第4話「我慢は止めた」
4話「我慢は止めた」
秋文の言葉を聞いて、千春は驚き、動きを止めてしまった。予想外すぎる返事に、千春は何を言われたのか、頭で理解するのに時間がかかってしまった。
「秋文、あの、それって………。」
「まさか、言葉の今がわからないわけじゃないだろ?」
「わかるけど………でも、何で、急に。」
秋文の突然の告白に、千春は激しく動揺し、そして、顔を真っ赤にしておろおろとしてしまった。
それに対して、秋文はいつも通り冷静に見えていたけれど、耳がほんのり赤く染まっているのを千春は見つけてしまい、さらに照れてしまう。
彼が自分を恋愛対象として見ていた事に、今まで全く気づかず、そして思ってもいなかったのだ。
仲良しグループの一人だった彼の存在が、この瞬間から違うものになってしまったように千春は感じられた。
「突然じゃない。高校の時からそう思ってた。」
「高校っ!!?そんなに……もう10年ぐらい前だよ?」
「しょーがないだろ。おまえの事、好きなんだから。」
「っっ。」
彼から「好き。」という言葉が出てくると、先程の言葉の意味が頭の中にすとんと入ってくる。
高校の時からの好きだというのは、どういう事だろう?言葉の通りの意味だとわかったいるけれど、どうして私なのだろうか?という、疑問。そして、今まで気づかなかったのだろうか、という申し訳なさを千春は感じていた。
「……俺は千春の事がずっと好きだ。知らないところでおまえが悲しんでいるぐらいなら、俺が幸せにする。……泣かせない。だから、俺を選べよ。千春。」
そう言って、秋文はゆっくりと千春に向かって、手を伸ばした。サラリと、髪の毛を撫でられると千春はまた、胸が激しく高鳴った。
「好きって………。秋文が、私を……信じられないよ。」
意地悪で、いつも言い合いをしていた学生の頃からの友達。何でも相談できる親友の一人。
千春はずっとそう思っていた。
けれど、彼は違ったというのだろうか……?
どうすればいいか、何と返事をすればいいか迷っていると、髪に触れていた彼の手が不意に千春の頬に触れた。
恥ずかしくてうつ向いていた千春は、ゆっくりと視線を秋文に向けると、秋文は少し照れ笑いをうかべながらも、真剣な瞳で千春を見つめていた。
そして、顔を近づけて鼻と鼻をコツンとぶつける。
「こんな事とか、これ以上の事をしたい、自分のものにしたいって思うぐらいに、好きなんだ。」
そういうと、秋文は小さく千春の鼻に唇をつけた。
あまりの突拍子もない秋文の行動に、千春はキスされた鼻を両手で押さえながら、口をあんぐりと開いなまま固まってしまった。
「秋文………。どうして……。」
「おまえが幸せになるなら、俺の気持ちは伝えない事にしてた。けど、おまえ、男選ぶの下手すぎる。……俺、我慢しないことにしたから、覚悟しとけよ。」
「………。」
「今度、返事聞かせて。遠征から帰ってきたら、また来るから。」
その後、秋文はもくもくと夕飯を食べて、すぐに帰ってしまった。その間、秋文が何度か話しを掛けてくれたけれど、千春は上の空になってしまっていた。
秋文の気持ちを知って、自分がどうしたいのか。
全く考えられなかったのだった。
「で、そこで私が呼ばれたわけね。」
「立夏ーーー!助けてよぉー。どーしよぉー………。」
秋文に告白された次の日。
仕事終わりに、千春は立夏と会ってた。
昨日は、一人で考えてみたものの、自分の気持ちがわからなくなり、親友である立夏に千春は連絡をしてしまった。「もーしょうがないな。」と、言いながらも会いに来てくれるのが、立夏の優しい所だった。
「まさか、秋文に告白されるなんて、思ってもいなくて……。すごく驚いちゃって。イヤとかじゃなくて、友達だったから、そんな風に見てなかったし……高校の時から好きだって……わからなかったよ。」
「千春。……本当に気づいてなかったんだね。」
少し呆れた顔で千春を見ながら、立夏はお酒を飲みながらそう言った。
2人の時は、お気に入りの焼き鳥屋さんに行くのが、千春と立夏の最近の流行りだった。そのため、今日も同じ店で、夕食を食べながら話していた。
千春は話したことがたくさんあるため、今日はあまり飲まないようにしようと、ちびちびとチューハイを口にしていた。
「え?」
「秋文が千春の事、好きだったのは私も出も知ってるし、同じクラスやサッカー部の部員もみんなわかってたと思うわよ。」
「えぇ!?そう、なの?」
「気づいてたけど、秋文は好きなタイプじゃないから見てなかったのかと思ってた……。」
「そんな事しないよ!」
「うそうそ。千春はそんな器用なこと、できないもんね。」
立夏は、笑いながらそう言うと、今度は焼き鳥の串を摘まんで、美味しそうに焼き鳥を口に入れた。
「さっき、イヤじゃないって言ってたし、1回付き合ってみてもいいと思うけど。」
「………本当に、自分の気持ちがわからないの。ずっと大切な友達だと思っていたから。男の人として好きなのか、自分の気持ちが整理できないの……。」
大切な友達だからこそ、うやむやな気持ちで返事をしたくない。千春はそう思っていた。
彼は高校の時から、こんな自分を好きでいてくれたのだ。秋文の気持ちにしっかりと答えたい、それが付き合う事になっても、断る事になっても。
「私は、秋文と付き合うのはいいと思ってる。幼馴染みとして自慢できる男よ。口は悪くて、少し強気で俺様な所もあるけど、冷静で努力家だし、サッカーも実力があるし。何より一途だしね。」
千晴と立夏達3人は高校からの友達だったけれど、立夏と秋文と出は幼稚園の頃からの本当の幼馴染みだった。だから、立夏は秋文の良さを千春より多く知っているのだろう。
それで、そこまで褒めているのだ。立夏の性格からして、彼はとても素敵で立派な男性なのだと千晴も理解していた。
「………わかってる。秋文が立派なのは。だから、何で私なんかを選んだんだのか、わからないの。」
「それは秋文にしかわからないわ。」
「うん…………。それにね………私、先輩にフラれたの結構ショックみたいなんだ。自分でもビックリするぐらい。」
「……千春。」
千春は、ほとんど空になったチューハイが入っていたコップをくるくると回しながら、呟くように立夏に本音を伝えた。カラカラと氷がぶつかる音が、小さく響いた。
「だから、ね。好きだって言われたから付き合う、とか。なんか、先輩を忘れるために秋文と付き合うみたいで……利用してるみたいだなって思っちゃうの。そう思うと、秋文とは付き合えないなって。」
「そっか……でも、ゆっくり考えてみて返事してあげて。」
「うん。」
「それとね……。」
立夏は、少しだけ悲しむような、説得するような表情で一度躊躇った後に優しい口調で千春に話し始めた。
「素の自分を見てくれて、「好き。」って言ってくれる人って、なかなかいないと思うよ。」
その立夏の表情と言葉が、千春には妙に心に残っていた。
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