第15話「もっと夢中になって」






   15話「もっと夢中になって」




 誕生日だからと言って浮かれてしまっていたのは、自分でもわかっている。そして、初めて秋文の家に着て、そして豪華な部屋に驚きながらも、ドキドキが更に増してしまっていた。綺麗な部屋だけど、少し乱雑に置いてある服や靴、本などを見ては、自分しか知らない彼を見ることが出来て、嬉しくなっていた。


 自分から抱きついてしまったのも、きっと誕生日のせいだ。

 そう言い訳をしてしまうけれど、それでいい。

 秋文ともっと一緒にいたいというのは、本心なのだから。




 「………。」

 「えっと、秋文?……だめ、かな……。」


 

 いつまで経っても返事が来ないので、千春は恐る恐る彼を見上げた。

 すると、彼の腕が伸びてきて、頭の後ろを優しく支えられ、そのまま前髪をあげられて、額にキスをされた。 



 「ん……秋文。」

 「おまえな、今日、なんなんだよ。」

 「え……。」

 「可愛い格好してるし、さっきから可愛い事してくるし。……俺だって我慢してるんだ。」

 


 間近で見る彼は、少し焦りと戸惑いがありながらも、目には熱を帯びていた。

 そんな瞳を見つめると、彼も同じ気持ちだったのだとわかり、胸が高鳴る。



 「……どうして我慢してるの?」

 「それは、おまえが……。」

 「私は秋文とくっついたり、もっと近くに居たいよ。それなのに、それを我慢されたら……私はその方が寂しい……。」

 「……千春。」



 千春は緊張からなのか、少し震えた手を伸ばして彼の頬に手を当てる。

 こんなにもドキドキしているのに、秋文に触れるだけで安心してしまうのだ。彼の熱には何か不思議な力でもあるのかと思ってしまうぐらいに。



 「秋文の事、友達からのスタートだったけど、付き合ってから好きになれるかなって思ってた。けど、秋文は、ずっと優しくしてくれた。利用してもいいって、信じられないことも許してくれて、沢山甘えさせてくれた。そして、私の外面だけじゃなくて、私自身を好きになってくれたんだって、わかった。」

 「……好きだったのはずっとだったし。……利用されるとか、甘えさせるとか、そんな事は関係なかったんだ。俺はただ、お前と一緒にいられればそれでよかったんだ。」

 「……好きになるのはあっという間だったよ。……もっと早くから秋文を好きなればよかった。」




 そう言って千春が微笑むと、目からポロリと涙が流れていた。自分でも泣いてしまっている事に驚き、両手で涙を拭おうとした。

 その千春の腕を秋文が優しく掴み、動きを止める。そして、千春の瞳に溜められた涙にキスをした。



 「俺の事を想ってくれて……好きなってくれるなんて、信じられない…。けど、本当なんだよな?」

 「うん。秋文が好き。都合が良いって言われるかもしれないけど………。」

 「俺にとっては都合がいいから、いいだろ。」

 「秋文ったら………でもね、ずっとずと好きでいてくれたのに、気づかなくてごめんね。」

 「今、好きになってくれたならいい。」


 

 目を細め、口は緩やかな弧の字に笑い、幸せそうな秋文の顔を見ると、千春はまた涙を流した。


 今度は、自分に甘えて欲しい。

 そう願ってしまう。



 秋文にキスを繰り返しされると、先ほど食べたチーズケーキの甘い味がしてきて、秋文もそうなのかと思ってると「甘い、な。」と彼がキスの合間に微笑みながらそう言った。

 


 「同じ事考えてた。」

 「じゃあ、俺が今考えてることわかるか?」

 「……………ベット行きたい、とか?」

 「正解っ!」



 秋文は、私の腕を少し乱暴に引っ張り、廊下の一番手前の部屋に入った。

 黒のインテリアに、グレイのベットカバーの彼らしい寝室だった。秋文は、部屋の間接照明だけを付けて、大きなベッドに座った。

 そして、恥ずかしくなりながらもついてきた千春を抱き締めながら、ゆっくりとベットに押し倒した。



 「もう待てないからな。」

 「えっと…………シャワーを浴びたいなーなんて………。」

 「無理だ。煽ったのはお前だ。」



 その言葉の後、秋文は千春の顔の横に両手腕をついて閉じ込めながら唇にキスをした。

 そして、そのまま、頬や額、首筋と小さく口づけを落とした後、耳をいやらしく舐めると、千春の体がビクッと跳ね、そして、小さな声が漏れた。耳元で「耳弱いんだな。」と、クスクスと笑いながら言われると、それだけで体が震えてしまう。


