第1話:虚構との遭遇
この日は夏と言う訳ではないのに、猛暑日とニュースでも報道されていた。まだ、六月の上旬である。
その中で、自分は気分転換である場所へと向かい、そこで運命を変えるだろう存在に出会う。
あのゲームが草加市だけでなく、日本全体に警鐘を鳴らすような問題を表面化させていた事に、気付く訳もない。
そして、ギムレーと言う人物が架空の存在ではなく本当にいたという事実にも。
全ては自分が、あの場所であの映像を見たことでフラグが立っていたのだろうか? 真相は、どちらにしても分からずじまいだが――。
『時代は令和に突入した。SNS上で様々な話題があり、それが大きな争いを呼び込むのではないか――?』
インターネット上で公開されている
PVが流れている場所、それは渋谷や池袋、新宿と言ったような都市ではない。ビルに設置された大型ビジョンで映し出されているのは事実だろうが。
『そう思う人物がSNSを炎上させて拡散し、まとめサイトがそれをさらに拡大させてSNS炎上時代を生み出している』
目の前に映し出された人物は、ファンタジーで見かけるような
秋葉原であれば足を止める通行人は多いかもしれないだろう。しかし、ここは――そう言った条件に当てはまる場所ではない。
『平成の時代には様々な事件が起きたのに、令和になっても未だに広まっているのは嘆かわしいと思わないか?』
この人物は、冷静と言うには微妙に違う口調でしゃべり続けている。選挙でもないのに、この場所でPVを流す必要性はあるのか?
周囲の通行人は様々な事を思いつつ、しばらくしてから止めていた足を進めていた。
『我々は、憎しみで今回の計画を実行する訳ではない。あくまでも、その目的は――』
内容を聞いていく内に興味をなくしたギャラリーは、ショッピングモールや商店街、もしくは銀行へと足を進めていた。
PVの流れた場所、それは埼玉県草加市である。先ほどのPVが流れていたのは、草加駅の近くにある大型モニターだったのだが。
これが超有名アイドルの
このPVがゲーム作品だというのは、あの黒騎士のデザインやバーチャル系アイドルとは違うテイストがあった段階で分かった。
どう考えても、こういうPVは秋葉原などで流した方が宣伝的な意味でも効果的だとは思う。
(ここで流す意味があるのだろうか――)
しかし、彼はメガネをかけており、身長も170位あるので目立たない訳がないだろう。
それに加えて、顔も少しはイケメンなのでその手の男性に反応する女性が気にしない訳はないのだが、そう言った流れもなかった。
周囲にいるのは観光客でもなければ、ヲタクと言う訳でもない。ごく普通の一般市民と言うべきだろう。だからこそ、周囲のギャラリーは興味を失ったと言うべきか。
それからしばらく歩くと、そこには雪華も驚くしかない光景があった。会場は大型ではないが、そこそこの広さの多目的イベントホール。
入口の立て看板に書かれていたのはゲームイベントと明記されているようには見えるが、実際には違う物だった。
特に入場制限もかかっていないので、中へ入る事にする。入場料も無料と書かれているのだが、雪華は気付かずに入場した形だろう。
「これは――?」
準備中という訳ではない。本当にギャラリーの数は数十人程度で、指折り数える程度で計算が終わってしまう。
メジャーゲームのイベントであれば更に人の数がいてもおかしくはないのだが、これはどういう事なのか?
実際にはマイナーゲームのロケテストと言う形に加え、ストアイベントを行おうという事らしい。さりげなく、未告知のゲリライベントの類だ。
ゲリライベントであれば人の数が少なくてもおかしくはないと思いつつ、雪華は適当なパイプ椅子に座る。
ワンドリンクがある訳ではないが、ギャラリーの何人かは飲み物を持参していた。机のある席も存在するので、そう言う事なのかもしれない。
それから十分後、ギャラリーの数も増え始める。もうすぐイベント開始と言う事で、数が集まっているのだろうか。
会場のセンターモニターでもPVが流れ始め、ギャラリーの数人がそちらへと視線を合わせた。
何人かは歓声をあげ、更には特定のキャラクターが出ると思い思いの声を――という光景も見られる。
(この動画、何処かで見覚えがあるような――?)
雪華は今の段階で気付くべきだった。自分がドアを叩いたのは、他のゲームではなかったからである。
その作品の名前は『虚構バトルロイヤル』と言い、後に大きな騒動を起こすであろうイースポーツゲームだった。
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