼうがある。

「この山田やまだゆたかには夢がある!声優に!!!おれはなるっ!!!!」

 おじさんはクソヲタ。

 軽い中年太りに加えて、うだつが上がらない底辺職(アルバイト)にいそしむしょうもないおじさん。無職じゃないだけ、かろうじてマシ。

 おじさんは高校を卒業してすぐに声優の養成所に通っていた。なんともならなかったので別の養成所にも通った。おじさんは計五校も通った。

 結果、学費で借金ができた。返し終わったのは30代半ばのことだった。


 借金をやっつけたおじさんは、実家らしで生活費がかからないのをいいことに、ハイスペックPCを手に入れた。

 世間せけん流行はやっていたYouTuberユーチューバーに乗っかり、動画投稿と生放送を始めた。


 おじさんには野望がある。

「この山田寛には夢がある!声優に(以下略いかりゃく

 養成所では俺の声の良さと演技力に気付く講師がいなかった。養成所を運営している事務所の連中も、俺の声の良さや演技力に気付かなかった。いや、気付けなかったんだ。

 だから、YouTubeを通して直接、視聴者にその良さを訴えかけ、ファンを作って逆輸入ぎゃくゆにゅう的に声優になってやろう、と意気込いきごんだ。


 だが、おじさんの動画はいつまで経っても再生数がびない。

 生放送をしても視聴者が来ない。コメントがない。とにかく、人気が出ない。

 起死回生のオフ会を地方のイオンモールで決行したものの、参加者0人。

 それもそのはず、おじさんはルックスに難あり。数少ないコメントでそれを指摘され、おじさん意気消沈いきしょうちん

 おじさんはクソザコメンタルだった。


 しかし、そんなおじさんにも転機てんきが訪れた。

 VTuberブイチューバー流行りゅうこう

 はじめ、おじさんは興味を示さなかった。

 キャラクターに声を当てるという行為は自分がプロとしてギャラもらって初めて成立する、という謎のプライドの高さゆえ、おじさんはかたくなに手を出さなかった。

 ところがバ美肉びにくぜいの登場で、おじさんのガラスのようにもろいプライドはいともたやすく崩れ去った。

 バ美肉とは、“バーチャル美少女セルフ受肉じゅにく”の略。

 もともと、男のに並々ならぬ興味を持っていたおじさんは、しかし、その小太りな体形と難のあるルックスから、女装は避けざるを得なかった。

 だが、バーチャルであればこれを難なくクリアすることができる。そう思いついた。


 おじさんには野望がある。

「この山田寛には夢が(以下略いかりゃく

 子供部屋で過ごすおじさんは、低収入ではあったが一切、生活費がかからないという親不孝おやふこう者特有の恵まれた環境ゆえ、小銭だけは十分持っていたので必要なアプリと機材をそろえ、同人活動をしている謎のエロ絵師えしに小銭を積み、オリジナルキャラクターを描き下ろしてもらい、これまた別の同人3Dモデラーに小銭を積み、念願のVTuberデビューを果たした。



 ――爆乳大魔王美少女VTuber“パラコッチディオイドゥミコシスプロクティティスサルコミュコシス・カーカスコッツオキシダイズドスプラッタードディスゴージガイ”の誕生である!

 長いので、イニシャルから通称“パカ”ちゃん。


 おじさんは、バ美肉との親和性が非常に高かった。

 声優を目指して何度も養成所に通っただけのことはあり、それなりの声質と演技力をもっている。

 決してイケボのたぐいではなかったが、その見かけからは想像ができないほど、声が高く透き通っており、これにエフェクターを通すとまさに美少女ボイスが完成。

 生まれてこのかた、一度も女性と付き合ったことのないおじさんの理想とする女性像は極限まで高く、それでいてすべて想像でしかないため、ピントがずれてすっとぼけている。

 やたらと完成度の高いえちえちモデリングと無駄にすきだらけの天然キャラにえ声がマッチし、これがやたらとウケ、一気に人気VTuberとなった。


 だが、不覚にもおじさん、自分がバ美肉勢であることを伝え忘れてしまった。

 アップした動画にも生放送でも、正体がおじさんであることを伝えなかったため、急に獲得した人気を手放したくないと欲が出てしまい、正体をバラすことができないまま、無駄に時が過ぎた。


 そして、とうとう運命の日を迎えてしまった。

 ファンの間で“魔王の黄昏ラグナロク”と呼ばれる恐るべき事件、黒歴史。



 その日、おじさんはいつものように、生放送をしていた。

 おじさんは生放送と動画投稿で小銭を稼ぐことができていたため、アルバイトを休みがちになっていた。

 その日も一日、パソコンの前にかじりつき、コーラを飲んでは生放送を、飯を食っては生放送、ゲームをやっては生放送、オナニーしては生放送、と盛りのついた犬のように、生配信をおこなっていた。


 いわゆるゴールデンタイムと呼ばれる時間帯、おじさんは今日何度目かの生放送を開始した。

「人間どもぉ~、だYo♡今夜もうぬらを支配しちゃうぞぃ♪」

 いつものように意気揚々いきようようと配信をはじめた。

 おじさんは今日、テンションが上がっていた。

 おじさんがハマッているアイドル育成ゲームのイベントが今日からはじまり、推しキャラの新しいSSRが登場するからだ。

 重課金するつもりでスマホを握り、配信。

 まずは無課金で10連ガチャが誰でも引けるので、それを行う。

 すると、なんとっ!

 一発目の一枚目で推しキャラ登場!!!

 おじさんの喜びようは最初からクライマックス!

 獣のように叫び、体全身で喜びを表現する。もちろん、意図したものではない。


 そんな一人で大暴れするおじさんを悲劇が襲う。

 異変に気付くまで、少し時間がかかった。

 コメント投稿数が異常。

 普段からすでに人気者になっていた配信のコメントの流れは速い。

 しかし、その時の加速は尋常じゃない。

 ふと、コメントに目をやる。


「おえーーーーー」

「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

「ちょwww」

「じじい!!!」

「デブ!」

「ブタじゃねーかw」

「なんだこのヒゲだるま!?」

「くぁwせdrftgyふじこlp」

「ぶっさwコミュ抜けるわw」

「スクショ!」

「かーえーれ!かーえーれ!」


 ――ハッ!!!

 推しキャラを引き当て、テンションMAXのおじさん、暴れ過ぎてキーボードクラッシュするほどリアクションし、こともあろうかフェイストラッキングソフトが無事、死亡。

 結果、おじさんの顔が生配信に乗ってしまう。

 1日中放送をしていたため、ヒゲは伸び、髪はボサボサ、目ヤニと歯クソが溜まりにたまった満面の笑みを浮かべる“化物”がそこには映っていた。


「ひゃあああああああぁぁぁあああアアアあああアアアぁン!!!!!!!!!!」


 おじさん、絶唱ぜっしょう

 あまりの驚きに、おじさん白目をいて泡を吹く。

 おじさんの豆腐メンタルは、これから予想されるムゴイ仕打ちに耐え切れず、その蚤の心臓は鼓動を止める。

 おじさんは、死んだのだった――



―――おじさん、永眠えいみん……享年、アラフォー




 どこからともなく聞こえる声……


「女神は言っている、ここで死ぬサダメではない、と――」


「!!!?」

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