 少しずつ服を脱がされ、秋文も脱ぎ、素肌のまま抱き締められると、千春はまた涙が出てしまう。



 「どうした?怖い……?」

 「ううん。なんか、幸せだなって。秋文の体はどこも温かくて気持ちいいから、おかしくなりそう。」

 「それは俺の方だ。こんな姿のおまえに、そして甘い声、見たことない顔。ずっとこうしたかったんだ。」

 「………ねぇ、秋文。」

 「なんだ。」

 「私、秋文より夢中になっちゃうかも……。」



 そう告白すると、秋文は驚いた顔をした後、少し企んだらようなニヤリとした顔を見せて笑った。



 「それは、無理だな。俺は何年夢中だと思ってんだ。………千春、好きだ。」

 「私も好き。」



 お互いの気持ちを囁き合ったのはここまでで、その後は彼がくれる熱に溺れてしまった。

 秋文の優しくて温かい包容と、激しく求められる快感に翻弄されながら、もって彼を感じたいと願い、千春は彼を見つめた。

 余裕がない顔で、切なそうに千春を見つめる彼が

いとおしく、目を瞑りたくないと思ってしまう。


 けれど、心地よい気だるさと、彼の少し汗をかきた肌に抱き締められ、千春はゆっくりと目を閉じて幸せの中に浸った。







 

 


 

 

 ふかふかのベットと秋文の香りに包まれて眠っていると、小さく機械音が鳴った。

 いつもの目覚ましの音ではないし、今日は休日のはずだ。微睡みの中で、ゆっくりと目を開けると、秋文がスマホを持って部屋から出ていったのが見えた。少しドアが開いているのか、彼の真剣な声が聞こえる。


 朝から仕事の電話だろうか。彼は本当に忙しいのだなと思いながらも、千春はまだ体に力が入らずに、微かに開いているドアを、呆然と見つめていた。




 しばらくすると、秋文がゆっくりとドアを開けて静かに部屋に戻ってきた。



 「秋文…………?」

 「………千春。起こしたか………悪かったな。」

 「ううん。もう、起きるの?」

 「いや………せっかくの休みだし、ゆっくりする。」



 そう言うと、秋文は千春がいるベットに潜り込んだ。そして、すぐに千春を抱き締めてくれる。



 「あー、なんか夢なのかってぐらい、幸せだな。」

 「………そんなに?」

 「千春は違うのかよ。」

 「ううん。同じだけど……なんか、秋文にそう言われると嬉しくて。そんな事言ってくれる人じゃないと思ってたから。」


 

 友達の頃は、口は悪いし、俺様だし、自分の気持ちはあまり言わない、けれど、いつも楽しそうに四季組にいて、仲間を大切にしている。そんなイメージだった。

 けれど、付き合い始めてからは、「好き」という気持ちを伝えてくれるし、少し恥ずかしいことも平気で言ってくれる。それが意外だったけれど、彼の好きな所のひとつになった。


 大好きな人に、可愛いとか好きだとか、幸せだとな言われる事ほど嬉しいものはないはずだから。




 「そうか?俺はおまえには素直だと思うけどな。昨日の夜の千春は、可愛かったなーとか少し大胆なこともするんだなーとか声が色っぽいとか………….。」

 「っっ!秋文ー、そんな恥ずかしいこと言わないでよ。」

 「いいだろ。そんなおまえも好きだし、ますます惚れた。」

 「………ずるいよ、秋文は。」

 


 からかいながらも、甘い言葉を言ってくれる。

 昨日の事を思い出してしまい、照れてしまい隠れるように秋文とは逆の方向を向く。

 彼はそれを許すはずもなく、今度は後ろから抱き締めて捕まえられる。そして、首筋や肩、背中をキスされてしまい、昨日の与えられた熱がまた蘇ってくる。

 彼の動きに合わせるように、声が出てしまう。




 そんな甘い朝の始まりの戯れは、昼過ぎまで続いたのだった。




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